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松下幸之助に学ぶ仕事を好きになる考え方

コラム107松下幸之助に学ぶ仕事を好きになる考え方

好きこそものの上手なれ

今の仕事が好きですか?

 この質問に「はい!」と即座に答えらたら、その人は「幸せ」といえるでしょう。人間は人生の大半を仕事に取り組むことで過ごします。仕事の時間を「好きなこと」に費やせたら、健やかな精神を育むことができ「幸福度」を高めます。

 世界三大心理学者のひとりで精神分析学の開祖フロイトは、「健康な人はどんな人ですか?」と問われ、こう答えたと伝えられています。

フロイト
フロイト

「健康な人とは、愛することができる人と 、働くことができる人です。」

 ここで「健康な人」とは、それは「心の健康」を含みますので、いわば「幸せな理想的な状態」に近い人です。その条件として「働くこと」を、偉人フロイトは指摘しているのです。

まっつん
まっつん

 確かに、うつ病など「心の病」になってしまうと、会社を休むことになり「働くこと」は難しくなります。働けていることは、健康の証です。でも、現代では「働けている」=「健康」とは、単純にイコールで結ぶことはできません。
 なぜなら、働けていても、「好きでない仕事」に取り組んでいて、会社に行くのが憂鬱で、精神的に「不健康」な人もいるからです。

 社員を粗末に扱う「ブラック企業」に勤めていたら、働けていても「幸せ」とはいえません。さらにいえば、労働条件がよく社員の幸せを最優先して考える「ホワイト企業」で働いていても、「仕事を好きになれない」のであれば、それも「幸せ」とはいえませんね。

 松下電器産業(現:パナソニック)を創業した名経営者松下幸之助さんは、著書『指導者の条件』(PHP研究所)に、こんな言葉を残しています。

『指導者の条件』(松下幸之助 PHP研究所)の表紙画像
『指導者の条件』(松下幸之助 PHP研究所)
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松下幸之助
松下幸之助

「ことわざにも“好きこそものの上手なれ”ということがあるが、この“好き”ということは何をやるにしても一番大切だと思う。
 好きでないことをいくらやっても、その道で成功するのはむずかしいといってもいいのではないだろうか。芸術家でも運動選手でも、好きであればこそ、はげしい練習、きびしい訓練をも苦とせず精進努力するわけである。それでも、一流となり、成功することはなかなかむずかしい。まして、好きでもない人がやって、それでうまくいくわけがない。」

『指導者の条件』(松下幸之助 PHP研究所)

 仕事が「好き」とは、仕事に取り組んでいて、ポジティブな感情をもてている状態です。前向きで、ワクワクできていたり、心地よさがあります。でも、「好きな仕事」をしていて、いつも「ポジティブな感情」に満たされているわけではありません。

 トップアスリートが自分の好きなスポーツに取り組みつつも、厳しい練習では「大きな苦しみ」を味わうのは普通のことです。松下幸之助さんが言うように、そうした苦しみに耐えられるのも、「好き」という感情があるからですね。

間違った思い込み

 仕事が嫌になって「会社を辞めたい」と憂鬱になると、「隣の芝生は青く見える」で、「仕事を好きでやっている人はいいな。いつも元気そうで、輝いている」と考えがちです。

 でも、それは間違った「思い込み」です。もちろん、中には「仕事が楽しくて楽しくて仕方がない」という人も、いないわけではありませんが、「仕事が好きな人」でも、辛さ苦しさを味わうことは、あるわけです。

 トップアスリートが厳しく苦しい練習の先に「栄光」があると、信じているように、「仕事な好きな人」にとって「苦しみ」とは、栄光を達成するための通過点です。

まっつん
まっつん

 私たちもトップアスリートのような「苦しみは栄光への通過点」と考えるメンタリティを持つことができれば、仕事に対して「ポジティブな感情」をもつことができるでしょう。

 ところで、「仕事」をやり続けようとする時、「ただ好き」という感情だけで長続きするものでしょうか。松下幸之助さんの言葉は、もちろん、価値ある教えですが、「好き」以外にも何らかの動機があることで、今している仕事に対して、人はポジティブな感情を持つことができるのではないでしょうか。


働くことに関する調査

 マーケティング支援事業を行う「ディーアンドエム」が、2017年10月「働くことに関するアンケート」(実際期間2017年10/23~10/25)の結果を発表しました。

あなたは働くことが好きですか?

 アンケートは全国の男女約28,000人に対して行っていますので、大規模な調査といえます。「あなたは働くことが好きですか?」という質問に対する結果は以下の通りになりました。

あなたは働くことが好きですか?

「大好き」(5.7%)
「好き」(28.1%)
「どちらかと言えば好き」(34.7%)

「とても嫌い」(4.0%)
「嫌い」(6.1%)
「どちらかと言えば嫌い」(21.4%)

働くことに関するアンケート」(実際期間2017年10/23~10/25)

 これを見ると、「どちらかと言えば好き」を含めれば、「68.5%」約7割の人が働くことに対してポジティブな感情を抱いています。反対に「嫌い」の合計は、31.5%です。約3割の人が、仕事に対してネガティブな感情をもっています。

 「働くこと」に関する調査は様々ありますので、これだけで「日本人は働くことが好き」とは言い切れません。「会社に貢献したい」という日本人の意欲は、世界レベルでは低いことが、様々な調査で明らかにになっています。

何故人間は働くのだと思いますか?

 では、なぜ、私たちは働くのでしょうか?その理由についても、このアンケートでは尋ねています。その結果が、以下の通りです。 

何故人間は働くのだと思いますか?

🔸1位「生活をしていく(生きていく)ため」(82.4%)
🔸2位「家族を養うため」(46.7%)
🔸3位「趣味や自由に使えるお金を手に入れるため」(39.2%)
🔸4位「自分を成長させるため」(26.7%)
🔸5位「人生の大変さを身に着けるため」(12.3%)

 圧倒的な1位は「生活をしていく(生きていく)ため」ですね。2位「家族を養う」も「生活」の一面と、とらえれば同系統の回答です。

 ただ、「自分のため」と「他人のため」という考え方でくくると、「他人のため」は、2位「家族を養う」だけです。1位の回答にも「他人のため」は含まれますが、明確に「他人のため」ではありません。

 4位「自分を成長させるため」と5位「人生の大変さを身に着けるため」は、「人間性を高める」項目といえ、下位でありながらも、一定数が存在することは、古くから言われる「仕事を通しての人としての成長」に価値を置く人がいることを示しています。


「好きか嫌いか」より「何のために働くか」!

 松下幸之助さんは、ことわざ「好きこそものの上手なれ」で、仕事を好きになることの大切さを諭しました。

 ただ、現実では「仕事が好き」という感情をもつことが、とても難しい場面に私たちは出くわします。

 「仕事を好きになれない」というケースでは、事情が複雑にからみあっていることもあります。例えば、とんでもない上司や非常識な部下に苦しめられ社内の人間関係がこじれてしまっているとか、取引先にモンスタークレーマーがいるとか、残業しても残業しても手当がまったくつかないとか…「仕事そのものは好き」だけど、会社の環境や制度が「仕事を嫌いにさせる要因」を作り出しているのです。

 「仕事を好きになれない」と悩んだ時には、「好きか嫌いか」という感情に焦点をあてて「好きになろう、好きになろう」と考えるのではなく、「〜のために」という、「仕事をすることで達成したい目標」を深く考え、その点に焦点をあてることが、悩みから抜け出すポイントになります。

 松下幸之助さんは、こんな言葉も残しています。

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松下幸之助
松下幸之助

「一つの志を立て、それを一生つらぬくということもあろうし、あるいは人生のその時どきにある志を持ち、それを次つぎと遂げていくということもあるだろう。それはいろいろな姿があっていいと思うが、そいうものを何も持たずして、ただ何となく日々を送るということでは、人生の喜びも生き甲斐もうすいものになってしまうだろう。やはり、一つの志を立て、その達成を目ざして歩むところに、力強さが生まれてくるのだと思う

『指導者の条件』(松下幸之助 PHP研究所)

「志」というと、なんだかおおげさで、身近に感じられないかもしれませんが、要は、「〜ために」の内容を考えることです。

まっつん
まっつん

 「志」といったら環境問題、紛争、貧困を解決するような社会に貢献する「大きなビジョン」をイメージできれば、よりいいでしょう。ですが、そのことにリアリティを感じられない場合は、無理することないのです。

 アンケート調査の結果には「家族を養うため」「趣味や自由に使えるお金を手に入れるため」「自分を成長させるため」などとありました。

 「家族のため」だって、「恋人のため」だっていいでしょう。週末、楽しみにしている「自分の趣味」のために、仕事をがんばれるのであれば、それでいいのです。

 「〜ために」仕事を続けていくと、嫌いで嫌いで仕方のなかった仕事が「好きになる」こともあるのです。

「経営の神様」稲盛和夫も仕事が嫌いな時はあった。

 今を生きる「経営の神様」である京セラ創業者稲盛和夫さんも、就活に失敗し、大学を卒業して入った会社は、ブラック企業のような状態でした。同期は次から次へと辞めていき、稲盛さんも会社が嫌になり、「もう辞めよう」と自衛隊の試験を受けています。

 結局、書類が足りず自衛隊への入隊はできず、同期でひとり会社に残ることになるのです。ここで稲盛さんは「仕事を好きになる努力をした」と言っています。そして、こんな言葉を本に書いています。

稲盛和夫
稲盛和夫

「八方ふさがりの状態で、いつまでもすねて、毎日ぶつぶつ言っていても、どうなるものでもない。自分の人生をうらんでみても、天に唾するようなものだ。たった一度しかない貴重な人生を、決して無駄に過ごしてはならない。どんな環境であろうと、常に前向きに生きよう」

『人生と経営』(稲盛和夫 致知出版社) p53-54

 若い頃は、不遇の人生だったのが、「仕事に好きになろう」と、覚悟を定め必死の努力を始めた時から、稲盛さんの運命は好転していったそうです。

 稲盛さんは理系出身の技術者です。「素晴らしい技術を開発するため」が、若き日の働く動機であり「志」でした。そのため「会社は嫌い」でも、寝る間を惜しんで働き続け、日本初のセラミックに関する技術開発に成功しています。

「嫌いな仕事」も好きになるのが人。

 嫌で嫌で仕方なかった会社で、仕事が好きになり、そして、この会社から独立して現在の「京セラ」が生まれるのです。

まっつん
まっつん

 「好き・嫌い」という感情は、山の天気のように変わりやすいものです。もちろん「志」「〜ために」も変わっていきます。独身時代は、自分の趣味のためにだったのが、結婚すれば、「愛する妻のため」になり、子どもができれば、「子どもため、家族のため」と変わるでしょう。

 ただ、「好き・嫌い」の変化が、その日その日の感情状態によって変わりやすいのに比べると、「〜ために」には、持続性があります。昨日と今日で、急に変わるものではなく、年単位で変化していくものです。

 稲盛さんがそうであったように、「嫌いな仕事」だけど、「〜ために」に続けていたら、「仕事を好きになった」という例は、決して珍しいことではありません。

仕事を好きになるには

 「仕事を好きになるには」感情にとらわれず、「好きから嫌いか」を問うのではなく、「〜ために」=「動機」に意識の重点を置くことが、「仕事を好き」になっていく考え方です。

 その時、あまり立派なことを考えなくてもいいのです。また、ひとつでなくてもいいでしょう。「社会に貢献するため」でも「自分の成長のため」でも「趣味のため」でもよくて、それら全部であってもOKです。

 「好き・嫌い」の感情にとらわれず、自分のキャリアを大切にしましょう。

 

(文:松山淳)