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A・H・マズローの心理学

コラム147A・H・マズローの心理学のアイキャッチ画像

アブラハム・ハロルド・マズロー(Abraham Harold Maslow)は、アメリカの心理学者であり、フロイトの「精神分析学」や「行動主義心理学」ではない「第3の勢力」といわれた「人間性心理学」の生みの親のひとり。アメリカ心理学会会長(1967-1968)。「自己実現」「欲求階層説」「至高体験」などの研究は、心理学史に残るものである。享年62歳。

著書:『完全なる人間 魂のめざすもの』(誠信書房) 『人間性の心理学 モチベーションとパーソナリティ』(産業能率短期大学出版部)『完全なる経営』(日本経済新聞社) ほか。

マズローの研究の原点

 下の図を、どこかでご覧になったことが、あると思います。とても有名な「欲求階層説」の図ですね。この説を提唱したのが、アブラハム・H・マズロー(Abraham Harold Maslow)です。

 マズローは、米国ニューヨークで生を受けます。 両親は、ロシア系ユダヤ人の移民でした。 マズローはブルックリン郊外のスラム街で育ちますが、貧困に負けることなく勉学に励み、ニューヨーク市立大学に進学します。その後、ウィスコンシン大学に転学して、心理学に出会い、研究を重ねていくことになります。

 1937年ブルックリン大学の教授に就任し、1951年まで同大学で教鞭をとりました。この時代のニューヨークには、ナチスの弾圧から逃れるために渡米してきたヨーロッパの著名な知識人・文化人が集結していました。個人心理学の創始者アフレフレッド・アドラーもそのひとりです。

 マズローは、一流の知識人・文化人に接して大きな影響を受けます。

 その経験から、次の素朴な疑問をもつことになります。

「一流と呼ばれる人は、なぜ、一流になりえるのだろう」

 この疑問が、マズローの研究テーマの方向性を決めていくきっかけとなるのです。

「第3の勢力」人間性心理学

 心理学の始まりには、大きく2つの流れがあります。

「行動主義心理学」「精神分析学」

行動主義心理学は「行動」を観察する

 「行動主義心理学」は、「心」ではなく「行動」に焦点をあてます。「心」ではなく、人間を「機械」のように捉え「行動」を観察するのです。

 例えば、「条件反射」はそのひとつです。

 梅干しを見るだけで、唾が出てくる人がいます。切ったレモンを口に近づけてくると、まだ食べてないのに、口の中がすっぱいように感じられて唾が出てきます。

「梅干し」「レモン」が「条件」で、「唾が出る」が「行動」です。私たちは日頃から、様々な「条件反射」を体験しています。

 1902年、ロシアの生理学者「イワン・パブロフ」が行なった古典的条件付の実験は、後の「行動主義心理学」の研究者たちに影響を与えました。

 ベルを鳴らしてから犬にエサを与えることを繰り返していたら、ベルが鳴るだけで、犬は唾液を出すようになりました。一定の「条件」を与えると、それに「反応」して「行動」が起きてきます。

 人間も、ある「条件」を与えられたら、それに反応して、機械的に「行動」が起きる。そう考えるのが、「行動主義心理学」です。

精神分析学は「心」を観察する。

 フロイトが開祖の「精神分析学」は、「心」に焦点をあてます。「心」を「意識」と「無意識」にわけて考え、「心」を観察し分析しようとします。

フロイトの自画像
ジークムント・フロイト
(Sigmund Freud)

 人の心には、自分ひとりの力では知覚することが難しい「無意識」という領域が存在している。この「無意識」が、人の行動に影響を与えている。

 精神分析学ではそう考えます。

 心の病の原因が「無意識」にあると考え、催眠や夢や対話によって、「無意識」を含めた「心」を理解し、病を治そうとします。精神分析学は、病気の治療を目的に発展していった医学であり、その対象は「心の病」をもった人たちでした。

「人間性心理学」は人間の「全体性」を観察する。

ズローは、「行動主義心理学」と「精神分析学」、そのどちらも学びながら疑問を抱くようになります。

マズローは、彼の代表的著作『人間性の心理学』(産業能率大学出版部)の序文で、こんなことを書いています。

この本の論題を一文に凝縮するとしたら、当代の心理学が人間性について語らねばならないことに加えて、人はまた、より高次の性質をもつのであり、そしてそれは本能、すなわち人の本質の部分なのであるということである。

さらに付け加えることが許されるなら、行動主義やフロイト学派精神分析学の分析的—解剖的—原子論的—ニュートン的アプローチと正反対に、人間性の奥深い全体的性質を強調したであろう。

『人間性の心理学』(産業能率大学出版部)p-xxi

 マズローは、「人間の全体性」を大切にしました。

 「人間の全体性」とは、人間を「ひとつのまとまり」(全体)として考えるからこそ生まれる人間の独自性のことです。心を2つに分けて分析したり、実験のために動物を解剖したり、人間を機械のようにはとらえません。

 全体とは、部分の総和以上のものです。

 人間の部分といったら細胞や臓器や脳です。それら部分と部分が互いに相互作用しあって「ひとつのまとまり」(全体)=「人間」となって「心」(意識)が発生します。

 「心」(意識)が発生すると、思考が展開し、愛や友情について思いをめぐらす「人間らしさ」が生まれてきます。部分を単純に足していくと、人間全体は、部分を足した以上の存在です。

 そうした人間の「全体性」に着目してくのが「人間性心理学」です。

 また、「人間性心理学」は健康な人(健常者)を理解しようとする心理学です。

 それまで学問的勢力を維持してきた2つの心理学に対して、「人間性心理学」は「第三勢力の心理学」と呼ばれ、発展していくことになります。

  • 「行動主義心理学」は「行動」を観察する
  • 精神分析学」は「心」を観察する。
  • 「人間性心理学」は人間の「全体性」(人間らしさ)を観察する。

「自己実現」とは?

「一流と呼ばれる人は、なぜ、一流になりえるのだろう」

 マズローがニューヨークに集まった一流の知識人・文化人たちとふれあって出てきた「疑問」です。

 マズローからすると、彼ら彼女らは、自分の目標を達成し、健康的で理想の人生を歩んでいるように見えました。自分という存在の理想を実現している「自己実現」している人たちでした。

自己実現の誤解

 「自己実現」という言葉ですが、私たちは、自分の叶えたい夢が叶った時に「自己実現できた」なんて言い方をします。

 歌手を目指していた人が、メジャーデビューできた。
 小説家を志していた青年が文学賞を受賞し、本を出版できた。
 就活して第一希望の会社に就職できた。しかも、希望していた部署に配属された。

 そんな時、「自己実現できた」という表現は、決して間違いではありません。間違いではないのですが、マズローのいう「自己実現」は、もう少し深い意味があるのです。

 つまり「夢が叶った=自己実現」ではないのです。

 マズローは、『人間性の心理学』(産業能率大学出版部)で、「自己実現」について、こう書いています。

「自分自身、最高の平穏であろうとするなら、音楽家は音楽をつくり、美術家は絵を描き、詩人は詩を書いていなければならない。人は、自分がなりうるものにならなければならない。人は自分自身の本性に忠実でなければならない。このような欲求を自己実現の欲求と呼ぶことができるであろう」

『人間性の心理学』(産業能率大学出版部)p72

 ここでポイントとなるのは「本性」ですね。

 「本性」とは、その人の生まれもった資質のことです。ですので、生まれ持ったものに忠実に、自分自身を高めていき、最高の自分になることが「自己実現」した状態です。

 そして人は、「より高いレベルの自己を目指そうとする高次の欲求をもっている」というのが、マズローの「自己実現欲求」です。夢が叶うことは、「自己実現」におけるプロセスのひとつであり、ひとつの結果です。

「何をしたか」ではなく、人間として「どうあるか」。人としての理想は「どうあるべきなのか」を考えるのが「人間性心理学」です。

「自己実現」する人の特徴

 マズローは自己実現に成功している人を「自己実現的人間」と呼びました。

 その特徴として、「現実をより有効に知覚し、それとより快適な保つこと」「受容」「自発性」「課題中心的」「超越性」「至高体験」「創造性」など…10以上をあげました。10以上も説明すると、話しが長くなりますので、ここでは「課題中心的」と「至高体験」について、お話しします。

「課題中心的」について。

「課題中心的」の項目で、自己実現している人の特徴を、マズローはこう言っています。

「人生において何らかの使命や、達成すべき任務、自分たち自身の問題ではない課題をもっていて、多くのエネルギーをそれに注いでいる。これは必ずしも彼らが好きで自ら選んだ仕事ではなく、彼らが自分の責任、義務、責務と感じている仕事であったりする。

それ故、我々は「彼らがしたいと思う仕事」という言い方をしないで、「彼らがなさねばらない仕事」という表現を用いるのである」」

『人間性の心理学』(産業能率大学出版部)p239

 「課題中心」の反対は、「自己中心」です。

 「自分がしたい仕事」「自分の好きな仕事」にこだわり過ぎることは、自己中心的な発想になりますね。自己中心性から抜け出して、広い視野で世界を眺め「成さねばらない仕事」をしているのが、マズローの言う「自己実現」している人たちなのです。

「成さねばらない仕事」のことを「使命」(ミッション)と言えます。自分の「使命」(ミッション)を果たすことに、心を動かされているのが「自己実現」している人たちです。

「至高体験」について。

「至高体験」とは、時間感覚や自我意識(自分で自分を意識できている心)が消える恍惚感をともった至福の体験です。これには、もちろんレベルがあります。

  • 仕事を成し遂げてじわりと感じる達成感。
  • 子供の寝顔を見た時に抱く穏やかな幸福感。
  • 瞑想で強烈な喜びに満たされる神秘的な喜悦感。

 マズローが接した「自己実現的人間」は、そうでない人よりも「至高体験」を質の高いレベルで経験していました。「至高体験」が人間形成に影響を及ぼしていたのです。

 マズローは、『完全なる人間』(誠信書房)では、こう書いてます。

『完全なる人間』(誠信書房)
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「自己実現する人間の正常な知覚や、平均人の時折の至高経験にあっては、認知はどちらかといえば、自我超越的、自己忘却的で、無我であり得るということである」

『完全なる人間』(誠信書房)初版 p99

トランスパーソナル心理学へ

「光に包まれて、神様に会った」。そんな宗教的な神秘体験を含んだ「至高体験」をクローズアップすることは、学問として非科学的であるという批判を受けることになります。

でも、マズローは自己実現的人間が「至高体験」についてふれることから逃げず研究を深めてきます。そして晩年、「自己実現」の上位概念として、

「自己超越(Self-transcendence)」

という考えを提唱するようになります。

 冒頭のこの図をよく見ていただくと、「自己実現」の上に「自己超越」と書かれてあるのが分かります。

自己超越

「自己超越」とは、自己を越えた存在(自然・宇宙・神)を前提として、それらとの一体感などから自我意識が消えて、すべきことに極度に集中しているような状態です。

 「自己超越」の考え方は、心理学「第4の勢力」といわれる「トランスパーソナル心理学」へとつながっていく考えです。

 マズローは1961年に「トランスパーソナル心理学」の学会を仲間とともに創立します。ですが、その翌年、マズローは急逝してしまうのです。「トランスパーソナル心理学」は、後継者たちに引き継がれ発展をしていきます。

「自己超越」の実際的な体験のひとつに「フロー体験」(flow expreience)があります。心理学者ミハイ・チクセントミハイが提唱したコンセプトです。

 フロー体験の代表例は、アスリートたちに発生する「ゾーンに入る」体験です。「ゾーンに入った」選手たちは、特殊な心理状態になり、高いパフォーマンスを発揮することがわかっています。

 マズローは「人間性心理学」(第3勢力)から「トランスパーソナル心理学」(第4勢力)への架け橋となった偉大な存在です。私たちの知る5段階の「欲求階層説」は部分のトピックであり、マズローの知見の深さと広さを知ると、見慣れた「欲求階層説」の中に再発見するものがあります。

 マズローが唱えた心理学を知ると、自己中心性からの脱却が、自己成長のヒントであることがわかります。

 「自分だければいい」ではなく、「この世界がよくなるに何をすればいいか」

 その問いに出した答えを使命として自己超越の視野に立って考える行動していく。その行動が人間をより高いレベルへと成長させていくわけです。そうして使命を果たし自己成長できた人が「自己実現した人」といえます。

(文:松山 淳


【参考文献】
『人間性の心理学』(A・H・マズロー 産業能率大学出版部)
『完全なる人間』(A・H・マズロー 誠信書房)初版