「トリックスター」とは、神話学や深層心理学の分野で考察が深められてきたキャラクターです。文化人類学者ポール・ランディが、アメリカ先住民の神話に登場する「トリックスター」を論考したことで世に広まりました。
深層心理学者C・G・ユングの理論にも組み込れていて有名です。日本では「スサノオ」、北欧神話「ロキ」、ギリシア神話「ヘルメス」などが有名です。
トリックスターは「愚か者」と嘲笑され、失敗ばかりしでかす存在ですが、時に、英雄的偉業を成し遂げます。この英雄的側面は、見逃されがちでトリックスターへの理解を一面的にしています。
「狡猾さ」「悪知恵」「権威を愚弄」など、決して道徳的には褒められる存在ではないのですが、その「愚かさ」ゆえに、境界を越えて幅広く行動する特性をトリックスターはもっています。
ですので、キーになるキャラクターとして、新たな局面を次から次へと切り拓き、物語を前へ前へと進める力をもつのがトリックスターです。
この「境界を越える」という行動特性は、リーダーに求められるひとつの資質であり、リーダーシップと親和性が高いものです。筆者は、10年以上に渡りリーダーの皆さまのご相談にのってきました。
その相談プロセスにおいて、リーダーたちが「境界を越える」行動をとり、行動範囲が拡大していくことでリーダーシップが強化されていくことを知りました。
この意識変革と行動変容は、自分を「愚か者でいい」と笑い者にできるような、一種の「開き直り」によってなされることが多いと感じています。その心性の中核にあるのが「トリックスター性」なのです。
そこで本書では「トリックスター・リーダーシップ」という新たなリーダーシップ論を提唱します!
理論だけでは退屈ですので第4章では、「ニッコロ・マキャベリ」「織田信長」「坂本龍馬」「本田宗一郎」「スティーブ・ジョブズ」「AKB48高橋みなみ」「稲盛和夫」のリーダー・スタイルやその生き様を追いかけることで、より具体的に「トリックスター・リーダーシップ」をイメージできるよう腐心いたしました。
昨今の企業組織は、コンプライアンスへの配慮からか「性悪説」にたった組織づくりが進行しています。「あれもだめ、これもだめ」と、やや神経症とも思える組織風土が形成されるなか、課された目標を達成しようとするリーダーの皆さまのご苦労は、計り知れないものです(本当にいつもお疲れ様です・・・)。
硬直化した組織風土において、変革やイノベーションを引き起こすリーダーたちは、その初動においてほとんどのケースで笑い者になります。ですが、リーダーたちは、自分の成すべきコトに焦点をあてて前へ進み続けます。こうした「コトあれイズム」をもったしなやかなリーダー像が「トリックスター・リーダーシップ」の根底にあるものです。
本書には収録しませんでしたが、この本を書くうえでインスパアされた言葉があります。
英国の偉大な作家チャールズ・ディケンズのものです。全世界で今なお読み継がれる名作「クリマス・カロル」で、こんな言葉をつむいでいます。
闘う人を笑うより、闘って笑われるリーダーでいたい」。
そのためのヒントを本書では、ご用意いたしました。もしよろしければ、お手元に1冊・・・。
※本書は、現在、絶版とっております。中古本または電子書籍であれば、アマゾンなどネット書店からお買い物いただけます。