小事は大事

「小事は大事」とは?

 「小事は大事」とは、「大きな事は小さな事が原因となって起きるから小さな事をおろそかにしてはいけない」という戒めの言葉ですね。

 海外の格言には「神は細部に宿る」(God is in the details.)があります。これは建築家ミース・ファン・デル・ローエが言ったとされていますが、諸説はあるようです。いずれにしても「小事を大切にする」のは世界共通です。

 「小事は大事」を英語で「a small leak can sink a great ship」と表現します。直訳すると「小さな水の漏れが大きな船を沈める」。これは日本の諺だと「蟻の一穴」(ありのいっけつ)に相当しますね。「千丈の堤も蟻の一穴から」。蟻が掘ったような小さな穴が原因で、大きな堤防が決壊してしまう。これまた「小さな事が、大事(おおごと)になる」という訓戒です。

本田宗一郎の「小事は大事」 

 「ホンダ」の創業者本田宗一郎氏も、「小事は大事」に関する言葉をのこしています。 

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本田宗一郎

「私にとって今していることが大きい仕事なのか小さい仕事なのかという区別は何の意味ももたない。小さなものがどんな大きなものに発展するか判らないというものが、人間のやる仕事なのである。」

『本田宗一郎「一日一話」』(本田宗一郎 PHP)より

 本田氏は技術者でした。部品の1ミリ2ミリの違いが、車の性能に大きく影響することを体得していた人物です。小さいミスが大きな失敗になった経験を何度もしているでしょう。現場にこだわった技術者だからこそ「小事の大切さ」を深く理解していました。

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まっつん

 「小事は大事」。とかく「失敗を戒める言葉」として使われがちですが、本田氏のようにポジティブな意味合いでとらえることもできます。「小さな成功が大きな成功につながる。だから小さな仕事に手を抜くな」と…。

 本田宗一郎は1946年に織物機械を製造する「本田技術研究所」を創りました。ですが、これがうまくいかず、代わりに開発したのが「バタバタ」です。「バタバタ」とは「エンジン付き自転車」のことこれが売れに売れて、1948年、現在の「本田技研工業」が生まれます。今やグローバル企業として世界に知られる「HONDA」は、ここから始まるのです。

 「バタバタ」という「小さな発明品」は、本田氏の言葉通り「大きなものに発展」していきました。まさに「小事は大事」ですね。


本田宗一郎の「神は細部に宿る」

 さて、本田宗一郎は「細部」に関することでは、こう言っています。

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本田宗一郎

「たとえ、どんな細かいところでも、目に見えない部分でもごまかしたり、手を抜いたりしてはいけないのである。……それでよしとするなら、企業全体の体質、従業員一人ひとりの体質が、たちまちにして、取り返しのつかないもののになっていくだろう」

『私の手が語る』(本田宗一郎 PHP研究所)

 『人間の達人 本田宗一郎』(伊丹敬之 PHP研究所)で、著者の伊丹氏は、本田宗一郎の思考法について、こう記しています。

「宗一郎は逆に、一つの細部からその奥の真理(つまり神)を見よう、とつねに考えていたようだ。一つの切れ端にしかすぎないかもしれないものにも注意を怠らず、それを糸口に背後にある大きな真理の構図を考えようとする姿勢である。」

『人間の達人 本田宗一郎』(伊丹敬之 PHP研究所)p292

 「神は細部に宿る」のエピソードについて伊丹氏は、フランスはルノーの工場での出来事を描写しています。

待ち時間の「ムダ」から日本を考える思考法 

 ルノーの工場に行くと「トランスファーマシン」と言われる大型の自動工作機械が工程に沿って配置されて動いていました。その時、本田氏は停止している機械があるのを目にします。工程順に動くので機械に待ち時間があるのは仕方ないことです。ですが、この「小事」「細部」が宗一郎には「ムダ」に感じられました。

 この「ムダ」から思考は広がり、推論が展開していきます。設備投資のムダが時間のムダを生み、こうしたオートメーション化(自動化)が進めば日本の雇用は危うくなり日本という国の問題になる、とまで…。

 工場見学で見つけた「小事」から国の「大事」に発展させるのが宗一郎流です。「小事」「細部」から推論を進め、高品質の多くの車を完成させてきたのです。「細部」を考えつつ、その時「全体」が視野に入ってくるのは自然なことかもしれません。

 その思考法は10代で技術者だった頃から、きっと日常的に行っていたはずです。宗一郎は他で修理できなかった車を修理できてしまう天才的な技術者でした。

小さな事から大きな事を考える。大きな事から小さな事を考える。

 小事と大事を往来させる広い視野をもった思考法です。これは、私たちも心がけたいものです。

 それでは、最後に、本田宗一郎と同時代の名経営者松下幸之助氏の言葉を紹介いたします。


松下幸之助の考える「小事は大事」

松下電器産業(現 パナソニック)創業者「松下幸之助」
松下電器産業(現 パナソニック)創業者 松下幸之助

 「経営の神様」と呼ばれる昭和を代表する名経営者「松下幸之助」。その教えを広めようと出版社(PHP研究所)まで創っていますから、今も、松下氏の言葉に多くのリーダーたちが影響を受けています。

 松下氏の『指導者の条件』(PHPビジネス新書 松下幸之助ライブラリー)に、「小事を大切に」という小論があります。

三菱の祖「岩崎弥太郎」
三菱財閥の祖「岩崎弥太郎」

 冒頭、三菱財閥をつくりあげた岩崎弥太郎の話しがあります。幹部の一人を部屋に呼びつけ厳しく叱り飛ばし、1年間の減俸にしたというのです。

 理由は、会社の便箋で「欠勤届」を書き提出したからでした。この時代、「欠勤届」は「私用」なので、紙は自分で用意するものだったようです。「幹部ともあろう人間が、公私混同するとは何事だ」と、岩崎弥太郎は幹部を厳罰に処したのです。

 この話しを受けて、松下氏も「これはいささかきびしすぎるような感じもしないではない」と書いた上で「小事の大切さ」を説きます。

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松下幸之助

「小さな失敗や過ちは、おおむね本人の不注意なり、気のゆるみから起こってくるし、本人もそれに気づかない場合が多い。そして〝千丈の堤も蟻の穴から崩れる〟のたとえ通り、そうした小さな失敗や過ちの中に、将来に対する大きな禍根がひそんでいることもないことはない。

だから、小事にとらわれて大事を忘れてはならないが、小さな失敗はきびしく叱り、大きな失敗に対してはむしろこれを発展の資として研究していくということも、一面には必要ではないかと思う」

『指導者の条件』(PHPビジネス新書 松下幸之助ライブラリー)

 さすが「経営の神様」だと感じるのは、「小さな失敗」には厳しく、「大きな失敗」を「発展の資」とポジティブにとらえている点です。

 とかくリーダーは、部下の「小さな失敗」を「まあそれぐらい、いいよ」と見逃して、「大きな失敗」を「何やってるんだ!」と叱ってしまいます。この逆転の発想は、実際にいかすことができるでしょう。

 本田宗一郎も松下幸之助も昭和の名経営者として、今も、絶大な人気を誇ります。名もなき庶民から一代で大企業を築き上げた成功者です。そのふたりが「小事は大事」の精神を大切にしていたことは注目に値しますね。

 小事は大事。小さな仕事に手を抜かず、いい仕事をしましょう。

(文:松山淳)