1932年(昭和7年)鹿児島県(鹿児島市薬師町)生まれ。1948年(昭和23年)鹿児島市高等学校第三部に進学。1951年(昭和26年)鹿児島大学工学部に入学。1955年大学卒業後、碍子メーカー松風工業(京都)に就職する。1958年、上司と衝突し松風工業を退社。
1959年(昭和34年)、京都セラミック株式会社(現京セラ)を創業。1984年、電気通信事業の自由化にともないNTTに対抗するため第二電電企画を設立。2000年10月に他会社と合併し、KDDIを設立する。
2010年2月、破綻した日本航空(JAL)の再生のため会長に就任。2年7ヶ月で再上場を果たし、再生に成功する。「経営の神様」と呼ばれる。
経営塾「盛和塾」の塾長として数多くの経営者を育成する(1983年〜2019年)。
2022年8月24日に永眠。享年90歳。
目次
稲盛和夫の名言1:仕事をとことん好きになれ
数々の偉業を成し遂げた成功者として多くの人から尊敬される稲盛和夫さん。「経営の神様」とも呼ばれます。
若い頃は失敗つづきでした。中学受験も大学受験も就職活動も思った通りにはなりませんでした。
就職した松風工業は、給料の遅れる会社でした。一緒に入社した同期は次から次へと辞めていきます。稲盛さんも、それなら自分も辞めようと自衛隊の試験を受けています。
しかし、入隊の手続きがうまくいきませんでした。稲盛さんはひとり「松風工業」に残ることになり、こう考えます。
「八方ふさがりの状態で、いつまでもすねて、毎日ぶつぶつ言っていても、どうなるものでもない。自分の人生をうらんでみても、天に唾するようなものだ。たった一度しかない貴重な人生を、決して無駄に過ごしてはならない。どんな環境であろうと、常に前向きに生きよう」
『人生と経営』(稲盛和夫 致知出版社) p24
人生一度切りです。
すねて、文句をいって、腐っていても、よいことは何ひとつありません。稲盛さんの成功者としての快進撃は、ここから始まります。一心不乱に研究に打ち込み始まると、次から次へと成果が出るようになったのです。
稲盛さんは大ベストラー『生き方』(サンマーク出版)の中で、こう書いています。
どんな分野でも、成功する人というのは自分のやっていることにほれている人です。仕事をとことん好きになれ─それが仕事を通して人生を豊かなものにしていく唯一の方法といえるのです。
仕事を好きになる。
仕事にほれる。
それが理想とわかっていても、難しい時があります。言うは易し行うは難し。社内の人間関係、労働時間、給与の安さなど、いろいろなことがあって、仕事を好きになれないことも多いものです。
これに対しての稲盛さんのアドバイスです。
「最初は多少無理をしてでもいいから、まず「自分はすばらしい仕事をしているのだ」「なんと恵まれた職業についているのだろう」と心の中でくり返し自分にいい聞かせてみる。すると、仕事に対する見方もおのずと変わってくるものです」
「経営の神様」も、かつて入社した会社を辞めようとしたのです。会社を、仕事を、決して好きではなかったのです。「好きになる努力」をして、自分の運命を変えていきました。
人生の中で、圧倒的に多くの時間を費やす仕事。
その仕事を少しでも好きになれたら、自分の人生をも好きになることができます。
稲盛和夫の名言2:運命を変えるのは自分の心
稲盛さんは、中学受験に失敗した直後に、結核になっています。当時、結核といえば「不治の病」でした。叔父さん、叔母さんが結核で亡くなっています。死を覚悟しましたが、命をとりとめ、その後の成功があります。
稲盛さんは、結核になったことを「自分の心が引き寄せた」と書いています。
というのも、叔父さんが結核になった時、自宅の離れで療養していて、稲盛さんは感染を恐れて、その前を通る時には、鼻をつまんで走り抜けていたのです。稲盛さんのお父さんは、叔父さんに付き添って看病をしていました。父親やお兄さんは、「そんなに簡単にうつるものか」と平然としていました。結核にはならなかったのです。
恐れて逃げていた稲盛さんが、結核に…。この一件から、こう書いています。
「避けよう、逃げようとする心、病気をことさら嫌う私の弱い心が災いを呼び込んだのだ。恐れていたからこそ、そのとおりのことがわが身に起こった。否定的なことを考える心が、否定的な現実を引き寄せたのだと思い知らさられた」
稲盛さんは、この結核の件だけでなく、中学受験や就職活動の失敗をふりかえり、また、入社した会社で「心構え」を変えてから自身の運命が好転していった事実をとらえて、「どんな思い」をもつか、つまり、人生で「心」がいかに大切かを痛感します。
稲盛さんは、「心のありようの大切さ」について、次のようにいっています。
「たしかに運命というものは、私たちの生のうちに厳然として存在しています。しかしそれは人間の力ではどうにも抗いがたい「宿命」なのではなく、心のありようによっていかようにも変えていけるものです。運命を変えていくものは、ただ一つ私たちの心であり、人生は自分でつくるものです。」
宿命は変えることはできないが、運命は変えることはできる。
運命は、その人の心がけ次第で、いかようにも変えていける。
これが稲盛さんのつかんだ「人生哲学」であり、この「人生哲学」をもとにして、稲盛さんは自身の運命を切り開いていったのです。
稲盛和夫の名言3:人間として正しいかどうか
1958年(昭和33年)、上司との衝突が原因で稲盛さんは、松風工業を退職します。1959年(昭和34年)、総勢28名で創業したのが「京都セラミック株式会社」です。世界企業となる「京セラ」の始まりです。
創業当初、稲盛さんは、大学の理工学部を出た技術者ですので、経営・マネジメントに関しては素人でした。経営者ですから技術のことだけでなく、経営に関する判断をしなければなりません。若き経営者の稲盛さんは、部下たちから意思決定を次から次へと迫れら、困ってしまいます。
この時、ひとつの指針を打ち立てます。それが次の言葉です。
「人間としての原点に立ち返り、「人間として正しいことなのか、正しくないことなのか」「善いことなのか、悪いことなのか」ということを基準として、ものごとを判断していくようにしたのだ。」
この言葉に続けて「正義、公正、勇気、誠意、謙虚、さらに愛情など、人間として守るべき基本的な価値観を尊重して判断するようにした」と書いています。
小学校で習うような道徳・倫理観をベースにして、稲盛さんは経営判断を行なっていったのです。経営学の知識ではなくて、「人間として正しいかどうか」を基準にした判断が、後の成功につながったと、稲盛さんはいいます。
毎年、多くの企業が不祥事でニュースに取り上げられます。組織のリーダーたちが悪いとわかっていながら、悪に手を染めてしまうのです。
だからこそ、「人間として正しいかどうか」という経営上の判断基準を、常に心がけたいものです。
稲盛和夫の名言4:批判は神が与えた試練
清き経営理念を掲げていても、企業組織が大きくなると、トップリーダーの真剣な思いは社員に届かないこともあります。社員のするささいな失敗が、世間から誤解をされて、マスコミに報道されてしまうことがあります。
マスコミに取り上げられると、従業員が中傷されたり取引先が離れたりして、企業は大きなダメージを受けます。
京セラも例外ではありませんでした。
創業から25年となる1985年のことです。あるセラミック製品を、医師からの要望に応じて、厚生省の認可を受ける前に、販売してしまったのです。新聞・雑誌に取り上げられマスコミが騒ぎました。京セラは世間から糾弾され、1ヶ月の操業停止処分となります。
稲盛さんは、この辛い時期に、心の師である高僧の西方老師を訪ねました。老師は、こういいました。
災難に遭うのは過去につくった業が消える時です。業が消えるのですから喜ぶべきです。どんな業があったか知らんが、その程度のことで業が消えるならお祝いせんといかんですな。
『稲盛和夫のガキの自叙伝』(日経新聞社)p151
西方老師の言葉は、稲盛さんが「立ち直っていく上で、最高の教え」となりました。慰めてくれると思っていたので、意外な言葉だったのですが、「業」(カルマ)という仏教の教えに通じていた稲盛さんとっては、逆に、胸に響くものとなったのです。
そこで稲盛さんは、批判を受けた時の心構えとなる言葉を本に記しています。
「世間からの批判も「神が与えたもうた試練」と真摯に受け止め、全社員に襟を正すように呼びかけた」
この一件を機に、京セラは新製品の開発に成功し、医療業界に、そして病に苦しむ人々に多くの恩恵をもたらすことになります。
仕事をしていると、「言われなき批判」を受けることがあります。組織の中から外から、思わぬ時に思わぬ形で、批判の矢が飛んできます。
大切なことは批判につぶされることなく、反省すべきを反省したら、「次へ」向かうことですね。起きてしまった出来事は、変えられません。ですが、未来は変えることができます。
「変えられること」「できること」にフォーカスして、「次」をよくする。
「神から与えられた試練」に文句を言う人ではなく、それを活かす人が、運命をよりよく変えています。
稲盛和夫の名言5:利他の心
「利他の心」
稲盛さんの座右の銘のひとつです。「利他」とは、仏教の言葉です。
「自利利他」
お坊さんにとって「自利」とは、自分が悟りをひらくことです。悟りを得るために修行に打ち込みます。利他とは、他の人ために尽くすことです。自分だけのためでなく、他の人のためになることをするのが僧の務めです。自利と利他。このふたつを両立させることが理想とされます。
経営も似ているところがあります。自利とは、自社の利益のことです。利益をあげるためには、企業は顧客に尽くさねばなりません。ふたつはリンクしていて、ふたつをバランスよく行なっていくことで経営が成り立ちます。
自利利他は、私たちの人生にもあてはまる考え方です。稲盛さんは「利他」について、こういっています。
「世のため人のために尽くすことによって、自分の運命を変えていくことができます。自分だけよければいい、という利己の心を離れて、他人の幸せを願う利他の心になる。そうすれば自分の人生が豊かになり、幸運に恵まれる」
自分のためだけに動く、自己中心的な人を、私たちは好きではありません。
幸運の女神もそれは同じでしょう。
他人のために動く人に幸運の女神は微笑むのです。
稲盛和夫の名言6:自分だけが苦しいわけじゃない
やまない雨はない。
辛く苦しい日々は永遠につづくわけではありません。どんなことでも「変わりゆく」ものです。
ただ、辛く苦しい日々にある時は、「変わりゆく」ことが、この世の真理だといわれても、そう思えないことも、またひとつの真実です。
そこで、辛い時に思い出したいことが、「苦しいのは自分だけではない」という考えです。どんな人も、悩むこと苦しむことがあり、今こうしている間にも、同じ悩みで苦しんでいる仲間がいます。
苦しみを抱えることは、どんな人にも共通することです。これを「セルフ・コンパッション」(self-compassion)というセラピー手法では、「共通の人間性」(Common humanity)と表現し、その構成要素のひとつとしています。
「セルフ・コンパッション」とは、自分に優しくすることです。コンパッション(comppasion)とは「慈しみの心」です。辛い時に、人はとかく自分を責めて、自分に厳しく接してしまいます。
「なんてダメな自分なんだ。」
「こんなんだからバカにされるんだ」
そんな風に、悪口を自分に吐きかけて、余計に自分を苦しめてしまいます。だから、厳しい自分を、優しい自分に変える必要があるのです。それが、「セルフ・コンパッション」です。
瀬戸内寂聴さんとの対談本『利他』(小学館文庫)の中で、稲盛さんは、セルフ・コンパッションの「共通の人間性」(Common humanity)に通じることをいっています。
「たしかにこの世の中というのは日々流転していくわけで、いわゆる波瀾万丈の変化をしていくということこそが、いつの世も常であって、たとえこれは地獄ではなかろうかと思う時期があったとしても、それはいつまでも続くことはない。また、何も自分だけが苦しいわけじゃないんですよね。そう思えば、力が湧いてくるはずです。」
苦しい時、必ず、仲間がいます。
経営のこと、人のこと、お金のこと…人生はいろいろな難題を私たちに突きつけてきますが、同じ悩みを抱えて、それを何とかしようと奮闘している仲間がいます。
「自分だけが苦しいわけじゃない」そして、「決してひとりじゃない」と思えることは、折れそうになる心を支えるつえとなります。
稲盛和夫の名言7:一人ひとりの思いと行いを変える
2010年2月、稲盛さんは日本航空の会長に就任します。国からの依頼を受けて破綻した日本航空の再生事業に取り組むことになります。79歳になる年です。報酬は〇円でした。
日航再生で、まず力を入れたのが幹部クラスのリーダー教育です。稲盛さんは、それまで培ってきた経営哲学を熱く語りました。ところが、中には、稲盛さんの教えを嘲笑するような態度を見せる人もいたのです。
「人間として正しいことを正しいまま貫く」
稲盛さんは、上の言葉を軸とした「経営哲学」を、ひたすら日航の社員に説き続けました。
リーダー教育が続けれら、だんだんと稲盛さんの教えが胸に響いていくようになると、幹部たちの態度が変わっていきました。心が変化し、行動が変化していったのです。
このリーダー教育がひとつの起爆剤となり、改革は前へ前へと進んでいき、やがて業績も回復していきました。
心が変われば運命が変わる。
まさにその通りのことが起きたのです。会長に就任にしてから2年7ヶ月後、2012年9月に日航は再上場を果たします。稲盛さんは、日航再生の経験から著書『燃える闘魂』(毎日新聞社)の中で、こう書いています。
日本航空がそうであったように、一人ひとりの思いと行いを変えることが、この国を、世界を一変することになるはずである。
思いを変える。心をよりよく変える。
言ってみればシンプルな教えが、仕事においても経営におもいても、そして人生においても、やはり大切です。
稲盛和夫の名言8:人生の方程式
稲盛さんには、人生と仕事に関する有名な方程式があります。
それが次のものです。
人生・仕事結果=考え方×熱意×能力
人生と仕事の結果は、「考え方」と「熱意」と「能力」を掛け算して生まれくる、という方程式です。
能力がどれだけ高くても、熱意がなければ継続できず、結果につながりません。仮に能力と熱意があっても、その人の「考え方」が、人の道から外れたものだったら、その成果は周囲の人や社会に迷惑をかけるものになります。
ですから、「どんな考え方をするか」「どんな哲学をもつか」が、最も重視されるのです。リーダーの考え方が誤ったために、多くの社員に、広く社会に迷惑をかけてしまう例は、後を絶ちません。
稲盛さんは、著書『生き方』(サンマーク出版)の中で、こう言っています。
よい心がけを忘れず、もてる能力を発揮し、つねに情熱を傾けていく。それが人生に大きな果実をもたらす秘訣であり、人生を成功に導く王道なのです。なぜなら、それは宇宙の法則に沿った生き方であるからです。
『生き方』(稲盛和夫 サンマーク出版) p53-54
宇宙の法則にあった生き方する。このことを稲盛さんはすすめます。
宇宙の法則といったからといって、何も特別なことはありません。その生き方は、上の言葉に凝縮されています。
よい心がけを忘れず、
もてる能力を発揮し、
つねに情熱を傾けていく。
この教えを実践していけば、運命は必ずや、よりよく変わっていくことでしょう。
稲盛和夫の名言9:大善は非情に似たり、小善は大悪に似たり
人生には、優しさばかりではなく、時に「厳しさ」が必要となります。
人を育てる時には、特にそうです。
その場の雰囲気や嫌われないコト=「小善」を優先して、言うべき厳しいことを言わないと、部下の将来的な成長という「大善」が損なわれることになります。
会社がいい雰囲気であることは大切です。ただ、いい雰囲気とは、言うべきこを言い合える環境のことであり、そこには厳しさが含まれます。厳しいことを言われても険悪な雰囲気にならない。そうしたマインドセットを社員が共通してもっていることで、成果をあげる「真のいい雰囲気」が生まれてくるのです。
「大善は非情に似たり、小善は大悪に似たり」という言葉があります。小善をもって部下を導いていくリーダーは、つかの間の名声や成功しか手にすることはできないのです」
記憶に残る上司の多くは、「厳しいことを言ってくれた人だ」と、よく聞きます。
小善ではなく、常に、大善を意識して行動していきましょう。
稲盛和夫の名言10:善き思い・善き行い
稲盛さんの書いた『生き方』(サンマーク出版)は、日本国内で100万部を突破し、海外出版を含めると1,500万部を越えた世界的大ベストセラーです。
実り豊かな人生を歩むための秘訣が、1冊の本の中におさめられています。
さまざまな教えがあります。要約することはとても難しいです。ただ、この本のエッセンスを凝縮する一文といったら、次の言葉ではないでしょうか。
一生懸命働くこと、感謝の心を忘れないこと、善き思い、正しい行いに努めること、素直な反省心でいつも自分を律すること、日々の暮らしの中で心を磨き、人格を高めつづけること。
すなわち、そのような当たり前のことを一生懸命行っていくことに、まさに生きる意義があるし、それ以外に、人間としての「生き方」はないように思います。
稲盛さんは、「それ以外に、人間としての「生き方」はないように思います。」といっています。それだけ大事だということです。
上の文章を箇条書きにすると、5箇条となります。
- 一生懸命働くこと
- 感謝の心を忘れないこと
- 善き思い、正しい行いに努めること
- 素直な反省心でいつも自分を律すること
- 心を磨き、人格を高めつづけること
「心を磨き、人格を高める」が目標です。❶〜❹を、日々、心がけ実践していくことで、目標の「心を磨き、人格を高める」を達成できると、考えられます。
稲盛さんは、2022年8月24日に永眠されました。享年90歳でした。
稲盛さんの教えを、私たちがしっかりと実践しているか、天から見守ってくれていることでしょう。
(文:松山 淳)
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