10/7 セミナー「逆境を乗り越える力を高めるフランクル心理学 7つの教え」

自己効力感(セルフ・エフィカシー)とは

自己効力感とは

自己効力感を高めるには?

 では、「自己効力感」は、どのようにして高めていくことができるのでしょうか。

 「根拠のない自信」。そんな言葉があります。いつでも自信満々で、失敗しても失敗しても挫けない人がいます。うらやましい限りですが、多くの人は、「自己効力感」の無さに悩んでいるものです。

 バンデューラは下の図にある通り、4つの考え方を提示しています。

自己効力感を高める4つの視点

  1. 「直接的達成経験」:成功体験を積み重ねていくこと
  2. 「代理的経験」:他人の成功体験を見たり知ったりして自己効力感が高まる
  3. 「言語的説得」(社会的説得):他人に「君はできる」と励まされること
  4. 「生理的情動的歓喜」:心身を健康な状態に保つこと

 それでは、ひとつひとつ説明していきます。

セルフ・エフィカシーの誘導方法と主要な情報源(Bandura 1997)
セルフ・エフィカシーの誘導方法と主要な情報源(Bandura 1997)
『モチベーションをまなぶ12の理論』(鹿毛雅治 編 金剛出版)
p265掲載図を元に作成

直接的達成経験

 「直接的達成経験」とは、簡単にいうと「成功体験」のことです。難しい仕事を苦しみながらでも「成功」に導いた経験は、「これだけの難しい仕事を成し遂げたんだから、次もできる」と「自己効力感」を高めます。

 バンデューラは、こう言っています。

バンデューラ
バンデューラ

たやすく成功するような体験のみであれば即時的な結果を期待するようになるし、失敗するとすぐ落胆してしまうだろう。効力感の強さには、忍耐強い努力によって障害に打ち勝つ体験が要求される。

『激動社会の中の自己効力』(アルバート バンデューラ 金子書房)p3

 この言葉で強調しておきたい点は、バンデューラが、「たやすい成功」では「自己効力感」は高まらないと考えていることです。「忍耐強い努力によって障害に打ち勝つ体験」と書いているように、「自分はできる」と確信を持てるようになるには、厳しい試練をくぐり抜けての「成功体験」が必要なのです。

代理的経験

 「代理的経験」とは「他者の成功体験を見たり知る」ことです。例えば、入社当時、パッとしなかった同期が営業成績でトップになったとします。入社当時はむしろ自分の方が成績でも社内評価でも間違いなく上でした。能力に「差」があるわけではありません。だとしたら「あの同期にできたんだから、自分にでもきる」と「自己効力感」は高まるでしょう。

 逆境をくぐり抜けた人の話しを聞くのも「代理的経験」です。

 事業が倒産し、数億円の借金を抱えて鬱状態になり、世間から白い目で見られ罵声を浴び、人生のどん底を味わった人が、再び、起業して成功する。そんな成功譚を聞くと、胸に熱いものがこみ上げてきて「やる気」を刺激されます。

 これは「社会的認知論」で「モデリング」と呼ばれる概念です。自分の「モデル」となる人から自信をわけてもらうのです。

 ですので、尊敬する人や師(メンター)から直に経験談を聞くことは、「自己効力感」にいい影響を与えます。本を読むのも講演を聞きに行くのもいいでしょう。「自己効力感」はひとりで育むものではなくて、他者との協働(コラボレーション)によってなされるものです。

バンデューラ
バンデューラ

何度も進路を阻む障害物に忍耐強く対処しているモデルが示す、何事にもひるまない姿勢は、モデルによって示された技術以上のものを、観察者に与えることができる。

『激動社会の中の自己効力』(アルバート バンデューラ 金子書房)p4

言語的説得(社会的説得)

 とても尊敬し信頼している人から、「あなたには才能があるから、大丈夫」と励まされたどうでしょうか。自信喪失状態で「自分にはもうできない」と思っていても、その道のプロフェッショナルや第一線で活躍し確かな実績を上げてきた「本物の人」から「君(あなた)なら、きっとできる」と勇気づけられたら、胸が熱くなって「できる気がしてくる」のではないでしょうか。

 例えば、プロ野球選手を目指す少年が尊敬するイチロー選手から、あるいはサッカー少年が憧れの世界のスーパースター「メッシ」から、「君は才能がある、きっとプロになれる」と言われたどうでしょう。少年が自分のスポーツに取り組む姿勢に何らかの変化があるはずです。

 2019年W杯で大活躍したラグビー日本代表もかつは世界では勝てないと、世間からも言われ、選手たちも自信喪失状態でした。そこにオーストラリアをW杯で準優勝に導いたエディー・ジョーンズが監督に就任し「世界で勝てる」「W杯で勝利できる」と選手にいい続け、世界レベルの厳しい練習「ハードワーク」を課しました。そして2015年、第8回W杯では「南アフリカ」(スプリングボクス)に勝利する奇跡を起こしました。まだ記憶に新しいところです。

 「社会的説得」とは、繰り返し成功を信じさせる言葉を投げかけられることです。親から教師から上司から、人は言葉を投げかけられ「自己効力感」を育んでいくのです。

バンデューラ
バンデューラ

ある行動を習得する能力がある言われて勧められた人は、問題が生じたときに、自分の欠陥についてくよくよ考えたり、自分に疑念を抱いたりしないで、その行動により多くの努力を投入し続けるだろう。

『激動社会の中の自己効力』(アルバート バンデューラ 金子書房)p4

生理的情動的喚起

「生理的情動的喚起」とは、良好な心身状態の時に「自己効力感」は高まるということです。『激動社会の中の自己効力』の中では、バンデューラはこう言っています。

バンデューラ
バンデューラ

身体の状態を向上させ、ストレスやネガティブな感情傾向を減少させ、身体の状態を正しく把握することである。

『激動社会の中の自己効力』(アルバート バンデューラ 金子書房)p5

「生理的情動的喚起」とは、言葉は難しいですが、つまり「健全な体に健全な心が宿る」の教えです。

 風邪を引いて38度の熱があったらパフォーマンスは下がり、気分も滅入るでしょう。普段は自信があるのに、「今日はできる気がしない」と、自信喪失状態になります。

 日々、自分の心と体をしっかりとケアし、よりよい状態を維持することで「自己効力感」の向上が可能になるのです。

まとめ&「自己効力感」の文献

 「自己効力感」は、1970年代にバンデューラが提示した概念です。「古典理論」に分類されてもおかしくありませんが、今も注目され、研究は続けられています。臨床心理の観点から「自己効力感」に焦点をあてた書としては、『セルフ・エフィカシーの臨床心理学』(著, 編集坂野 雄二ほか 北大路書房)があります。

 また、今回、とても参考になったのは、『モチベーションをまなぶ12の理論』(鹿毛雅治 編 金剛出版)です。この本は著名な「モチベーション理論」が網羅されていて、その中でバンデューラの「自己効力感」がピックアップされています。原書を紹介しつつ、学術的な知識を押さえて論が展開されているので「モチベーション理論」を学ぶ人たちにとっての良書です。

 「自己効力感」の概念、そのものは決して難しくありません。一言で言ってしまえば「自分はできるという感覚」のことです。また、それを向上させる4つの観点も、ある意味、とてもシンプルでわかりやすいことです。

 わかりやすいが故に、「わかっちゃいるけどできない」となりがちです。そう考えてしまうと「自己効力感」は遠ざかります。特に、他者との協働(コラボレーション)によって「自己効力感」が高まる視点は忘れないでほしい点です。

 どんな一流の人たちにも「教えてくれた人」がいます。イチロー選手にも、メッシ選手にも教えてくれた人はいました。世界のスパースターたちだけでなく、名経営者も優れたリーダーたちも、自分ひとりで、できるようになった人はいません。むしろ、人の話をよく聞き、「いいものは取り入れ、悪いものは捨て」と、そんな「教えられず上手」だったから一流になれたのでしょう。

 よりよい「自己効力感」のために、人の言葉に耳を傾けることを忘れないでいましょう。

(文:松山 淳)


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