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集合的無意識とは〈ユング心理学〉

ユング心理学「集合的無意識とは」のアチキャッチ画像

 集合的無意識(Collective unconscious)とは、分析心理学者C.Gユングが提唱した「無意識」に関する概念であり、個人の人生経験から構成されうる「個人的無意識」と区別された、心の深層に潜在する人類に共通したパターン(元型)で成立する「無意識の層」である。

 ユングは『元型論』(紀伊国屋書店)の中で、集合的無意識について次のように記している。

『元型論』(紀伊国屋書店)
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「集合的無意識とは心全体の中で、個人的体験に由来するものでなくしたがって個人的に獲得されたものではないという否定の形で、個人的無意識から区別されうる部分のことである。個人的無意識が、一度は意識されながら、忘れられたり抑圧されために意識から消え去った内容から成り立っているのに対して、集合的無意識の内容は一度も意識されたことがなく、それゆえ決して個人的に獲得されたものではなく、もっぱら遺伝によって存在している。」

『元型論』(C.G.ユング 訳 林義道 紀伊国屋書店)p12

集合的無意識(Collective unconscious)は、ユング心理学の特徴をなす「元型論」を構成する核となる考え方である。例をあげながら、できるだけわかりやすく解説していく。

集合的無意識からの夢

 深層心理学では、心を「意識」と「無意識」にわけて考えます。

 ユングは、さらに人間の「無意識」を2つに分けました。

 ひとつは、「個人的無意識」(Personal Unconscious)で、もうひとつが「集合的無意識」(collective unconscious)です。ですので、ユング心理学ではひとつの心を3つの層に分けるのです。

ユング心理学 3つの意識領域

「意識」(consciousness)
「個人的無意識」(Personal Unconscious)

「集合的無意識(普遍的無意識)」(Collective Unconscious)

 「集合的無意識」は、「個人的無意識」のさらに深いところにあり、個人の現実的な人生経験を超えた人類に共通する「心の型」(元型)によって構成されています。

意識と個人的無意識と集合的無意識のイメージ図
ユング心理学の「3つの意識」

 ポイントになるのは、「個人の現実的な人生経験を超えた人類に共通する「心の型」(元型)」という点です。個人の経験を超えているとは、どういったことでしょう。

 それは睡眠中にみる「夢」について考えると、わかってきます。

不可解な夢は誰が作り出した?

 例えば、普段の自分ではとても想像がつかないような神秘的で非現実的な「夢」を見たことがないでしょうか。

 光に包まれた神様や天使が現れたり、宇宙空間をものすごいスピードで飛んでみたり、UFOが自分の家の中に着陸したり、仲の良い友だちと一緒にUFOに乗ってみたり…。スケールが壮大で神秘的でわけがわかりません。神秘的かつ非現実的ですが、とてもリアルでインパクトが強く、目が覚めた後もしばらく「夢の世界」の余韻が残ります。

 これが「現実的な人生経験を超えている」という点です。

 そんな超越的な夢見た時、ふと思います。

 「この夢は、いったい誰がつくり出したんだ?どこから来たんだ?」

 映像のCG技術が進歩した現代では、「過去に見た映画やTVドラマの記憶が組み合わさり超越的な「夢」はできあがった」と、そう説明することができます。例えば、「スターウォーズ」とか「アベンジャーズ」シリーズの映画を見た夜に、宇宙人と闘う夢を見たら、ただの「記憶の再生」と考えられます。

 ただ、今から約100年前のユングが生きた時代に「ヨーダ」も「ダースベイダー」も「アイアンマン」も「キャプテン・アメリカ」も存在しません。それなのに、「神話」に描かれているような超越的なイメージが「夢」には、たくさん現れてきました。「神話」をとても知っているとは思えない人たちにもです。

 そこでユングは考えます。

個人がもつ「無意識」とは異なる心の領域(集合的無意識)があって、そこから夢が来ているのだ。

 ただ、SF映画はありませんが、芸術作品として小説、絵画、彫刻などがありました。神様がテーマになり、非現実的な世界が描かれている物語が存在していました。超越的な夢も「自分の記憶でつくりあげたもの」と考えることもできます。

 ですので、ユングは批判されました。ユングの師であったフロイトは「集合的無意識」の考え方を認めませんでした。

まっつん
まっつん

 ユングは今でいう統合失調症の患者を診ていました。不可思議な物語(例えば、自分は神様だ、他の星からやってきた来た、など)を、えんえんと話し続ける患者たちです。そうした人たちをユング、は精神科医として全力で理解しようとしました。

 当時の医師たちが見向きもしなかった患者たちの発する「意味不明」な言葉を、説明できるように奮闘したのです。

 太陽について話す患者は、ある神話と同じことを口にしていました。全くでたらめではなかったのです。そこで、ユングは「集合的無意識」のヒントになる世界に散らばる「神話」を集めて、研究するようになります。

 「神様の声が西の空から聞こえてくる」「私は金星から来た使者です」「太陽の王である私に近づくな」

 患者たちの意味不明な言葉や動作は、個人的な人生経験によってつくられる「無意識」とは異なる「集合的無意識」を設定すれば説明がつきます。超越的要素を含む「集合的無意識」に「意識」が飲み込まれているので、患者たちの言動は非現実的になるのです。

 そう考えると、不可解な言葉にも理解の糸口を見つけ出すことができ、「無意識」が、何らかの創造的な行いをしていることになります。

 フロイトは「無意識」を、否定的に認識していました。心の病の原因となる要素が、抑圧されてある場だと考えていました。ユングは違います。ユングは、フロイトの意見を部分的には認めつつ、病を癒し人格発展を発展させるエネルギーのある場だと、無意識をより肯定的にとらえ直したのです。

 ユングは「無意識の創造性」に着目した心理学者でした。

無意識の創造性

 フロイトとは違い、ユングは「集合的無意識」を含める「無意識」と上手につきあっていくことで、人は、より創造的な人生を歩むことができると、考えました。

 その根拠は、ユングが行った「夢分析」での治療体験にあります。

 「夢」は、無意識から届けられるメッセージです。メッセージだと言い切れない意味不明な夢も、たくさんあります。ですが、そこに含まれた意味をつかむことができれば、自分らしく生きるヒントやエネルギーをもらえるのです。

 ユングは『自我と無意識』(第三文明社)の中で、こう書いています。

『自我と無意識』(C.G.ユング 第三文明社)
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「無意識には、個人的な抑圧物とならんで、集合的な空想の衣まとった個性発展の萌芽も含まれている。個人的無意識を分析していると、集合的な素材が、同時に個性のさまざまな要素をともなって、意識へ導かれてくる」

『自我と無意識』(C.G.ユング 松代洋一・渡辺学訳 第三文明社)P68

 個性発展の萌芽となるヒントは、「集合的無意識を含めた無意識」から届けられることがあります。

 それは、心の病を癒したり人間性を成長させる創造的な「心の働き」です。

 ユングは、『自我と無意識』(第三文明社)で、こうも書いています。

「集合的心を征服することから、はじめて、真の価値、財宝や無敵の武器や魔法の護身具といった、およそ神話が願わしいものとして考え出すかぎりのものが獲得される。」

『自我と無意識』(C.G.ユング 松代洋一・渡辺学訳 第三文明社)P87

 このユングの言葉は、「神話の英雄」が成し得ることについて語ったものです。現代を生きる私たちにとって「集合的無意識」を征服しようとすることは、とても難しい危険な行いです。

 ただ、夢を理解すれば、そこから「個性発展」(個性化)のヒントを手にすることができます。「個性化」とは、その人が「本来そうなるであろう究極の自分」になっていくことであり、心が成長していくことです。

 ですのでユングは夢分析を重視したのです。

 あまりに「集合的無意識」に対して無自覚であると「自我肥大」を起こすことがあります。

 「自我肥大」が起きると、周囲の人たちから「あいつは自分を神様とでも思ってるのか」と批判されるような自信過剰さ傲慢さを見せます。過剰に自分を矮小化して否定的になることもあります。

 そうなると、現実と折り合いがつかなくなり「生きづらさ」を感じるようになってしまいます。

集合的無意識を理解し、意識と無意識のバランスをとる

 また、スピリチュアルなことにとらわれて、現実生活がおぼつかなくなるのも「集合的無意識」からの影響が働いていると考えられます。

 前世や守護霊やパワースポットなど「超越的な世界」に頼り過ぎて、現実の仕事に身が入らず、失敗続きだとしたら、現実とのバランスをとるために何らかの心理的手立てが必要です。

 「超越的な世界」に心を奪われてバランスを崩していたら、ユングの言葉にあるように、「集合的無意識」を征服するぐらいのつもりで現実的な強い意志をもつことが大事です。

 現実を生きる自分に目を向けることは、スピリティアリティ(霊性)を否定することでなく、むしろ尊重することになります。なぜなら、「集合的無意識」を持つのが人ならば、現実を生きる「自分という存在」そのものが、スピリティアリティ(霊性)に満ちた存在だからです。

 つまり、自分を尊重することが、スピリチャリティを尊重することになるのです。

 現実をしっかり見る。現実を生きる。現実を生きる自分を信じる。

 そうした「気づき」を得て、自分を上手に変えていくことができたら、それが無意識の創造性であり、個性発展の芽を活かしたことになります。

 意識と無意識のバランスが上手にとれるようになると、「心境の変化」が起きるとユングいいます。

 「わかっちゃいるけど、やめられない」。やめたほうがいいと思っていても、なかなかやめられないことが人にはあります。

まっつん
まっつん

 その「やめられないこと」を、ある日「心境の変化」が起きて、ぱっとやめられることが、人には起きます。それをやったほういいと思っていながら、ぐずぐずしてやれなかったことを、思い切って「やり始める」なんて「心境の変化」もありますよね。

 そんな、いい意味での「心境の変化」は、心のエネルギーのバランスがとれて、人格がよりよく発展していく予兆です。

 「集合的無意識」を含めた「無意識」は、私たちにとって創造的な味方なのです。

(文:松山 淳


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