「ユニクロ」柳井正社長に学ぶ「失敗の哲学」

リーダーは「失敗の哲学」をもつ

 優れたリーダーは、「失敗」が発生した時に、人を責める材料とするのではなく、「次にどう活かすか」「どのように変革のチャンスとするのか」と、失敗を「糧」にすることを考えます。これは「失敗の哲学」といえるものです。

 「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングの代表取締役会長兼社長の柳井氏は数々の著で、「失敗の哲学」を披露しています。業界の異端児として「商人道」を歩み、挑戦と失敗を繰り返し生傷を負いながら身につけた柳井社長流の「哲学」が、これらの本を読むと理解できます。

 例えば、こんな言葉があります。

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柳井正

「挑戦し、失敗するから原理原則がわかる。傷を負い、痛いを思いをして、自分の血肉になったものだけが、次のチャンスで威力を発揮する」

『現実を視よ』(柳井正 PHP研究所)p209

内気で大人しかった柳井少年

 昭和24年(1949年)、山口県宇部市で生まれた柳井正は、内気で大人しい少年でした。ただ、「天の邪鬼気質」ではありました。あだ名は「山川」。なぜなら、誰かが「山」といえば「川」と、「川」といえば「山」と、人の意見と逆のことを言うからです。

柳井 正
柳井 正
Author:Jigneshhn 

 そんな天の邪鬼の柳生氏は、早稲田大学を卒業してから、東京でぶらぶらしていましたが、父の勧めでジャスコ(現イオン)に就職します。ですが、たったの9ヶ月で退職してしまいます。

 そして昭和47年(1972年)、山口に帰り父が経営していた「小郡商事」(メンズショップ)で働き出すのです。この小さな会社が、今や「ユニクロ」ブランドでグローバル企業となった「ファーストリテイリング」の前身です。

 「ユニクロ」が知名度を飛躍的に高めたのは、平成10年(1998年)、原宿店がオープンした時でしょう。フリースが1,900円で売られ、大ブームになりました。柳井氏の予想では「せいぜい数十万点」だったそうですが、98年に約200万枚、99年約850万枚、2000年には約2,600万枚を売り上げます。

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まっつん

 当時、「ユニクロ」のメッセージを絞り込んだシンプルで洗練されたCMも話題となりました。これは米国の広告代理店「ワイデン&ケネディ」が制作したものです。低価格量販店の会社が制作したとは思えないクオリティの高い広告でした。「ユニクロ、ただものではない」。イメージが180度変わりました。

 180度変わったというのは、ユニクロのCMは、違った路線のユニークCMで知られる存在だったのです。CMを特集するテレビ番組で、よく取り上げられていました。関西のおばちゃんがレジの前で突然、服を脱ぎ「この服気に入らないから、変えてな」と連呼し、最後、下着姿になる映像でした。決して品のいい広告とはいえません。

 このCMは、1994年秋に放映されました。大きな話題になり「ユニクロ」の知名度はあがりました。ですが、「下品で吐き気がする」「嫌悪感を覚える」など否定的な意見が寄せられ、女性擁護団体からは「女性蔑視ではないか」とクレームが入ります。そのため3ヶ月で放送中止に追い込まれたのです。

 その結果、CMが売上げに貢献することはなく、企業イメージも傷つき、回復させるのに相当の時間がかかりました。

 この苦い経験があり、原宿店オープンの時には、「ワイデン&ケネディ」に依頼し、洗練されたCMが制作されたのです。ミュージシャン山崎まさよしを起用していました。この広告は、ユニクロのイメージアップはもとより、売上にも大きく貢献しました。「CMがどうあるべきか」について大いに学んだと、柳井氏は述懐しています。

『柳井 正 わがドラッカー流経営論』(NHK「仕事学のすすめ」制作班 (編集) NHK出版)
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柳井正

「最初の関西のおばちゃんのCFの失敗がなければ、そういうことを学ぶ機会もなかったはずです。だから個人的にはあのCFは、ある意味成功だったんじゃないかと今は考えているんですよ」

『柳井正 わがドラッカー流経営』(NHK「仕事学のすすめ」制作班・編 NHK出版) p31

 「CF」とは「コマーシャル・フィルム」(Commercial Film)の略語で、つまりテレビCMのことです。 現在、ユニクロのCMは、この失敗を活かし、1997年から変わらぬクオリティを保ち続けています。

 失敗を次にいかす。失敗を失敗のままで終わらせない。柳井氏の失敗談から、失敗に処する基本的な考え方を学べます。

柳井正の「失敗の哲学」
失敗した時は、なぜどのようにして失敗したのか。成功した時には、どんなことが原因で成功するに至ったか。そういうことを考えつつ実践に結びつけていかなくては、いつでも同じように失敗するし、成長することはできないだろう」
『成功は一日で捨て去れ』(柳井正 新潮社)p198

「ユニクロ」の失敗

偉大なる失敗

 「ユニクロ」はかつて「UNICLO」でした。1988年、香港で合弁会社をつくろうとした時、香港の人が「C」「Q」にして登記する失敗を犯します。ですが、「UNICLO」より「UNIQLO」のほうが格好いいじゃないかという話になって、そのまま今に続いています。

 現在、グローバル・ブランドとして世界に知られる「UNIQLO」の成功を考えると、ミスした人は「偉大なる失敗」をしたと言えますね。

関東圏初出店での失敗

 1994年、関東進出の1号店は千葉市の緑区でした。今ではユニクロがどこかの地域に新規開店すると、初日から行列ができます。見慣れた光景です。ですが、関東1号店の開店日、行列もできなければ、売上もよくありませんでした。その後、関東圏の他エリアに出店していきますが、状況は同じでした。。

 この失敗経験から柳井氏は、関西人と関東人の購買動機の差を学びます。「安いだけでは飛びつかない。商品を見て、もしいやだったら、文句を言わずに店に来なくなる」。つまり「ブランド・イメージ」が重要なのだと…。この失敗も、イメージを重視するCM制作に舵を切ったきっかけになっています。

海外進出の手痛い経験

 初の海外進出も思うようにはなりませんでした。2001年、「3年間で50店舗・黒字化」を目標にロンドン市内に4店舗を開店しました。その後、21店舗まで拡大しましたが、採算に合わず16店舗を閉鎖します。

 2002年、中国進出も出鼻をくじかれました。上海へ進出した時、中国の所得レベルに合わせ低価格品を主力にしました。ところが、これが仇となります。価格を下げるために、商品のクオリティも下がり、「安かろう悪かろう」になってしまったのです。この失敗から、中国の人たちが、日本で売られている「ユニクロ」の商品を欲しがっていることが、わかりました。

 さらに、2005年、アメリカ進出も思い通りになりませんでした。その敗因について『Harvard Business Review』(2010年5月号)でこう述べています。

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柳井正

「現地のお客様は、アメリカ化したユニクロ、イギリス化したユニクロなど期待していなかったということです。つまり、お客様が望んでいたのは「日本のユニクロ」だったのです」

『Harvard Business Review』(2010年5月号)

 この頃、海外進出の方針は「グローバルに考え、ローカルに行動する」でした。現地の人のライフスタイルに合わせて商品を提供しようとしていたのです。これを改めて、「日本のユニクロを世界に広める」が、海外進出の基本哲学となっていきます。まさに「失敗を次に活かす」ですね。

柳井正の「失敗の哲学」
「商売でもなんでも、失敗を恐れず、失敗から学び、失敗を生かして成長することが大事。それができるのは、若い人なのです。僕自身、35〜50歳の間が、いまの事業を立ち上げて、失敗を重ねながらもいちばん飛躍した時代だったと思う」
『柳井正未来の歩き方』(大塚英樹 講談社)p199

松下幸之助とドラッカーの「失敗観」

 柳井氏はピーター・ドラッカーと松下幸之助を尊敬し、その書を繰り返し読んできたといいます。ドラッカーの『プロフェッショナルの条件』(ダイヤモンド社)は、全社員に配ったほどです。

ドラッカーの「失敗観」

 ドラッカーの著『イノベーションと企業家精神』(ダイヤモンド社)に、ドラッカーの「失敗観」に関する記述があります。

『イノベーションと企業家精神』
(P・F・ドラッカー ダイヤモンド社)
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ドラッカー

「予期せぬ失敗が要求することは、トップマネジメント自身が外へ出て、よく見て、よく聞くことである。予期せぬ失敗は、常にイノベーションの機会の徴候としてとらえなければならない」

『イノベーションと企業家精神』(ダイヤモンド社)p36

 失敗は自己内省の機会であると同時、自己変革のチャンスです。人は失敗するから、自分を改めようとしますし、他人の意見に耳を傾けようとします。

 自分の顔は自分では見えないように、「自己理解」は、自分が思っているほどできていないものです。リーダーが自己理解をおろそかにすれば、待っているのは「裸の王様」現象です。「あの人は、全然、自分のことをわかっていない」と、メンバーから言われ孤立することもあるでしょう。

 失敗は、何かを変える「チャンスの徴候」です。

松下幸之助の「失敗観」

『松下幸之助 一事一言』(PHP研究所)には、こんな言葉があります。

『松下幸之助一事一言』(大久光 文春文庫)
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松下幸之助

「失敗もときにはくすりである。三べんコトを画して三ベンとも成功したら、これはちょっと危険である。(中略)どんなにできた人でも、三度に一度ぐらいは失敗したほうが、身のためになりそうである。そこで気を引き締めるから、将来おこるかもしれない大きな失敗が、未然に防がれる

『松下幸之助一事一言』(大久光 文春文庫)

 プロ野球で3割打者は一流選手です。10回バッターボックスに立って3回ヒットかホームランを打てば3割です。ということは3割打者でも10回のうち7回は凡打に終わっているのです。

 7回の失敗があるから、次のヒット・ホームランへの原動力になります。松下幸之助は、失敗のメリットをあげ、その必要性を言葉にしています。

 失敗してプラスになることがある、ですね。


「ユニクロ」の根底には「日本の哲学」

 柳井正氏は、業界の異端児であり、アパレル業界の常識を覆してきた「変革者」です。変革者は、「批判の的」になるのが世の定めです。日本では成功者を賞賛するよりも、足を引っ張る力のほうが強く働きます。「ユニクロのひとり勝ち」「デフレの真犯人」「柳井個人商店」「ブラック企業」…。マスコミは「ユニクロ」を批判してきました。

 ですが、「一勝の九敗」の言葉が示す通り、成功の裏には数知れぬ失敗があり、その失敗を活かす地道な努力を続けてきたからこそ、「ユニクロ」の成功はあるわけです。

 「フリース」の大ブームが去った後、売上が減少し「ユニクロも終わった」と言われた時期があります。それを乗り越え、2007年「ヒートテック」が大ヒットします。実は「ヒートテック」は、フリースブーム以前の1998年から開発が始まっていたのです。約9年もの間、試行錯誤を重ね、粘り強く製品開発に取り組んだ末のヒットでした。

「日本のよさ」に着目する柳井正

 ユニクロは柳井氏がアメリカに視察に行った時に、ヒントを得て生まれたブランドです。「ユニクロ」は「ユニーク・クロージング・ウエアハウス」の略です。かつては「ユニ・クロ」と表記されていました。ベースは「洋」の要素です。

 ブランド名「ユニクロ」も会社名「ファーストリテイリング」も英語です。柳井氏の経営哲学は欧米流に染まっているのかと思ったら、違っていました。『現実を視よ』(柳井正 新潮社)では、松下幸之助の話題に何度もふれ、「大和魂」という言葉まで登場し「日本のよさ」を強調しています。「日本人らしさ」「日本人の強み」にこだわり、それらを重視していたのです。

 柳井氏は『現実を視よ』(柳井正 新潮社)に、こう書いています。 

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柳井正

「ユニクロの商品の根底には、まじめさ、きめ細かさなど日本の哲学がある。接客技術やサービスの根底には、清潔できれい好き、チームワーク、利己主義ではなく利他主義、思いやりの心、などの特性である」

『現実を視よ』(柳井正 新潮社)p203

 ユニクロの店舗ではジーンズやフリースが、天井高くまで等間隔に陳列されています。これを見ると「和柄」を想起します。格子柄がその典型ですね。ひとつのデザインパターンを反復させ全体の調和をつくりだす。「和のデザイン」の特徴です。

 柳井氏が、強く「日本のよさ」を意識していたことは、『現実を視よ』(柳井正 新潮社)を読むまで、イメージにありませんでした。

柳井正の「失敗の哲学」
失敗すると、責任を取って途中で辞めると言い出したり、謝る人がいますが、失敗の責任を取るというのは、そういうことではありません。
本当に失敗の責任を取るというのは、
「最後まで試行錯誤を尽くす」ということ。そして、
「これは本当に失敗だという時は、その原因を徹底的に探求し、学びを得る」ということ。そして、
「それを次に活かして、結果を出すこと」
これが失敗の責任を取るということです。
こうしたことができるのであれば、何回でも失敗していいと思います。
なぜならその分、必ず成長しているからです。

『経営者になるためのノート』(柳井正 PHP)p47

老舗大国の日本人は変革を繰り返してきた

 ユニクロに行くと店内の基本構造は変わらないのですが、什器が移動されたりプライスがセール期間でなくてもダウンされたりして、年間を通して常に細かな変化があります。

 売る工夫が至るところに見られ、そのサイクルはとても早いのが特徴です。「ファーストリテイリング」(Fast Retailing )は直訳すれば「早い小売り」です。マクドナルドなどの「ファースト・フード」(Fast Food)の「ファースト」です。

 昨今、「Fast」は「1番目」を意味する「First」と区別し、「ファスト」と読んだり表記されたりすることが多くなっています。ユニクロのライバルである「GAP」「H&M」「ZARA」を「ファストファッション」と呼びますね。

「素早さ」(Fast)を心がける

 社名にそのものに「素早さ」への思いが込められています。失敗に処する時、大事なのは「素早い対応」です。失敗と気づいたら、「素早く」訂正・謝罪することで、経営上の傷口が広がることを防げます。

 ここでいう「素早い対応」は「失敗の哲学」ですが、それは同時に「成功の哲学」でもあります。

 「フェイスブック」の創業者マークザッカバーグは、会社の5つの価値を「ハッカーウエー」と名付け公表しました。その中に「速く動く(Move Fast)」があります。フェイスブックの会社の壁には「素早い実行は完璧に勝る」と書かれているそうです。

日本人の「失敗の哲学」

 「槍の名人は、突く時より引く時の方が早い」。

 この言葉を松下幸之助も本田宗一郎も自著でふれています。失敗したら、さっと身を引くこと。これも「失敗の哲学」にまつわる言葉です。

 柳井氏は、『一勝九敗』(柳井正 新潮社)で、こう書きます。

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柳井正

「危機につながるような致命的な失敗は絶対にしてはならないが、実行して失敗するのは、実行せず、分析ばかりしてグズグズしているよりよほどよい」

『現実を視よ』(柳井正 新潮社)p74

 社名に「ファースト」(Fast)とつけるだけあって、「グズグズ」は何より嫌いなようです。  

 変革とは「変わる」ことです。「変わり身の速さ」を受け入れることが「変革」を前に進めます。変わることを、「節操がない」とか「筋が通ってない」などと批判されることもありますが、「変わる」ことを避けていたら、待っているのは「停滞」です。

老舗大国の日本は「変革」

 日本は老舗大国です。世界の老舗の80%は日本にあるとも言われています。帝国データバンクの調べ(2019年時点)によると、業歴100年以上の会社は約3万3000社も存在するそうです。世界最古の企業「金剛組」は日本にあります。創業は、聖徳太子が生きていた飛鳥時代の578年です。創業1,440年以上の歴史をもつことになります。

 「老舗」は挑戦と失敗を繰り返し、「変革」に成功してきたからこそ存続しています。この事実を考えると、「変革が苦手」とよく批判される日本人・日本企業のイメージが覆ります。それは一部の大手企業の話であって、老舗の多さは、日本人が日本の会社が、失敗に素早く対処し自らを変革してきた証だといえます。

「ユニクロ」も挑戦と失敗で、成長してきた

 「ユニクロ」も、ここまで書いてきた失敗はほんの一部であり、その他多くの失敗を重ねています。スポーツカジュアル「スポクロ」、ファミリーカジュアル「ファミクロ」は、差別化に失敗し撤退しています。2002年秋に始めたオーガニック野菜の販売は、10億円の赤字を計上し、翌年の6月、1年もたたずに手を引いています。2002年、玩具メーカーの「タカラ」と提携し、一人乗り電気自動車「Q-CAR」を販売する話は、白紙撤回。

 ユニクロも失敗して失敗して、成長してきたのです。

 仕事に失敗はつきもの。その失敗を次に活かせば、失敗は失敗ではなくなります。だから、リーダーがもつ「失敗の哲学」が大事ですね。

 最後に、柳井氏の「失敗の哲学」にまつわる言葉を記し、本稿を終えます。

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柳井正

「人間の成長は失敗から生まれる。挑戦して失敗して、そこででいろいろなことを学び、再び挑戦する。これが成長のサイクルである。だから人より失敗すればするほど、より早く成長できる」

『現実を視よ』(柳井正 新潮社)p113