大谷翔平選手は、2021年、大リーグでMVP(最優秀選手賞)を受賞し、2022年「二桁勝利・二桁本塁打」を達成して、ベーブ・ルース以来、104年ぶりに記録を更新。2023年11月17日(日本時間、米国16日)、大谷選手は2年ぶり2度目のMVPを受賞。記者たちによる2度の満票選出は、史上初の快挙となる。
2023年3月、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)にて優勝を果たす。2023年12月、エンジェルズからドジャーズへの移籍。移籍金はスポーツ史上で最高金額(10年総額約1014億円)となった。
2024年3月、大谷選手の専属通訳だった水谷一平がスーポーツ賭博の容疑でドジャースから解雇。その影響が心配されたが、メンタルの強さを見せ、好調な滑り出しでファンを安心させた。
2024年、ホームラン50、盗塁50(50-50)を達成し、大リーグの記録を塗りかえた。最終的に、ホームランは54本で、盗塁は59回。メジャー7年目で、地区優勝を果たし、自身初のトリプルスリー(打率3割、30本塁打、30盗塁)も記録した。ドジャーズは、ヤンキースを破り「ワールドシリーズ」を制覇(日本時間2024.10/31)
2024年リーグMVPを2年連続で受賞(11/22 日本時間)。指名打者(DH)がMVPを受賞するのはメジャー史上初である。両リーグで受賞するのは、史上2人目のことで、ナ・リーグ(2023年エンジェルス)で受賞し、翌年、ア・リーグで受賞するというリーグをまたぐ2年連続での受賞は、大リーグ史上初の快挙である。
大リーグで快挙を続け、今や野球界を飛び越え世界のスーパースターとなった大谷選手。果たしてどんな哲学の持ち主なのか。大谷選手の言葉から、人生を実り豊かにする思考法を学ぶ。
目次

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「大事にいくというより、思い切っていく」
『ナンバー』(1035 文藝春秋 2021/9/24)より
深い言葉です。「大事に行く」というと、その言葉には「慎重さ」が含まれます。
もちろん「慎重であること」は、大事なことです。
でも、大きな目標に取り組んだり、スランプや不調など、閉塞した状況を突破したりする時には、マインドセットとして「思い切っていく」という言葉のほうがフィット感があります。
なぜなら「大胆さ」「勇気」「積極性」というポジティブさを感じとり勢いづくからです。
「思い切って行く」
自分を勇気づける大きな力になります。
必ずよくなると思ってやってきたので、不安はありましたけど、焦りはなかったですかね。
「日本記者クラブ」記者会見(2021.11.15)より
2021年11月15日、MVPが発表される前に行われた日本記者クラブ会見での言葉です。手術をしたケガについて質問され、それに対して答えました。
「必ずよくなる」と信じること。

これ、大事ですね。辛い状況に陥った時に、希望を失うと心が折れてしまいます。時間が解決してくれることもあります。ケガは特にそうですね。
時間のかかることには、時間をかけること。
このマインドセットは、焦りそうになった時、自分にかける言葉として有効です。
そして、「今の状況がよくなるのか?」と不安になったら、不安が起きることは「当たり前」「普通のこと」と、受け入れていくに限ります。
あの大谷選手だって不安にはなったのです。
だから、不安を受け入れて「必ずよくなる」と信じることが、ケガやスランプなど、人生の逆境を乗り越えていく時のちょっとしたコツですね。

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変えなきゃいけないと思いました。今まで大事な試合で勝ち切れなかったのは自分の中に足りないものがあったからです
大谷選手は、高校3年生の時、甲子園に出場できていません。岩手県の予選大会の決勝で負けているのです。スポーツ選手であれば、誰もが負けを経験します。プロになっても変わりません。
負けを味わった時、人は大きく2つの思いを抱き、2つの間を揺れ動きます。
その2つとは、「自責」と「他責」です。
「自責」とは、自分の行動による結果は、「自分に責任がある」と考える思考法です。
「他責」とは、自分の行動による結果は、「他人に責任がある」と考える思考法です。
どちらが楽かといえば「他責」です。「負けたのは自分の責任ではない。チームメイトが悪いんだ」と他人のせいにすれば、自分は傷つかずにすみます。逆に、「自責」では、負けたことは「自分が悪い」となるので、自分を責めて辛い思いをすることになりがちです。
大谷選手は、「自分の中に足りないものがあった」と「自責」の考えをしています。
自責は辛い思いをしますが、原因を自分の責任と考えるからこそ、さらに努力を重ねて成長していけます。
「好きなことを、より一層頑張れたら毎日良い1日になるんじゃないかなと思っています」
もし、自分の好きなことを毎日できたら、それは素晴らしいことです。でも、多くの人は、必ずしも「好きなことを毎日できる」わけじゃありませんね。
時には、嫌なことも辛いことも、しなければならないのが人生です。
でも、そうして嫌なことに必死に取り組んでいくことで、「嫌いなこと」が「好きになる」こともあります。そこで必要なのが「好きになる努力」です。
「好きになる努力」をする時に、大事なことが2つあります。
ひとつ目は、自分の感情を意識し過ぎないこと。
好きとか嫌いとか、感情にとらわれると、うまくいかなくなりがちです。
ふたつ目が「無我夢中」になることです。

無我夢中の「無我」とは、「我が無い」と書きますね。人が何か集中し、無我夢中になる時、「私が、私が」と自分のことを考えたり、意識することはありません。自分のやるべきことを、ただひたすらしているだけです。
この「無我」の感覚で取り組んでいる時、人は最高の心理状態にあると言われます。心理学では「フロー体験」といい、スポーツ心理学では「ゾーンに入る」ともいいます。
今していることに無我になれている時、好きとか嫌いの感情を意識することはありません。ですので、「自分の感情を意識し過ぎないこと」と「無我夢中」はリンクしています。
「好きになる努力」を重ねて、よい1日を過ごしたいものです。
「引退したときに振り返って、感傷に浸るのか、あるいは悔しがるのか、そのときになって何かを感じればいいのかなと……それまでは何も考えずに1年1年、出し切っていきたいと思っています」
インタビュアーに、ホームラン王と二刀流としてベーブルスの記録に並ぶ10勝に届かないことについて質問んされての、大谷選手の言葉です。
大谷選手は10勝に関しては、「10勝に関しては、何とも思ってないですね。そこにこだわりはない」と言っています。ただ、ホームラン王に関しては、「自分がどれだけ打っても誰かがそれよりたくさん打っちゃえば獲れないわけで、そういう意味では獲ってみたかった」と答えています。

こだわりのない面と悔しい面の双方がありつつ、でも大谷選手が最終的に意識しているのは、過去ではなく「未来」です。未来でありベストを尽くすことです。
「何も考えずに1年1年、出し切っていきたい」
「何も考えず」は、もちろん、本当に何も考えないことではないでしょう。それは「私欲にとらわれない精神」のことを言っていて、「記録、記録と考え過ぎて」こだわりが強くなると、逆に、うまくいかなくなることをわかっているのわけですね。
「日々、もてる力を出し切っていく」
大谷選手の言葉から学びたい生きる姿勢です。

Author:Erik Drost
「反骨心みたいなのは正直なかったですし、本当に純粋に自分がどこまでうまくなれるのかなっていうのを頑張れたところがよかったのかなと思います。」
大谷選手に二刀流に対して、これまで数々の批判がありました。
「二刀流なんてうまくいかないよ」
「打者か投手のどっちかに絞ったほうがいい成績が残せる」などと…。
そうした批判に対して、「反骨心みたいなのは正直なかった」と答えています。
それより、「純粋に自分がどこまでうまくなれるのか」を意識して、「頑張れたところがよかった」と言います。

イチロー選手も、記録は結果に過ぎなものであって、純粋に「野球がどこまでうまくなるのか」にこだわっていました。それで引退をささやかれながらも、現役を続行していました。
成績や記録という結果は、もちろん大事です。それは私たちのモチベーションを高めるひとつの要因になります。
でも、結果ばかりでなく、自分の取り組んでいることに対して、「もっと上手になりたい」「もっと、うまくできるようになりたい」というより高いレベルを志向する純粋なマインドが、厳しい競争を勝ち抜く時の力になります。
「反骨心」より「純粋に自分がどこまでうまくなれるのか」。
大谷選手の言葉に耳を傾けて、純粋な向上心を力にして、より高みへと飛躍していきましょう。
今は他の基準がないので、まずは一回やってみることが重要だったと思います。やった上で、そこはそんなに大事じゃないと否定することもできるだろうし、もう少し違う形の基準を探すこともできるかもしれません。
『Number』《単独インタビュー》大谷翔平28歳に問う究極の対決!”ピッチャー大谷”は”バッター大谷”をおさえられるのか…果たして勝敗は?
2022年シーズン、大谷選手は、「規定打席&規定投球回」を達成しました。「規定投球回」とは、そのチームのレギュラーシーズンにおけるチーム試合数と同じ数です。「規定打席」とは、チーム試合数の3.1倍となります。この記録は、1900年以降のプロ野球において初の快挙でした。
この記録について尋ねられて答えのが、上の言葉です。
大谷選手は「まずは一回やってみる」と言っていますね。やってみて、否定するか違う基準を探すかを考えるわけです。
この「まずやってみる」という行動を優先する思考法は、自己成長をしていくための基本といえます。考えて考えて、結局、何もしないより、「まずは一回やってみる」と、成功と失敗を経験したほうが、次のステップに進めます。
どんな経験も人生の財産なる。
経験こそが、自己成長のための何よりの宝物です。

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結果を出すためにやり尽くしたといえる1日1日を誰よりも大事に過ごしてきました
大谷選手はストイックな選手として有名です。ストイックとは、目標達成のために「自己を厳しく律する」ことです。練習だけでなく私生活に関しても、大谷選手は、結果を出すために最善の注意を払っています。
2015年、大谷選手はダルビッシュ有選手の自宅を訪問したことがあります。2015年だと、大谷選手はまだ日本ハムの選手で、ダルビッシュ選手はすでに大リーグで活躍していました。ですので、米国アリゾナにある自宅を訪れたのです。

ダルビッシュ選手は、「午後6時に夕食、2時間後に夜食、さらに様々なサプリメントを摂取」するという徹底ぶりで、大谷選手は大きな影響を受けました。
土俵にあがる前が本当の勝負。
そんな言葉がありますね。練習はもちろんですが、体が財産のアスリートたちは、どんな食事をし、どんな私生活を送るかで、結果が変わってきます。
どれだけ自分を律することができたか。結果を出すためにどれだけやり尽くしたのか。常に問わねばなりません。
最も準備をする者に幸運の女神は微笑む。
本番に向けて「どれだけやり尽くすのか」が、成功と失敗の別れ道です。
2023年3月、日本代表は、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で、決勝でアメリカ代表を撃破し、優勝を果たしました。そのアメリカ戦の前に、ロッカールームで日本代表選手たち大谷選手が語ったのが、あの有名な言葉です。

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憧れるのをやめましょう。
この言葉を、もう少し長く引用すると、こうなります。
僕からは1個だけ。憧れるのをやめましょう。野球やってれば誰しもが聞いたことあるような選手たちがやっぱりいると思うんですけど、今日一日だけは、憧れてしまったら超えられないんで。僕らは今日超えるために、トップになるために来たので。今日一日だけは彼らへの憧れを捨てて、勝つことだけ考えていきましょう。さあ行こう!『大谷翔平語録』(斎藤庸裕 宝島社)
実力があるのに、尊敬のまなざしが、弱気な気持ちに変わってしまっては、もったいないです。「憧れの心理」と「自己卑下の心理」には、シンプルな共通点があります。
それは、「比べる心」です。
他者と自分を比べることで、「憧れ」も「自己卑下」も生まれてきます。自己卑下傾向がある人は、自分に対して過度に低い評価を下しますので、多くのケースで、自分で考えている以上に、現実には「できている」ケースが多いのです。

だから、「自己卑下をやめましょう」とは、「他人と自分を比べるのをやめましょう」というアドバイスになってきます。
「他人は他人、自分は自分」
他人と自分を比べることはやめて、自己卑下をやめて、やるべきことをやっていきましょう。
長らく大谷選手の専属通訳だった水谷一平が、2024年3月20日、スーポーツ賭博の件で、ドジャースを解雇されました。開幕戦直後のことでした。事件の内容が明らかになるまで、大谷選手も賭博に関わっていたのではないかと、メディアは大谷選手にも疑いの目を向けました。
プレーに大きな影響が出るのではないかと心配されていましたが、大谷選手は開幕からヒットとホームランを順調に重ね、好調をキープすることができました。改めて、メンタルの強さにも注目が集まりました。
2024年4/24、大谷選手は水原一平容疑者の件で、記者から「親友がいなくなったことで、感情的に何か感じるものは?」と尋ねられます。この質問に対しての答えが次の言葉です。
「失った、それ以上に、チームメイトをはじめ、支えてくれている人たちがたくさんいるので、むしろその方たちに感謝したいと感じることが多いです」
大谷選手が、公の場でスピーチをする時、感謝の言葉をよく口するのが印象的です。アメリカで大谷選手が人気なのは、「感謝の念」を大切していることもひとつの要因と考えられます。

感謝の念をもつことは、人を謙虚にさせます。どれだけスーパースターになっても、謙虚である大谷選手の姿は、私たちのお手本になるものです。
「ありがたい」(有難い)の反対は、「当たり前」です。
何でも「当たり前」と思っていると、感謝の念は、わいてきません。感謝の念がないと、人はどこかで傲慢になっていきます。
どんな人にも「支えてくれている人」がいるものです。大谷選手のように、「支えてくれている人」に対して「ありがたい」と思う「感謝の念」を忘れたくないものです。
(文:松山 淳)
1994年 岩手県生まれ。花巻東高校に進学し甲子園出場を果たす。2013年日本ハムに入団し「二刀流」の選手として活躍する。2017年ポスティングシステムを利用し大リーグに挑戦。エンジェルズと契約を結ぶ。2018年、日本人としてイチロー選手以来17年ぶりの新人王を受賞する。2019年は106試合に出場。打率.286で本塁打18本を記録。2020年は、怪我に泣かされ44試合の出場、打率.190、7本塁打に終わった。「二刀流は無理ではないか」と、多く人から批判される。
日本時間2021年11月19日(米国18日)、MVP(最優秀選手賞)を受賞。イチロー選手以来で、日本人として2人目、20年ぶりの快挙となった。成績は、投手として9勝2敗を記録。打者としては46本塁打、100打点をマーク。「二桁勝利・二桁本塁打」を達成すればベーブ・ルース以来、103年ぶりの記録。しかし、あと一歩、及ばず2021年シーズンを終える。
2022年シーズンで、「二桁勝利・二桁本塁打」を達成。ベーブ・ルース以来の104年ぶりの偉業を成し遂げる。また、二刀流として、規定打席&規定投球回を達成した。1900年以降のプロ野球において初の快挙となる。投手として15勝、打者として34本塁打を放つ。2年連続での30本塁打を達成。2年連続でのMVP(最優秀選手賞)受賞を期待されたが、無冠に終わる。
2023年3月、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)では、日本代表(侍ジャパン)選手として「二刀流」で出場を果たす。侍ジャパンは、中国、韓国、チェコ、オースラリアに勝利し、全勝で決勝ラウンドに進出。大谷選手は、ホームランを放つなど期待通りの活躍をし、1次ラウンド(POOL B)のMVP(最優秀選手賞)を獲得。
3/21、WBC決勝ラウンドでメキシコに9回裏逆転で勝利し、決勝戦へ進出。3/22アメリカ代表と対戦し、最終回に大谷選手はリリーフ投手として登板。エンゼルスのチームメイトであるトラウト選手を三振におさえ、2023WBCで優勝。
2023年12月、エンジェルズからドジャーズへの移籍が決定し、12/14(日本時間12/15)、ドジャーズスタジアムで記者会見を行った。移籍金はスポーツ史上で最高金額(10年総額約1014億円)となった。
日本時間2024年2/29、元女子バスケットボール選手の田中真美子さんとの結婚をインスタにて発表。大谷選手の専属通訳だった水谷一平が、2024年3/20、スーポーツ賭博の容疑でドジャースから解雇される。
2024年シーズンは、ホームラン54本、盗塁59回を達成して、大リーグ史上、初の記録となった。ドージャーズはワールドシリーズに進出し、ヤンキースを破り、大リーグの頂点に立った。指名打者として大リーグ初となるMVPを受賞(2024.11/22)