HOME > 執筆 > 部下へ贈る言葉の花束 【第2章-3】

 第2章 人は弱いからちゃんとした人になれる(3)

 
 爪を噛んでいた右手で口をおさえ、

 左手でジャケットのポケットにあるはずのハンカチをあわてて探した。

 

 「すいません。こんなところで」

 

 涙声で言葉をしぼりだし、一瞥すると、

 中村さんもあちこちのポケットに手をやっていた。

 涙がとまらない。


 「これ、どうぞ」
 「えっ」


 目の前に座っていたスーツを着た男性が、ハンカチを差し出した。

 美咲は、驚き口をおさえながら首を横にふった。


 「これ、別にいいんです。会社のノベルティですから、使ってください」

  電車がスピードを落とし始めると、男性は席を立った。

 「じゃあ、洗って返します」

 「そんな、ほんとにいいんです」

 「でも・・・」


 男性は、片手を横にふりながら伏し目がちに、

 雪崩のように降りる人たちまぎれ駅のホームに消えていった。

 会社の駅に着いた。


 ホームに降りると、中村さんは人気の少ないところに走って行き、

 ケータイで電話をしはじめた。

 終わると、美咲のところに駆け寄ってきて言った。


 「部長には、俺から説教するから、直帰させるって言っておいたよ。

  飲み行くか」
 
 「でも・・・」


 美咲はしばらく黙った・・・。


 そして、顔をあげ中村さんの目を見てうなずいた。

 ビルに囲まれた狭い空に、数の少ない星が瞬いていた。


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