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アベグレンが唱えた日本企業の強み

アベグレンが唱えた日本企業の強み

アベグレンのキャリア

 2007年5月2日、ベストセラー『日本の経営』の著者であるアメリカの経営学者J・C・アベグレン(James Christian Abegglen)が亡くなりました。享年81歳でした。

アベグレンは晩年、日本で暮らす。

 アベグレンは1926年、米国ウィスンコンシン州マーシュフィールドで生を受けます。シカゴ大学で心理学と文化人類学を学び博士号を取得しています。その後、マサチューセッツ工科大学で非常勤講師などを勤めます。

 1956年には、BCG(ボストン・コンサルティング・グループ)の創設に参画。今や世界的コンサルティング会社「BCG」の創業にアベグレンが関わっていたのです。

 1983年には、アジア・アドバイザリー・サービス(株)を設立して会長に就任。晩年は、日本人と結婚し、京都で暮らしています。『日本の経営』を書いたことが、人生の行く末を定めたかのようです。


ベストセラー『日本の経営』について

 『日本の経営』は、1958年(昭和33年)にダイヤモンド社から出版されました(現在、新訳として日本経済新聞社から出版)。

 経営書としてはすでに「古典」の部類に入ります。ただ、その功績は大きく、私たちが何気なく使ってきた「終身雇用」「年功序列」は、この著から生まれた言葉です。

『日本の経営』は「高度成長期」の入り口で出版!

 さて、ここで『日本の経営』の出版年をもう一度、確認してみましょう。それは1958年(昭和33年)ですね。ということは、日本の高度経済成長期の入り口の時点で、すでに出版されていたのです。

 一般的に日本の高度経済成長期は、1954年(昭和29年)から1970年(昭和45年)といわれます。「神武景気」「岩戸景気」「オリンピック景気」「いざなぎ景気」と次から次に好景気が続きました。

 『日本の経営』は、日本企業の「強み」を明らかにした書です。戦後の焼け野原から日本が西洋に追いつけ追い越せと、高度成長期が本格化したのは、60年代〜70年代です。そして80年代となってバブル経済に突入し、それは90年代に終焉を迎えます。

まっつん
まっつん

 「日本企業」が世界で認められ、諸外国から学びの対象となったのは70年代以降のことです。それ以前は、「敗戦国『日本』の作る製品は二流品」というイメージでした。アメリカで50年代に、「メイド・イン・ジャパン」といえば「粗悪品」の代名詞に近いものだったのです。

 世界的ベストセラーとなった『ジャパン・アズ・ナンバーワン』(『Japan as Number One: Lessons for America』)の出版年は1979年です。社会学者エズラ・ヴォーゲルの書いたこの本は、高度経済成長を遂げた日本企業に着目し、「日本型経営」を高く評価しています。

 でも、アベグレンは1958年以前にすでに調査をして、日本企業の「強み」を明らかにしていたのです。これはアベグレンの先見の明であり、『日本の経営』が長らく読まれることになった要因のひとつといえます。


日本型経営の強み

 アベグレンは、当時の日本企業を調査した結果、様々な強みを唱えました。その内の3つが「日本型経営の三種の神器」と、後々まで語られるようになります。

「日本型経営の三種の神器」

「終身雇用」「年功序列」「企業別組合」

 2020年代となった今となっては、日本型経営の「強み」とは言い難い要素です。

 アベグレンがこの3つを日本企業の「強み」だと指摘した当時、多くの企業人たちは、「それは当たり前だ」と考えていました。つまり日本型経営の「三種の神器」が、世界的にみて「ユニークな特徴」であり「強み」だと、気づいていなかったのです。

 西洋に追いつけ追い越せと額に汗して働いていた多くの日本人にとって、アベグレンの主張は、朗報であり励みになりました。

日本人の抱える根強い劣等感

 日本人の気質として今も抜けないのは、「私たちは日本は、西洋よりなんとなく劣っている」という漠然した根強い「劣等感」です。

 「知の巨人」梅棹忠夫が書いた『文明の生態史観』(中央公論新社)に、日本人の劣等感に関する一文があります。

「日本人にも自尊心はあるけれど、その反面、ある種の文化的劣等感がつねにつきまとっている。それは、現に保有している文化水準の客観的評価とは無関係に、なんとなく国民全体の心理を支配している、一種のかげのようなものだ。ほんとうの文化は、どこかほかのところでつくられているものであって、自分のところのは、なんとなくおとっているという意識である。おそらくこれは、はじめから自分自身を中心としてひとつの文明を展開することのできた民族と、その一大文明の辺境諸民族のひとつとしてスタートした民族のちがいであろうとおもう」

『文明の生態史観』(梅棹忠夫 中央公論新社)

 一種のかげのような「劣等感」は、昭和の時代に比べれば弱くはなっているでしょう。でも、敗戦ムードが色濃く残っていた50年代の日本では、より強いものだったはずです。

 「日本のよさを自分たちで認められない日本人」にとって、西洋からもたらされた日本型経営の高い評価は、現代の私たちが感じる以上の喜びだったはずです。当時、日本人と日本企業を賞賛してくれたアベグレンは、ヒーローのような偉大な存在となりました。

アベグレンが日本人に伝えたかったこと

 日本経済新聞(07.5.15付朝刊)に、アベグレンについての記事がありました。神戸大学教授の加護野忠男氏は、こんなことを書いています。

 アベグレンの日本人に伝えたかったことが凝縮されています。

日本の経営は欧米の経営とは違う。
欧米よりも遅れているのでもなければ劣っているのでもない。
たんに違うのである。
経営は文化的産物だから、違いがあって当然である。
この違いのなかには、劣っているところもあれば優れているところもある。
日本では自らを卑下するのが美徳になっているので、日本人は経営に関しても遅れたものととらえがちであるが、もっと自信を持ってよい


というのが、アベグレン氏の日本人への一貫したメッセージである。

               『日本経済新聞』(07.5.15付朝刊)より

 『日本の経営』で、日本の「強み」と指摘された「終身雇用」という言葉は、英語で「ライフタイムコミットメント」(Lifetime Commitment)と書かれました。

 「ライフタイム」は「終身」だとしても「コミットメント」は「雇用」ではありませんね。雇用は「employment」です。

「家族主義」こそ日本型経営の「強み」

 アベグレンは日本企業の強みとして「家族主義」も指摘しています。3種の神器が強調されますが、「家族主義」を忘れてはなりません。

 「コミットメント」は、「関わり合うこと」「約束」「責任」を意味します。ですので、氏が「終身雇用」を「ライフタイム・コミットメント」としたのは、「家族主義」を前提とした「働く人と職場との間に生涯を通しての強い結びつき・関わり合い」の観点を、その言葉に込めたと考えられます。

 「家族主義」について、アベグレンはこう書いています。

〝良い職長は、父親が自分の子供をみるように、自分の工員をみる〟という所見は、すべてのグループから、最も強い同意をほとんど引き出した。そのような所見は、アメリカの工場の労務者にかかったら、おそらく、嘲笑をもって迎えられるか、それとも強く嫌われることだろう」

『日本の経営』(J・C・アベグレン ダイヤモンド社)

 古き良きひと昔もふた昔も前の「日本の職場」のように感じられますが、現代でも、社員のイキイキと働く会社では「家族主義」が根付いています。

 法政大学の坂本光司教授が書き続けている『日本でいちばん大切にしたい会社 』(あさ出版)シリーズに登場する日本の優良企業は、「家族主義」といえます。

 「ブラック企業」ではなく「ホワイト企業」といえる一群の経営者たちは、何より社員を大切にし、社員を家族のように思って経営をしています。これは、「和」を重んじる日本人だからこそ生まれる日本企業の「強さ」です。

 スタンフォード大学の組織行動学の専門家ジェフリー・フェファー教授(Jeffrey Pfeffer)は、2005年4月22日に開催されたリクルートワークス主催のイベントの基調講演にて、こんなことを述べています。一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏の書いた記事から引用します。

(ジェフリー・フェファー教授は)基調講演で開口一番
「模範と言えない我々の人材経営をなぜ学ぶのですか」
と述べた。一瞬緊張が走った。そして
 
「米国企業の人材マネジメントは、意図的に恐怖心を植えつける政策を追求してきたので、従業員のコミットメントが低い。成功している超優良企業は、従業員の全人格と家族までをも包含する企業風土を持っている」

と指摘した。

『日本経済新聞』(文 一橋大学名誉教授 野中郁次郎氏)より
※(ジェフリー・フェファー教授は)筆者追記 

 この記事を野中教授は、この言葉で終えています。

「仲間を骨を拾う」組織体に弱兵はいない

 アベグレンが伝えたかった日本企業の強みは、今、経営学のキーワードになっている「エンゲージメント」のことだといえます。

「会社と社員の良好な関わり合い」(エンゲージメント)の指数が高い企業ほど、業績もよい。

 そのことが様々な経営上の調査で証明されています。詳しくは以下の文献を参考になさってください。

 ネットが生まれ、副業がOKとなり、テレワークが促進され「働くかたち」はどんどん変化していっています。ただ、アベグレンが指摘した日本企業の「強み」には、「家族主義」など、今なお変わりないものもあります。

 アベグレンは晩年になり日本国籍をとった米国人でした。冒頭に書いた通り、晩年は日本で暮らしています。それほど日本が、日本人が好きだったのです。

 なぜなら、日本にも欧米から尊敬される、たくさんのよいところがあるからですね。 

 今も天国から応援してくれているでしょう。

 「違っていることを恐れるな、もっと自信を持て!」と・・・。

(文:松山淳)