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大島優子の言葉と行動に学ぶリーダーシップ

大島優子の言葉と行動に学ぶリーダーシップ

外向型の大島優子

 2013年に出版した『バカと笑われるリーダーが最後に勝つ トリックスター・リーダーシップ』(SB新書)の執筆にあたり、「高橋みなみのリーダーシップ」に着目し、AKB48のドキュメンタリー映画(『DOCUMENTARY of AKB48』〈東宝〉3部作)を観賞しました。

 前田敦子と大島優子というAKB48における2大エースが性格的に対照的であり、その行動特性も印象に残りました。前田敦子は性格的に内向型であり、大島優子は外向型です。

号泣する大島優子

『DOCUMENTARY of AKB48 to be continued 10年後、少女たちは今の自分に何を思うのだろう?』

 大島優子の外向型を象徴する2つのシーンが、映画ではみられました。

 2011年に開催された第3回AKB48総選挙の後です。大島優子は、前田敦子に1位の座を奪われ、2位に後退します。総選挙が終わり舞台裏に移動すると、大島は感情のコントロールを失い、篠田麻里子に抱かれ泣き出してしまいます。

 アイドルを忘れひとりの人間に戻り、からだを震わせ嗚咽する姿は、彼女がメディアで見せるポジティブなイメージとは全く違うものでした。その後、メンバーでの撮影が行われ笑顔を見せるのですが、この時の心境を「誰とも口をききたくなかった」と、映画の中で吐露しています。

 ところが大島優子は、多くのメンバーがひしめく中をかきわけて、前田敦子のもとに自ら歩み寄り、賛辞の言葉を投げかけているのです。

自ら関わっていく

『DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on少女 たちは傷つきながら、夢を見る』

  2012年3月に開催された埼玉アリーナでのコンサートでもそうでした。この時、前田敦子がAKB48からの卒業を発表します。

 大島は驚きの余り、ステージ上で表情を失います。

 映画での篠田麻里子の発言によると、前田の卒業を1期生は全員知っていたようですが、それ以外は知りませんでした。

 大島優子は2期生です。前田の卒業を知らされていなかったのです。前田敦子、高橋みなみ、板野友美、篠田麻里子などが一期生。映画を注意深く観賞すると、期が異なると、本人たちにも意識化されない「見えない壁」があるように感じます。

 大島優子の夢は「女優」になることです。第1弾のドキュメンタリー映画では「10年後の自分」がテーマになっていました。子役から芸能活動をしている大島優子は、第1弾の映画の段階から卒業を意識する発言をしています。

 大島にとってAKB48からの卒業は「近い将来にあり得ること」でした。ですので、前田敦子の卒業には、「先を越された」という後塵を浴びた感覚があったはずです。

 しかし彼女は、舞台裏で前田敦子を追いかけ、自分から声をかけて、「すごいね、よく決断したね」と、会話を交わすのです。

 自ら人に関わっていく。

 これは外向型の行動特性であり、リーダーシップの重要なポイントです。

まっつん
まっつん

 リーダーシップは「対人影響力」と端的に表現されることがあります。人に影響を与え、チームをまとめ、成果をあげていくプロセスがリーダーシップです。そう考えると、リーダーシップの行動特性として、「自ら人に関わる」のは行動は、外せないポイントとなるのです。


リーダーシップとは「高潔さ」

 2つのシーンからリーダー行動として参考になるのは、大島が自分の劣勢な状況において、ライバル前田敦子に自ら歩み寄っている「高潔さ」です。総選挙で前田に負けて号泣する彼女の姿は、強烈なまでの「負けず嫌いな性格」を表しています。

 子役から活動する彼女は、自分の仕事に対するプロフェッショナル意識が強く、女優という「夢」に向けて努力を惜しまない優れた人間性をもっています。

「負けず嫌い」と「高潔さ」のバランス

 「負けず嫌い」は、時に「嫉妬深さ」となり、その人間性に暗い影を落とします。ですが、彼女は、「負けず嫌い」と「高潔さ」がバランスよく同居した人間のようです。だからこそ順位争いで負けても、前田敦子に自分から声をかけることができたのです。

 大島優子の高潔な行動特性は、インテグリティ・リーダーシップともいえるもので、拙著『「機動戦士ガンダム」が教えてくれた新世代リーダーシップ』で、解説した特性と重なります。

 リーダーとして周囲の人間から信頼を得る時、「高潔さ」は重要な鍵になります。

 仕事でトラブルが発生すると、なぜか職場から姿を消すリーダーがいます。その反対に、部下がトラブルに巻き込まれている時に、自分が矢面にたって問題を処理しようとするリーダーがいます。これも「関わり行動」のひとつです。

 前者と後者、どちらのリーダーについてこうと思うかは明白です。よって、「リーダーとして自分の行動は、高潔だろうか」と、日々、自問自答し内省することが、求められるのです。

大島優子がブログに書いた言葉

「楽な道と苦しい道が二択あるとしたら、苦しい道を行け 
 茨の道を選ぶんだ」

 
       (大島優子オフィシャルブログ「ゆうらりゆうこ」)

 大島優子は2013年大晦日の紅白歌合戦でAKB48からの卒業を発表しました。年が明けて2014年1月4日のブログに、上の言葉を記していました。

 人生の重大な転機(トランジション)で記された言葉は、彼女の本質を表しているといえます。負けた相手に積極的に賞賛の言葉を贈れる。茨(いばら)の道をあえて選んでいくのが、大島優子の生き方です。


リーダーシップとは、苦しい道を選びとること

AKB48の復興支援活動

東日本大震災の画像

 2011年、AKB48は「東日本大震災」の支援活動に乗り出しました。その年の5月、家やビルが倒壊し、ガレキの山が積み上がる被災地で、大島優子も現地入りし、歌をプレゼントしています。子どもたちの多くが笑顔を見せ、喜んでいました。

 2年目のAKB48による支援活動はNHKで映像化されています(『MJ presents AKB48 ドキュメント3.11』(NHK総合)』)。

 小学校の教頭先生が、AKBの歌で喜び踊る子どもたちをみて「ありえないことなんです」といっていました。震災で親を失った子どもたちも飛びはね、笑っていました。普段、見ることのできない笑顔をAKB48が生み出したのです。これはとても社会的意義のあることです。

アーティストの社会的責任(ACR:Artist social responsibility)」

DOCUMENTARY OF AKB48 NO FLOWER WITHOUT RAIN 少女たちは涙の後に何を見る?

 アーティストたちがボランティア活動をする時、必ずある批判は「売名行為」「偽善者」です。しかし、東日本大震災における支援活動によって、AKB48が多くの被災者を励まし勇気づけたのは、揺るぎない事実です。

 普段は会うのことのできない憧れの人に会えることは、心に潤いや力を与えます。それは辛ければ辛いほど効果のあることです。

まっつん
まっつん

 「企業の社会的責任」(CSR:corporate social responsibility)という考え方があります。企業活動は常に、社会と密接に関係します。ですので、企業が利益をあげる時に、社会に果たす責任を忘れてはならいのです。

 世界中の森を伐採して利益をあげる企業があります。それが続き森が減少していけば生態系はおかしくなり、いずれ、社会が人間が、おかしなことになります。企業があって社会があるのではなく、社会があって企業があるのです。

 それは、社会と深く関わり活動を続けるアーティストも同じです。

 東日本大震災では、多くのアーティスト・芸能人が支援活動に取り組み成果をあげました。これは、「アーティストの社会的責任(ACR:Artist social responsibility)」と表現できます。

 戦地や刑務所などでの芸能人やアーティスによる社会的活動は古くから行われてきました。1990年代後半から始まったエコロジー・ムブメントの代表例として、小林武史、櫻井和寿(Mr.Children)、坂本龍一による「ap bank(エーピー バンク)」があります。3人が拠出した資金で環境保全のための活動を行っています。「ap」とは「Artists’ Power」及び「Alternative Power」の頭文字をとったものです。

 2005年から嬬恋(長野県)で始まった野外フェスティバル(音楽コンサート)は、2013年〜2015年の3年間は休止されましたが、2016年に復活し、2018年まで続けられました。2019年は、アートフェスティバルとして継続されています。

 東日本大震災をきっかけに、アーティストが社会に「できるコト」は、単にパフォーマンスを届けるコトではなく、それ以上のコトという認識が広がっているのです。

小学校の時からボランティア活動をしていた

 大島優子は、復興支援をしていくことで、「アイドルとして、できることがあ」ると、新たな「気づき」をえていました。ドキュメンタリー映画の中で、それに関する発言をしています。

 『阿川佐和子の世界一受けたい授業―第一人者14人に奥義を学ぶ』(文藝春秋)に、大島優子が登場しています。この本によると、彼女は高校2年の時、子役時代から続けていた芸能界を辞めて、社会福祉系の学校へ進学しようと考えていたそうです。

 阿川佐和子に「何で社会福祉系に?」と尋ねられた大島優子はこう答えています。

小学校のときからずっと、ボランティアをしてたんです。手話クラブに入ったり、老人介護施設に行って歌ったり。人と触れ合うのが好きだから、そういう方向に行こうと。

『阿川佐和子の世界一受けたい授業―第一人者14人に奥義を学ぶ』(文藝春秋)p120

 ちなみに、もう辞めようと思っていた時期に、事務所の人から「AKB48のオーディオを受けてみたら」と言われて受けた結果が合格となり、前田敦子とセンターを争う大躍進へとつながっていくのです。チャンスは、「もうだめかな」と思った一歩先で待っているものですね。

 小学校の時からボランティアと深い関わりを持っていた大島優子です。そんな彼女にとって、復興支援は深い意義を持つ活動だったでしょう。東日本大震災をきっかけに手探りで始まったAKB48の被災地へのチャリティ活動は、現在「誰かのためにプロジェクト」という名になっています。

 2016年熊本での大震災が起きました。2019年は台風によって河川氾濫し多くの被害が出ました。その都度、被災地を訪問したり義援金を届けたりして、AKB48の「誰かのためにプロジェクト」は、今も続けられているのです。

 アイドル・グループが、ここまで本格的な社会的活動を行った事例は日本で初めてです。「アーティストの社会的責任(ACR:Artist social responsibility)」として、またひとつ歴史に残る活動といえます。

 これまで無かったものを生み出し、それを続ける。そこにリーダーシップがあります。

リーダーは「ヘラクレスの選択」をする

 「ACR」を声高に叫び行動すればするほど、批判も大きくなります。「売れるためだ」「ただのPRだ」「儲け主義のボランティアなんかいらない」などなど…。

 どんな「善行」も受け取る人によって「悪行」となるのが、世の常です。

 ですから、新たな何かをこの世界に生み出そうとする「リーダーシップ」は、とかく「茨の道」となります。それは「ヘラクレスの選択」です。

 「ヘラクレスの選択」

 これはギリシア神話の逸話から生まれた言葉で「あえて艱難辛苦の道へ進むこと」を意味します。自ら「茨の道」に進むことです。

 リーダーシップを発揮しようとする時、「ヘラクレスの選択」はつきものです。リーダーには様々な難局が用意されています。その時、厳しい現実から逃げずに「ヘラクレスの選択」をしていくことが、リーダーシップを磨いていきます。

 楽な道と苦しい道が二択あるとしたら、苦しい道を行け 
 茨の道を選ぶんだ

 大島優子がブログに記したこの言葉は、まさに「ヘラクレスの選択」のことであり、それはリーダーに求められる「高潔さ」です。

 リーダーは道なき道を切り拓いていく存在。

 大島優子の言葉は、リーダーシップを発揮しようとして迷った時、「心の指針」になります。

(文:松山 淳)


【参考文献】
『DOCUMENTARY of AKB48 to be continued 10年後、少女たちは今の自分に何を思うのだろう?』(東宝)『DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on少女 たちは傷つきながら、夢を見る』(東宝)『DOCUMENTARY OF AKB48 NO FLOWER WITHOUT RAIN 少女たちは涙の後に何を見る?』(東宝)


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