ライオン株式会社が【新社会人のプレッシャーに関する意識調査】(2012年4月)を実施しました。その中に「新入社員時代にプレッシャーを感じた心に重くのしかかる上司の言葉」という調査もありました。
(出典:ラインHPより https://www.lion.co.jp/ja/company/press/2012/799)
新入社員時代に上司から言われてプレッシャーを感じたり、心に重くのしかかりストレスになった言葉はありますか。
調査対象は、社会人2年目の男女500名でした。さて、結果は・・・!
1位 | 「言っている意味わかる?」 | (35.2%) |
2位 | 「そんなこともわらかないのか」 | (24%) |
3位 | 「期待しているよ」 | (23.6%) |
4位 | 「あれ、どうなってる?」 | (22.4%) |
5位 | 「面白い話して」「何か話して」 | (15.2%) |
6位 | 「もういいよ、他の人に頼むから」 | (14.2%) |
<調査概要>
・調査期間:2012年3月30日(金)〜4月2日(日)
・調査方法:web調査 n=500(社会人2年目の20代男女500名)
堂々の【1位】は「言っている意味わかる?」です。いかがでしょうか?納得の結果でしょうか、それとも意外だったでしょうか。
ちなみに私は「言っている意味わかる?」は、新人時代、上司から言われた記憶がありません。まあ随分と昔のことになりますが…。ただ、独立して、ある人から「言っている意味わかる?」と言われたことがあり、その時、ものすごく嫌な気分になったことを、とてもよく覚えています。
「意味、わかんない!」
若手のタレントや芸人さんたちが、テレビでそう言い始めたのは、1990年代後半ぐらいからでしょうか。誰かに「つっこみ」を入れる時の言葉として、一時期、流行り言葉のようになっていました。もちろん、今も、よく耳にする言葉です。ただ、1990年代以前は、あまり使われていなかった言葉です。
「言っている意味わかる?」が意識調査で第1位になるのですから、それだけ上司たちが口にしているということです。それだけ新入社員たちが言われているということです。これは「意味、わからない」が、日常会話の言葉として認知された影響もあるのではないかと思います。
友だち同士で冗談を言い合える仲であれば問題ないですが、上司と部下で、まして新入社員という不安が大きな心理状態にある時期に言われたら、それはそれは嫌な気分にもなるでしょう。
では、なぜ、「言っている意味わかる?」は人を嫌な気分にさせるのでしょうか。
「言っている意味わかる?」を口にしている上司は、「私の話したことを理解できたか確認したい」という思いから、軽い気持ちでさらりと言っているはずです。新入社員を不愉快にさせようとしたり、ましや、プレッシャーをかけようなどと、悪意があって口にしているわけではないでしょう。
では、なぜ第1位になるのでしょうか。なぜ、人を嫌な気分にさせるのでしょうか。理由は次の2つです。
❷「傲慢さ」を感じるから
なぜ、「言っている意味わかる?」を言われると、「見下されている」と感じるのでしょうか。なぜならば、「理解する能力を疑われている」と感じるからです。つまり「あなたは劣っている」というメッセージを相手から受けとるからです。
「言っている意味わかる?」の前提条件は、「あなたは私の話を理解できない可能性がある」です。だから質問するわけです。それは「あなたは私より理解能力が劣っている」ということを言外に伝えていることになります。
上司と部下で、まして、新入社員ですから仕事でのスキルや能力は劣っていて当然です。でも、「あなたは劣っている」というNGを出されて、いい気分になる人はいないはずです。
つまり、「言っている意味わかる?」と聞かれると、2位「そんなこともわらかないのか」と、ほど同のネガティブなメッセージを相手に発してる可能性があるわけです。
「言っている意味わかる?」の、もうひとつの前提条件は、「自分の話していることは完璧だ」です。自分の能力は棚にあげています。本人がそう思っているかどうかではなく、「言っている意味わかる?」を言われた側は、「自分の話しぶりや説明能力は棚にあげて、こちらの能力を疑うのか」と、「傲慢さ」を感じるのです。
「私の説明の仕方は時々、相手に誤解を与えるので、確認したいんだけど、今の説明で、わかったかな?」
これであれば、自分の能力不足を棚にあげず、相手の立場に配慮した言葉になっています。不快感はぐっと減るはずです。ですが、「言っている意味わかる?」と問われると、「そもそも、あなたの説明の仕方が下手すぎてわからない」という本来問われるべき上司側の能力(そもそも論)が完全に無視されるので、なんだか不愉快なのです。
「言っている意味わかる?」は話しの区切りで、それ単体で使われることが多く、会話の流れの中から突然、現れて面をくらったような感覚になります。この唐突さも「不愉快さ」の原因のひとつです。
「言っている意味わかる?」を使った時、人によっては、ちょっとした「快」の感覚があるはずです。これは心理学での「支配欲求」や「コントロール欲求」に対応するものであり「有能感」と結びつきます。
自分の立場が上で、相手を支配し思いのままにできる時、人は「快楽」を覚えます。自分が「有能」だと思えます。この「有能感」は人を無意識のうちに動かす「欲求」のひとつです。
本人の自覚できない無意識レベルであっても、「有能感」を求めて言葉を発してるとしたら、コミュニケーションの矢印が、相手ではなく自分に向いています。「相手(新入社員)のための言葉」のようで、「自分(上司)のための言葉」になっています。
なので、なんだか「うざいな」と感じるのです。
1位から6位までの言葉を、どう受け止めるかは、やっぱり「人それぞれ」です。「これがプレッシャーになるのか!」「心に重くのしかかるのか!」と驚いている上司の方もいるのではないでしょうか。
私は、【3位】「期待しているよ」が意外でした。新人さんですので、「期待される」ことが、「プレッシャー」になることはわかりますが、新入社員が(いや働く人なら誰もが)最も悲しいのは、「期待すらされない」ことです。
【6位】に「もういいよ、他の人に頼むから」(14.2%)があります。私などは、こちらの方が、「心に重くのしかかる」、言われたら、ほんとに「嫌だな〜」と思う言葉です。まさに「お前には期待できない」と最後通告のような・・・。これが1位でもおかしくないと感じます。
ただ、新人時代は、新しい環境に適応しようと、神経がはりつめた状態です。ちょっとした言葉に、過敏に反応してしまう傾向がありますので、「期待しているよ」が、ネガティブ・ワードとなる可能性は否めませんね。
上司の側に悪気はないけれど、相手がその言葉で傷ついたら、やはり、改善してこうとする意思を持つべきなのでしょう。
そこで、このコミュニケーションの基本を忘れたくありませんね。
自分がどう感じるかではなく、相手がどう感じるか。
最後に、名著サミュエル・スマイルズの『自助論』にある言葉を記して、この記事を終えたいと思います。
男性であれば、女性や子どもにどんな態度で接するか?
上司なら部下をどう扱うか?
雇い主なら使用人を、教師なら生徒をどう扱うか?
自分より弱い地位の人間とどのように付き合うか?
そしてこのような場合に、
分別と寛容と思いやりを発揮できるかどうかが、
その人の人格を推し測る決定的な目安となる
『自助論』(S・スマイルズ 三笠書房)より
(文:松山 淳)