ジェイミー・ジョセフ(James Joseph)は、2023年開催のラグビー・ワールドカップ(フランス開催)にて、男子日本代表を率いるヘッドコーチ(HC)である。2019年開催のラグビーW杯(日本開催)に続いての就任となった。
2019年W杯(日本開催)では、「One Team」(ワンチーム)のスローガンを掲げた。予選ラウンドでは、ロシア、サモア、アイルランド、スコットランドに全勝し、初のベスト8進出となった。
ジェイミー・ジョセフは、ニュージランド出身。ニュージランド代表チーム「オールブラックス」にも選出されたこともある。1995年第3回W杯(南アフリカ開催)で、準優勝したメンバーのひとり。
日本社会人リーグの「サニックス」(宗像サニックスブルースは2022年で活動休止)に所属し、2000年までプレーを続けた。1999年には、平尾誠二監督のもと、日本代表の選手としてウェールズで開催された第4回W杯に出場。日本代表のキャップ数(日本代表試合出場回数)は、9キャップ。
現役引退後、2003年からラグビー指導者として活動を始める。2011年、ニュージーランドのラグビーチームである「ハイランダーズ」のHC(ヘッドーコーチ)に就任。2015年、スーパーラグビーで優勝を果たす。
世界の強豪南アフリカを撃破した2015年W杯(イギリス開催)で日本代表を率いたエディー・ジョーンズHCが退任すると、2016年、ジェイミー・ジョセフが日本代表ヘッドコーチに就任。2019年、2023年W杯と2期続けて、ヘッドコーチとして活動している。
過去のインタビュー記事などから、ジェイミー・ジョセフHCの記憶に残る名言を紹介する。
目次
ジェイミー・ジョセフの名言❶:絆を深めることが成功の秘訣です
2019年W杯(日本開催)でのスローガンは、「ONE TEAM」でした。その年、流行語大賞に選ばれました。2023年W杯は、「OUR TEAM」がスローガンです。
「OUR TEAM」は、2022年9/13、日本代表合宿の場で発表されました。稲垣選手は、「ワンチームは、一つになるという意味合いだったけど、スタンダードを上げ、さらに独自のチームを作り上げていくという意味合いが強い」と述べました。
当時の主将坂手淳史選手は、「全員が責任を持って、役割をやり続ける。やり合わさると、自分たちのチームになる」(サンスポweb版 2022/9/14)と語りました。
この時、「絆」「勇気」「導く」を信念にすることも話されました。
フランスW杯(2023)開幕前、ジョセフHCは、日本テレビのインタビューで、「絆」について語っていました。
絆とはお互いなくてはならないという意味だと理解しています。様々な文化から強みを引き出し絆を深めることが成功の秘訣です
「絆」
2011年東日本大震災が発生した年、「今年の漢字」第1位として清水寺で発表されました。絆が深まることで、ひとりでは不可能なことも、可能になります。
ジェイミーHCは、「絆」を「お互いなくてはならない」という意味と解釈しています。人はひとりでは生きられません。自分が生きるためには、他人の存在が必要不可欠です。そのことが腹落ちした時、「絆」が生まれ、チームとして、より強くなっていくのです。
ジェイミー・ジョセフの名言❷:選手に自信を与えなくてはならない。
前エディー・ジョーンズHCは、「世界では勝てない」と言われていた日本代表チームを世界レベルに引き上げました。南アフリカに対する勝利(2015イギリスW杯)は、多くのラグビーファンの記憶に残るものになりました。その勝利は「スポーツ史上最大の番狂わせ」とも呼ばれました。
エディーHCのチームづくりのベースには、徹底した「マネジメント」(管理)がありました。練習や試合での詳細な指示はもちろんですが、ホテルでの服装までエディー前HCは厳しく注意しました。
エディーHCからジェイミーHCとなり、チームの雰囲気は変わりました。当時の主将リーチ・マイケルは、こう語っていました。
エディージャパンのスタンダードと、ジェイミーのそれとは違って、たとえばホテル内の服や靴についてもすごく厳しかった。ジェイミーはそうじゃなくて、〝もうちょっとゆったりして練習できる環境を作りたい〟と。
『ラグビーマガジン 2019年11 月号』(ベースボール・マガジン社)p10
僕は最初(エディー)同じくらい厳しくやりたかったけど、柔軟性を持って、コミュニケーションをとりながらやってきた。(byリーチ・マイケル)
エディー流の「管理」に対して、ジェイミーHCは選手の「自主性・主体性」を重視しました。自分で考え、自分で動ける選手を育もうと、「もうちょっとゆったりして練習できる環境を作りたい」とリーチ選手に言ったわけです。
つまり、ジェイミーHCは、管理を徹底する指示命令型のリーダーシップ・スタイルをとるのではなく、大枠は決めるけれど、細かいところは選手たち自身で決めさせる支援型のリーダーシップを発揮していったのです。
それを象徴する言葉が次のものです。
ヘッドコーチの重要な仕事とは、選手が信じることのできる環境を創造することです。選手に自信を与えなくてはならない。それが私の務めです。
「もうちょっとゆったりして練習できる環境を作りたい」という言葉があったものの、日本代表合宿での練習の厳しさはエディーHC以上といわれています。
それがジェミー・ジョセフHCの考える「選手が信じることのできる環境の創造」であり、「選手に自信を与える」ことなのです。
ジェイミー・ジョセフの名言❸:人間として成長して欲しい。
ジェイミーじ・ジョセフHCは、2002年に現役を引退しました。その後、ニュージランドに帰国しています。指導者となり、コーチとして様々なチームでキャリアを積みました。そして、2011年、「スーパーラグビー」(現スーパーラグビー・パシフィック)におけるニュージランドの強豪チーム「ハイランダーズ」のHC(ヘッドーコーチ)に就任します。
「スーパーラグビー」(SR)とは、「ニュージーランド」「オーストラリア」「南アフリカ共和国」「アルゼンチン」など、ラグビー強豪国のチームが参加するラグビー・リーグです。
余談ですが、かつて日本も2016年〜2020年まで「サンウルブズ」というチーム名で、スパーラグビーに参加していました。スーパーラグビーの主催団体であるSANZAARから、リーグ除外が発表され、残留の交渉をしたものの条件が合わず「サンウルブズ」は活動休止となりました。
ラグビー王国ニュージーランドには、当時、「ハイランダーズ」をはじめ「クルセーダーズ」「ハリケーンズ」など計5つのチームがありました。(2023年時点、6チームで構成)
「ハイランダーズ」は、ジョセフHCの就任した時、無名の選手が多く弱小チームでした。そのチームをわずか4シーズンで優勝へ導いたのがジョセフHC です。
ところが、優勝までのプロセスにおいてジョセフHCは、苦い経験をしています。
2013年、チームが強くなり、実績をあげ始めると、オールブラックスに選ばれるスター選手を加入させました。ところが、そのスター選手たちは試合で個人プレーに走り、チームは14位と低迷してしまうのです。
スター選手たちは「フォア・ザ・チームの精神」に欠けていました。ジェイミーHCは、チームにマイナスの影響を及ぼすスター選手に辞めてもらうという苦渋の決断をします。その後、無名でありながらも「フォア・ザ・チームの精神」を持つ選手を補強・抜擢し、チームカルチャーを変えていきました。
そして、2015年、スーパーラグビーで優勝を果たすのです。
優勝までのプロセスで、「フォア・ザ・チームの精神」の持ち主としてチームカルチャーを変える軸となった選手がアーロン・スミス(2011年加入)です。ニュージーランド代表「オールブラックス」になり、世界最高峰のハーフと呼ばれている選手です。ちなみに、アーロン選手は「トヨタヴェルブリッツ」に加入することが、2023.3月に発表されました。
どれだけ選手個々に実力があっても、チーム・スポーツは、個の実力だけでは勝てません。ラグビーは特にそうです。個の実力が掛け算されて、チームの実力となります。その掛け算の役目を果たすのが「フォア・ザ・チームの精神」です。個々の選手にチームのために尽くす精神がなければ、チームは強くなりません。
ハイランダーズ時代の苦い経験があったからというわけではないでしょうが、ジェイミーHCは、こんな言葉を残していました。
「チームカルチャーというのも私のコーチング理念の大きな部分を占めます。
ラグビー選手としてだけではなく、人間として成長して欲しい。
これまでも私はここに熱意を持ってやってきました。 1人よがりではなく、チームが進む方向に自分を合わせて、 真剣に取り組むところと楽しむ部分の バランスが優れている選手を求めています」
「ラグビー日本代表「“名将”ジェイミー・ジョセフってどんな人?」 指揮官を知る“3つのキーワード”」
(『文春オンライン』 ラグビージャーナリスト村上 晃一)
プロ・スポーツ選手が現役時代を過ごすのは、短いものです。怪我で引退を余儀なくされると、選手によっては数年というケースもあります。現役時代より、その先の第2の人生のほうが長いのです。
だから、指導者の多くが、選手としての成長を祈りつつ、人間としての成長を祈るわけですね。
選手の人間としての成長を願うのが、人間として成長した指導者の姿といえます。
ジェイミー・ジョセフの名言❹:日本が大好きで愛している
2019年日本W杯にて、世界の強豪アイルランド、スコットランドを破り、初のベスト8進出を果たしました。大会終了後も熱狂は続き、メディアは連日、ラグビー日本代表のニュースをお茶の間に届けました。
そんな中、次のヘッドコーチは誰になるのかも話題となっていました。ジェミーHCの続投が期待される中、ニュージーランドラグビー協会が2019年11月6日、次期ヘッドコーチの候補として26名の名を挙げました。その中に、ジェイミー・ジョセフの名がありました。(AFP)
「ジェイミーHCは、オールブラックスの指揮官になるかも…!?」
その不安が払拭されたのは、わずか12日後のことで、日本ラグビーフットボール協会は、11月18日、ジェイミーHCの契約更新を発表しました。続投が決まったのです。
日本W杯(2019)が終わった後、ニュージランドに帰国していたジェイミーHCは、年が明けた2020年1月、来日にして記者会見を開きました。
その場で、続投を決めた理由について語っっています。
「決断は難しいものではなかった。悩みもあったが、私と家族の課題で。悩みはありはしたが、長い目で考えた。理由はシンプルに2つ。日本が大好きで愛している。そして仕事を続ける責任がある。これまでのように強化、発展させていかないと思ったからだ」
日本人よりも日本のことを愛している。
そう感じさせる海外出身の指揮官がいます。2023年沖縄でも開催されたFIBAバスケットボールW杯を率いたトム・ホーバス監督もそのひとりです。前ラグビー日本代表HCのエディー・ジョーンズの母親は日系2世で、夫人は日本人で、日本のことをよく学んでいました。
日本に長くいると感じられない「日本のよさ」「日本人の強み」を発見し言語化し、その力を引き出してくれます。海外で育った人だから、その言葉には説得力があります。
日本が大好きで愛している。
日本人が学びたい「認める力」といえます。
ジェイミー・ジョセフの名言❺:私はわかっている。君たちは準備ができていることを。
2023年ラグビーW杯(フランス)で主将を務める姫野和樹選手が、処女作『姫野ノート「弱さ」と闘う53の言葉』(飛鳥新社)を出版しました(2023/8/4)。この本の中で、2019年ラグビーW杯のミーティングで、ジェイミー監督が読み上げた詩についてふれています。
No one thinks we can win.
No one thinks we can even come close.
No one knows how hard you’ve worked.
No one knows what sacrifices you have all made.
You know we are ready.
I know you are ready now.
誰も勝てると思っていない。
接戦になるとさえ、誰も思っていない。
君たちがどれだけ積み重ねてきたかは、誰も知らない。
君たちがどれだけの犠牲を払ってきたのかも、誰も知らない。
だが君たちは知っているはずだ。
我々が準備できていることを。
私はわかっている。
君たちは準備ができていることを。
この詩は、『耳を傾けるのはノイズではなく「自分の声」』という章で紹介されていました。
アスリートには様々なノイズが届けられます。負けた時の誹謗中傷はその代表例です。SNSが広く普及した現代では、世間からのノイズは鋭さを増していて、選手たちのメンタルに大きく影響し、成績を左右することがあります。
姫野選手は、「流石にSNSを禁止にまではしないが、合宿中や大会期間中はテレビのスポーツ番組や新聞、ウェブニュースはまず見ない。」と書いています。そして、ジェミーHCの詩を紹介した後に、こんな言葉を記しています。
そう。自分がやってきたことは、自分にしかわからない。これはスポーツだけではなく、何でもそうだ。何も知らない外野の声よりも自分自身の声、自分たちの声を信じるという、ごくごく当たり前のことをするだけでいい。そう意識を変えることは、きっと誰でもできるはずだ。
『姫野ノート「弱さ」と闘う53の言葉』(飛鳥新社)
まさにその通りですね。最後の最後、信じるのは自分たちの声です。
共に練習を重ね、共に血のにじむ努力をした、自分たちの声=「Our Team」の「声」が最も信頼できる耳を傾けるべき「声」です。
・9/10 ⚪️🇯🇵日本42 V.S チリ12
・9/18 ⚫️🇯🇵日本12 V.S イングランド34
・9/29 ⚪️🇯🇵日本28 V.S サモア22
・10/8 🇯🇵日本 V.S アルゼンチン