サーバント・リーダーシップとは

リーダーシップコラム004 サーバント・リーダーシップ

サーバント・リーダーシップの始まり。

 キリストが弟子たちの足を洗った。

 これは「最後の晩餐」でのエピソードです。「洗足式」と呼ばれる儀式となり、今も行っている教会があります。

 キリストは、ヨハネ、ペテロ、ヤコブなど十二使徒の弟子を率いるリーダーでした。そのリーダー自らが、膝まづき足を洗ったのです。当時、足を洗うのは召使いなどの身分の低い者の仕事でした。リーダーが「足を洗え」と弟子に命令したのではなく、自らが「奉仕の精神」を発揮して召使いの仕事をしたのです。
 
 こうしたキリスト教の「奉仕の精神」が根付くアメリカから、「サーバント・リーダーシップ」が生まれてくるのは自然なことかもしれません。

 今回の記事のメインテーマである、サーバント・リーダーシップは、「奉仕型リーダーシップ」「支援型リーダーシップ」と訳されます。

《サーバントリーダーシップ》
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奉仕型リーダーシップ
支援型リーダーシップ

 サーバント(Servant)の意味は、日本語では「召使い」「使用人」です。「サーバント」に「リーダーシップ」という対立する言葉がつくことで、サーバント・リーダーシップは、逆説的な意味合いを強めています。

 私はサーバント・リーダーシップを、こう定義しています。

サーバントリーダーシップとは

リーダーがフォロワーに奉仕することで
「信頼」を獲得し、
その「信頼」を源泉として
発揮されるリーダーシップ

サーバント・リーダーシップの提唱者

「サーバント・リーダーシップ」の提唱者は、元AT&T(米国の大手通信会社)マネジメントセンター所長のロバート・K・グリーンリーフ(1904-1990)です

 彼はAT&Tに40年間勤務。その後、第2の人生として25年間、オハイオ大学、マサーチュセッツ工科大学、フォード財団、リーダー財団など、様々な組織にコンサルティングを行いサーバント・リーダーシップの啓蒙に尽くしました。

 1964年に「応用倫理学センター」を創設し、これがサーバント・リーダーシップの啓蒙拠点となります。「応用倫理学センター」は、1985年に「ロバート・K・グリーンリーフ・センター」と改称され、グリーンリーフ亡き今も、活動は継続されています。

サーバント・リーダーシップの提唱者ロバート・K・グリーンリーフ
ロバート・K・グリーンリーフ
(Robert・K・Greenleaf)

 グリーンリーフが、1970年に書いた『リーダーとしてのサーバント』という小論で、初めて「サーバント・リーダーシップ」という言葉が使われました。この小論が「サーバント・リーダーシップ」の始まりです。

サーバント・リーダーシップの原点

 彼は、敬虔なクリスチャンでしたので、「奉仕の精神」に基づく行動は、日頃から心がけていたことだったでしょう。

 そんなグリーンリーフが、「サーバント・リーダーシップ」の発想を得たのは、米国の小説家ヘルマン・ヘッセが書いた『東方巡礼』です。『東方巡礼』のあらすじは、こんな感じです。

ヘルマン・ヘッセ全集〈第10巻〉新潮社 (1957)
ヘルマン・ヘッセ全集〈第10巻〉
新潮社 (1957)
 物語の語り部である主人公H・Hは、ある結社に所属していた。音楽家であったHは、ある日、その結社が計画する「東方巡礼」の旅に出ることになる。それは、鉄道や飛行機などを一切使わず世界を巡り、過去・現在・未来を行き来するような魔術的な旅であった。

 旅行の一団にレーオという「召使い」がいた。荷物運びや旅を指揮する「代弁者」の個人的な用をこなしたりしていた。レーオは陽気で親切で、かといって目立つことがなく、押しつけがましくない人をひきつける魅力をもっていた。だから誰もがレーオを愛していた。
 
 ところが、レーオは、モルビオ・インフェリオレ(「死の病」を意味する)の危険な峡谷で姿を消してしまう。皆でレーオを探したが、見つけることはできなかった。
 
 やがて旅団のメンバーは、「結社の証書」のことで言い争うようになり、信頼関係が崩れていく。Hは疑惑にかられ、旅をする気力を失い旅団から離れる。「東方巡礼」の旅は失敗に終わった。Hは結社から脱走した裏切り者となってしまう。

 その後、Hは幻のような記憶となった「東方巡礼」の出来事を記録に残そうとする。だが、うまくいかず苦悩している時に、相談に乗ってもらおうと作家のルカスを訪ねる。ルカスはHがあまりにレーオにこだわっていたため、からかい半分、手元にあった住所録を適当に開いて「レーオ」という名を指さし笑った。「ここにもうちゃんとレーオという人がいる」と。
 
 Hがその住所を尋ねてみると、その「レーオ」は、東方巡礼に同行したあの「レーオ」だった。そしてHは、結社のトップである最高幹部が、実は「レーオ」だと知ることになる…。

 最高幹部(トップ・リーダー)が、わざわざ「召使い」となって、旅するメンバーに奉仕していたのですね。『東方巡礼』で、レーオは「奉仕の法則」について、こう言っています。

「長く生きようと欲するものは、奉仕しなければなりません。支配しようと欲するものは、長生きしません」

『東方巡礼』(ヘルマン・ヘッセ全集〈第10巻〉新潮社)p219-220

 グリーリーフは、『東方巡礼』で描かれた「リーダー(最高幹部)がサーバント(召使い)であった」逆説的な点をとらえて、「サーバント・リーダーシップ」の本質を語っています。

『サーバント・リーダーシップ』(英知出版)
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グリーリーフ

私にはこの物語がはっきりとこう語っていると思われる。「優れたリーダーは、まずサーバントと見なされる」、と。この単純な事実こそ、レーオの偉大さの鍵となっている。実を言えば、レーオはずっとリーダーだったが、そもそもサーバントだった。なぜなら、それが彼の生来の姿だったからだ。生まれつきサーバントとしての資質を備えた人に、リーダーシップが授けられたということである。

『サーバント・リーダーシップ』(英知出版)p45

 グリーンリーフは、リーダーの資質を、生まれ持って「サーバント」的な精神を備えた人だと言っています。そんな人にリーダーシップが授けられるのだと。

 キリスト教的な「奉仕の精神」が根付く国はよいのですが、日本人の多くは、キリスト教を信仰しているわけではありません。「サーバント・リーダーシップ」を受け入れてもらうことは、時に困難を極めます。

 「サーバント」(召使い)という言葉が、どうにもこうにも、抵抗感のある人がいるのです…。


優れた組織のトップはサーバント・リーダー

 前に書いた通り、「サーバント」は、「召使い」「使用人」という意味です。また、「サーバントリーダー」は、奉仕し尽くすリーダーです。すると、これらの低姿勢な言葉に過剰に反応して「上司が部下の召使いとは、なんだ!」「何で上司が部下に尽くすんだ」「奉仕って、仕事はボランティアじゃないんだぞ!」などと、表面的な理解で拒絶してしまう人がいます。

 サーバント・リーダーを否定する人は、「地位の高さ」やそれに伴う「権力の強さ」が、リーダーシップ力を決めると認識しがちな「プライド」の高い人たちです。

真のリーダーは謙虚である。

 一方で、「サーバント・リーダーシップ」は、「利他」や「謙虚さを美徳とする」精神文化が根付く日本において、むしろ受け入れやすいリーダーシップだと考えることができます。

 実際、サーバント・リーダーシップ研修を行うと、人生の信条として「利他の精神」や「謙虚さ」を、そもそも大事にしているリーダーたちは、サーバント・リーダーシップをとても好意的に受け入れます。

管理職Aサン

「今まで自分がなんとなく行ってきたリーダーシップを、理論的には説明できなかったけれど、つまり、自分はずっとサーバント・リーダー的な動き方をしてきたんだとわかって、安心したし自信がもてた!」

 また、「自分はリーダータイプではない」と悩んでいた人たちとっては、「このリーダーシップならやっていける」と、救いになるのです。

 「リーダーシップは、リーダー(上司)からフォロワー(部下)への影響力」のことですから、どのように影響を与えるのか、そのスタイルは自由でいいのです。

 「先頭にたって引張る」も〝リーダーシップ〟ならば、「部下を支えるためにリーダーは存在する」と謙虚に考え「奉仕の精神」で行動するのも〝リーダーシップ〟です。

ちなみに、グリーンリーフは、こう書いています。

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グリーリーフ

私の経験からすると、真に優れた組織のまさにトップはサーバント・リーダーだ。こうした人々は、謙虚で腰が低く、オープンで人の話を素直に聞き、丁寧で面倒見がよく、その上、決断力がある。

『サーバント・リーダーシップ』(英知出版)p31

 この一文を読むと、『ビジョナリーカンパニー2』(日経BP社)で提唱された卓越したリーダーの特徴である「第五水準のリーダー」を思い出しますね。(「第五水準のリーダー」については、「リーダーにカリスマはいらない」で、詳しく書きましたので、ご参考までに)

第五水準のリーダー
個人としての謙虚と職業人としての意思の強さという矛盾した性格の組み合わせによって、偉大さを維持できる企業を作り上げる。

矛盾にリーダーシップの真実がある。

 「第五水準のリーダー」を定義する一文に「矛盾した性格の組み合わせ」とあります。グリーンリーフがいう「サーバントがリーダーである」。これは、よく考えると矛盾しています。サーバントは奉仕する人であり、尽くす人です。リーダーは、集団を引っ張り導く人です。でも、その矛盾にリーダーシップの真実が隠されています。

http://www.earthship-c.com/wp/wp-content/uploads/2019/08/jun-face.jpg
まっつん

「冷めた情熱」「優しい悪魔」「小さな巨人」など、矛盾した言葉をあえて組み合わせることで、言葉の意味に深みを出す修辞技法を「撞着語法」(オクシモロン:oxymoron)と言います。「撞着」とは、「矛盾」のことです。「急がば回れ」「ゆっくり急げ」もそのひとつですね。

 サーバント・リーダーシップも「撞着語法」と考えることもできます。矛盾しているので、一見、「なんだ!」と疑問に思うのですが、矛盾ゆえに、世の真実を表現しているのです。

 光があれば闇があり、夜があれば朝があります。男がいれば女がいて、西洋があれば東洋があります。陰と陽。世の中は、矛盾し対立する概念で成り立っています。

 「闇」(陰)と「光」(陽)は、言葉として対立していますが、どちらかが欠けてしまうと、その反対のものが成立しなくなります。こうした関係を「二律背反」と言います。

 「光」は「闇」があって生まれ、「闇」も「光」があるから生まれます。意味は反対だけど、互いにその存在に「命」を与えていて共にある。これをシンボル化したのが、中国の古典『易経』にある「太極図」ですね。

『サーバントリーダーシップ』(英知出版)p564図版を参考

 「サーバント」と「リーダー」は、矛盾しているようで、実は、互いに力を与えていて、ひとつのリーダーシップの形を成立させているのです。

 フォロワーに対して謙虚に尽くすからこそ、「信頼関係」が生まれ、その「信頼」を力にかえて、リーダーシップはより強いものになっていきます。

 サーバント・リーダシップの真髄は、日本でおなじみの「ことわざ」にあると、私は考えています。これも矛盾をはらんだ意義深い格言です。

実るほど頭を垂れる稲穂かな

実るほどこうべを垂れる稲穂かな

 人望のある人格の高いリーダーほど謙虚であり、頭を下げることができます。「ありがとう」と、感謝をすることを忘れません。サーバント・リーダシップを忘れそうになったら、この言葉を思い出しましょう。

 さて、話しが東洋へふれてきたので、本家アメリカでのサーバント・リーダーシップに話しを戻しましょう。


サーバント・リーダーシップ 10属性

 グリーンリーフが、1964年に「応用倫理学センター」を創設し、これが1985年に「ロバート・K・グリーンリーフ・センター」となりました。この所長であったラリー・スピアーズが、サーバント・リーダーシップの10属性をあげています。

 我が国でのリーダーシップ研究の第一人者である神戸大学の金井壽宏先生が、この10属性をわかりやすくまとめて下さっていますので、『サーバント・リーダーシップ』(英知出版)p572-573より引用いたします。

スピアーズの10属性
  1. 傾聴(Listening)
    大事な人たちの望むことを意図的に聞き出すことに強く関わる。同時に自分の内なる声にも耳を傾け、自分の存在意義をその両面から考えることができる。
  2. 共感(Empathy)
    傾聴するためには、相手の立場に立って、何をしてほしかかが共感的にわからなくてはならない。他の人々の気持ちを理解し、共感することができる。
  3. 癒し(Healing)
    集団や組織を大変革し統合させる大きな力になるのは、人を癒すことを学習することだ。欠けているもの、傷ついているところを見つけ、全体性(Wholeness)を探し求める。
  4. 気づき(Self-Awareness)
    一般的に意識を高めることが大事だが、とくに自分への気づき(self-awareness)がサーバント・リーダーを強化する。自分と自部門を知ること。このことは、倫理観や価値観とも関わる。
  5. 説得(Persuasion)
    職位に付随する権限に依拠することなく、また、服従を強要することなく、他の人々を説得できる。
  6. 概念化(Conceptualization)
    大きな夢を見る(dream great dream)能力を育てたいと願う。日常の業務上の目標を超えて、自分の志向をストレッチして広げる。制度に対するビジョナリーな概念をもたらす。
  7. 先⾒力、予⾒力(Foresight)概念化の力と関わるが、今の状況がもたらす帰結をあらかじめ見ることができなくても、それを見定めようとする。それが見えたときに、はっきりと気づく。過去の教訓、現在の現実、将来のための決定のありそうな帰結を理解できる。
  8. 執事役(Stewardship)
    エンパワーメントの著作で有名なコンサルタントのピーター・ブロック(Peter Block)の著者の書名で知られているが、執事役とは、大切なものを任せても信頼できると思われるような人を指す。より大きな社会のために、制度を、その人になら信託できること。
  9. 人々の成長にかかわる(Commitment to the growth of people)
    人々には、働き手としての目に見える貢献を超えて、その存在そのものに内在的価値があると信じる。自分の制度の中のひとりひとりの、そしてみんなの成長に深くコミットできる。
  10. コミュニティづくり(Building community)
    人間の歴史のなかで、地域のコミュニティから大規模な制度の活動の母体が移ったのは、最近のことだが、同じ制度のなかで仕事をする(奉仕する)人たちの間に、コミュニティを創り出す。

Larry C.Spears(1998).“Tracing the Growing Impact Of Servant-Leadership.” In Larry C.Spears ed(1998). Insights Of Leadership:Service,Stewardship,Spritt, and Stewardship-Leadership. New-York:Jhon Wiley & Sons.pp.3-6の記述より金井が要約。

 この10属性で特徴的なのは、やはり「傾聴」「共感」「癒し」という項目が最初に来ている点です。この3つは、リーダーに求められる資質として、正面切っては、なかなかクローズアップされてこなかったものです。

リーダーの3大条件は、「傾聴」「共感」「癒し」である。

 こう聞いたら、どうですか?何だか、ちょっと、違和感がありますよね。力強さに欠けるというか、リーダー論っぽくないような…。

 「傾聴」「共感」「癒し」というと、リーダーというよりも、カウンセラーなどセラピストの資質です。でも、ここがサーバント・リーダーシップの特徴的なところです。

 「コーチング」がリーダーの基本スキルとなる、現在の日本では、サーバント・リーダーシップという包括的なリーダーシップ理論があることで、コーチング・スキルを学ぶ後ろ盾になります。

 人の話しを本当に「聴く」ということは、謙虚さがなければ、できないことです。コーチングで「傾聴」は必須スキルですが、傾聴だけにフォーカスしてスキル磨こうとするよりも、傾聴がサーバント・リーダーシップと結びついて、自身のリーダーシップ力を高めると考えたほうが、より包括的にリーダーシップを磨く思考に近づくことができますね。

 さて、サーバントの条件なども理解できたところで、実務家たちの声に耳を傾けてみたいと思います。

トップバッターは、かの「資生堂」です。


サーバント・リーダーシップの事例

資生堂

 2001年より「資生堂」の社長として社を導いた池田守男氏は、不振にあえいでいた会社を立て直すために「サーバント・リーダーシップ」の考え方を改革の中心におきました。その詳細は、『サーバントリーダーシップ入門』(著 池田守男 金井壽宏 かんき出版)に書かれています。

『サーバントリーダーシップ入門』
(池田守男 金井壽宏かんき出版)
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 資生堂は池田氏の経営改革で、それまでとは違った戦略をとり、成功をおさめることができました。サーバントの精神を発揮し、店頭で働くスタッフの意見に耳を傾け、スタッフの「声」を具現化していきました。スタッフの着る制服を変えたり、POSシステムの導入を行ったりして、組織風土を変えていきました。現場のスタッフから意見を聞く会議には、社長自ら出席しました。

元池田社長は、『サーバントリーダーシップ入門』に、こう書いています。

「上の地位にある者が、第一線に指示をして仕事の仕方を変えさせるのではなく、第一線がやりやすいように仕事の環境を整え、彼らの自主的な改善を後押しするサーバント・リーダーシップの考え方が、社員の意識改革に変化をもたせた。」

『サーバントリーダーシップ入門』(著 池田守男 金井壽宏 かんき出版)p112

 これぞサーバント・リーダーシップですね。トップダウンで、命令によって、「あれやれ、これやれ」と強引に改革を押し進めるのではなく、現場で起きていることにリーダーたちがしっかり耳を傾け、第一線で働く人たち自らが改革の主役となるように、リーダーたちは一歩下がって後方支援役となるわけです。

 このサーバント・リーダーの姿勢には、リーダーの原理原則のひとつが働いています。

リーダーとは、自分がヒーローなる人ではなく、
他人をヒーローにする人である。

 サーバント・リーダーは『東方巡礼』のレーオのように、自分がヒーローになって喜ぶのではなくて、メンバーがヒーローになって喜べる人です。それこそ真のリーダーです。

スターバックス

『スターバックスを世界一にするために守り続けてきた大切な原則』(日本経済新聞社)
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 スターバックスを世界企業に育て上げたのはハワード・シュルツ(Howard Schultz)です。そのシュルツの右腕としてスターバックスの世界進出を支えたのが、ハワード・ビーハー(Howard Behar)です。1989年、スターバックスがまだ28店舗しかない時代に入社し、スターバックス・インターナショルの社長まで登りつめた人物です。

 ふたりとも名前が「ハワード」ですので、「スターバックスは、ふたりのハワードによって育てられた」と言われることもあります。

 そんなハワード・ビーハーは、サーバント・リーダーシップをとても大切していました。同僚たちにグリーンリーフの書いた『サーバントリーダー』の小冊子を読むように強く勧めていたのです。

 『スターバックスを世界一にするために守り続けてきた大切な原則』(日本経済新聞社)で、彼はこう書いています。

あなたが尽くすお客様の小さな声に耳を傾け、そしてともに働くパートナーの声に耳を傾ければ、自分の価値観や自分と組織にとって一番大切なものを忘れずにいられるだろう。
静かな声に耳を傾ければ、奉仕型リーダー、つまり最良のリーダーとしての習慣を身につけることができるだろう。

『スターバックスを世界一にするために守り続けてきた大切な原則』(ハワード・ビーハー 日本経済新聞社)p206

 この精神は、資生堂の池田社長に通じるものですね。ビーハーが「奉仕型リーダー」を「最良のリーダー」と言っている点がポイントです。

http://www.earthship-c.com/wp/wp-content/uploads/2019/08/jun-face.jpg
まっつん

スターバックスでは、「本社」を「サポートセンター」と呼びます。「本社」が偉いのではなくて、現場をサポートするのが「本社」の役割だとする「サーバント精神」のあらわれですね。店舗で働くスタッフたちは「パートナー」と言われます。

 ハワード・ビーハーはサーバント・リーダーシップの精神を組織に浸透させるために、自分のオフィスを出たところに「逆さまの組織図」をかけていました。

 下の図で左が一般的な「組織図」のイメージですね。経営陣などトップ・リーダーが一番上に位置されて、上にいくほど「偉くて」、下にいくほど「偉くない」とされます。上から指示命令がなされて、下で働く人たちは、それに従います。

 サーバント・リーダーシップを重視する組織では、従来型の組織図をひっくり返して考えます。経営陣が一番下であり、組織で一番上に位置するのは、顧客にダイレクトに接する社員たちです。そして、経営陣をはじめとしたリーダーたちは、「奉仕の精神」をもって、最前線で働く人たちを支援(サポート)するのが役割だと認識しています。

 サーバント・リーダーは、地位の「高さ・低さ」、誰が「偉い、偉くない」といった考え方をしません。ポジションは「役割」に過ぎないと考えます。社長には社長の役割があり、新入社員には新入社員の役割があります。もちろん能力に差がありますが、組織にとってはどちらも大切な仕事です。

 「逆さまの組織図」を掲げる意味は、「ポジションの高い人が偉い」とする従来型の組織図へのアンチテーゼです。「現場・最前線が一番偉い」のだと、リーダーたちが傲慢になることを戒め、働く人を大切にするサーバント型の企業姿勢を表現したものといえます。


日本で広がるサーバント・リーダーシップ

 サーバント・リーダーシップの始まりは1970年でした。

 2000年に入って資生堂の成功例も出て、日本でも注目されてきました。そして着実にその裾野は広がっています。私も2010年頃から、サーバント・リーダーシップに関する研修や講演の依頼をいただくようになりました。地方の中小企業からも「リーダー層の意識改革をしたい」と経営陣から依頼があります。

参考 サーバント・リーダーシップ研修 詳細

働く人が幸せになる会社へ

 「働く人たちが苦しむ会社」と「働く人が幸せになる会社」のどちらを選ぶかとしたら、働く人はもちろんですが、顧客のほうも「働く人が幸せになる会社」から、製品やサービスを購入したいと考えます。

 心の状態は顔に出るように、組織の内側が健全であれば、それは組織風土となって働く人たちの健康的な表情をつくり、顧客に安心感や希望を与えます。その事実は、コーポレート・ブランドをより強固なものにします。

 ラリー・スピアーズによれば、経営陣が率先してサーバント・リーダーシップの考え方を組織に浸透させようとしている会社は、「働きたい会社」として社会から高い評価を受けているところが多いと言います。

 「働き方改革」が叫ばれる日本では、多くの企業が組織改革に着手しています。「社員のエンゲージメントが高い企業ほど業績がよい」というデーターが、世界から提出されています。では、どのような働き方をすれば社員との会社とのエンゲージメント(精神的な絆)を強くすることができるのか。その問いの答えを模索する中で「サーバント・リーダーシップ」は注目されています。

グリーンリーフは、こう言いいます。

http://www.earthship-c.com/wp/wp-content/uploads/2019/08/greenleaf-2.png
グリーリーフ

人間は、自分を導く人が共感してくれ、あるがままに受け入れてくれると一回り大きくなる。たとえ、能力の点からやり方を批判されても。この考えに基づいて、自分と歩む者を全面的に受け入れるリーダーは必ず信頼されるだろう。

『サーバント・リーダーシップ』(英知出版)p66

 会社と社員との信頼。
 経営陣と現場・最前線との信頼。
 リーダー(上司)とフォロワー(部下)との信頼。

 そうした組織で生まれる多様な「信頼」が「エンゲージメント」(精神的な絆)の中核にあるものです。

 『東方巡礼』の最高幹部で召使いの「レーオ」は、こう言っていましたね。

「長く生きようと欲するものは、奉仕しなければなりません。支配しようと欲するものは、長生きしません」

『東方巡礼』(ヘルマン・ヘッセ全集〈第10巻〉新潮社)p219-220

 ここでの「長生き」を、「経営(組織)が存続する」と置きかえることもできます。リーダーに対する信頼なくして組織は、長続きしません。

 よって、サーバント・リーダーシップは、働く人たちの「信頼」を生み出し、経営を安定させるひとつの考え方として、「新しいリーダーシップ」から「定番のリーダーシップ」へと様相を変えて、日本の様々な組織で定着していくことでしょう。

(文:松山淳)(イラスト:なのなのな)

参考 サーバント・リーダーシップ研修 詳細