自己分析「オンライン個人セッション」〜性格検査MBTI®を活用して〜

組織力を高めるには「語りあう場」を創る

コラム112組織力を高めるには「語りあう場」を創る

人材育成が、長期的利益を生み出す。

 日経新聞に「経営塾」という名の連載記事がありました。2013年のある期間、テーマが「人材を育てる・生かす」でした。執筆者は、次のトップ・リーダーたちです。

・ローソン:新浪剛史社長
・資生堂:末川久幸社長
・京都銀行:柏原康夫会長

 この3社長が、自社の事例を交えながら「人材育成」について語っていました。例えば、新浪社長は、こんなことを書いています。

「企業の最も大きな資産は人材だ。人材の良しあしはバランスシート(貸借対照表)にあらわれず、育成費用は短期で利益を圧迫する。短期での利益もしっかりと出さなくてはならないが、それを過度に重視し、人材に対する長期の投資をおろそかにしてはいけない」

『日経新聞「経営塾」』(2013.1.29付 朝刊)より

 

 この言葉は、まさに「米百俵」の故事のごとくです。

「米百俵」のエピソード

 「米百俵」とは、幕末から明治にかけて活躍した長岡藩士小林虎三郎の「教育を重視」した政策から生まれたエピソードですね。

「百俵の米も、食えばたちまちなくなるが、教育にあてれば明日の一万、百万俵となる」(by 小林虎三)

 現在の新潟県にあった長岡藩は徳川方につき、幕末の「北越戊辰戦争」に敗れます。長岡は焦土と化し、人々は食べるのも困る状態になりました。その時、支藩の三根山藩から「米百俵」が送られてきます。

 本来であれば、困窮する人々に分けてもよいわけですが、長岡藩大参事の小林虎三郎は、この「米百俵」を「国漢学校」を設立するための資金に当てたのです。

『米百俵』(山本有三 新潮文庫)の表紙画像
『米百俵』(山本有三 新潮文庫)
クリックするとAmazonへ!

 この故事は、昭和18年、作家の山本有三が「米百俵」の戯曲を発表したことで、有名になりました。

米百俵の逸話

 目先の利益にとらわれず、教育を通して「人づくり」に力を入れたほうが、長期的に利益をもたらすことになる。

 新浪社長は「投資」という言葉を使っています。「人は城なり・企業は人なり」で、人材育成を重視するリーダーたちがよく口にする言葉です。

人材育成は「投資」

 かつて人材育成にかかる費用は「必要経費」だと、よく言われていました。小さな違いですが、「投資」には「将来の可能性にかける」というリーダーの覚悟がにじみます。

 「投資」ですから、かけたお金に対して、必ずしも正当なリターンがあるわけではありません。失敗をすることもあるわけです。「投資」と言った時には、リーダーがリスクをとる覚悟も感じるのです。

 小林虎三郎の精神に通じた「リスクテイク」の精神があることで、組織力を高め長期的な利益をもたらす人材の育成が可能になります。


会って話すから信頼が作られる。

 人材育成の機会は、外部の研修会社に依頼して行うものばかりではありませんね。現在は大手企業を中心に「企業内大学」への取り組みが盛んになっています。社内の人間が講師となって、継続的に学びあう「場」が、どんどん生まれているのです。

 「大学」というと敷居が高く感じられますが、自発的に社員同士で学びあう場は、昭和の時代から中小企業でも行われてきたシステムです。

 例えば「名物社長」がいて「勉強会やるぞ」と音頭をとって、就業時間後に社員で集まって、専門知識を深めたり人間性を高める「フィロソフィー」を学んだり、自主的な「学びの場」がありました。

まっつん
まっつん

 テーマを決めて社員同士でディスカッションして、腹を割って話し合い、そうして信頼関係も形成していくわけです。これは人材育成の場ありながら、同時に、「組織開発」(Organization Development )の機会にもなっています。

 名物社長にお付き合いするのに、社員が嫌がることもあるわけですが、社員が自発的に「語りあう場」を通して、企業理念や創業からのDNAを組織に継承・浸透させていったわけですね。

 簡単なつまみを用意して、「ビールを片手に」でもいいのです。冗談を交えてリラックスした雰囲気の中で、何かテーマを決めて「語りあう場」があれば、それも「企業内大学」と呼べるものであり「組織開発」の場となっています。

「日航の再生」での「語りあう場」

 京セラの創業者で「経営の神様」と呼ばれる稲盛和夫氏がいます。

稲盛和夫
京セラ創業者 稲盛和夫

 2010年、経営破綻した「日本航空」の再建に成功した人物としても有名です。稲盛氏は「日航再生」プロジェクトで、日本航空のトップリーダーたちと「語りあう場」を創りました。

 日本経済新聞に、こんな一文を見つけました。

『場所は役員会議室。「利他の心」「嘘を言うな、人をだますな」。稲盛は27歳で京セラを立ち上げてからの半世紀で培った経営哲学を懇々と説く。

 リーダー教育が終わるとその場所で「コンパ」が始まる。1人1000円の会費で柿の種やスルメをつまみ、缶ビールを飲みながら議論する。

 京セラでもDDI(現KDDI)でもやってきた稲盛のスタイルだ。しかしJAL経営陣にはわだかまりがあった。「お先に失礼します」。「こっちに来て、もう少し飲まんか」という稲盛の誘いを断り、多くの役員がそそくさと家路についた。(中略)
 「製造業から来た老人の精神論につきあう暇はない」そんな空気が流れていた。』

『日経新聞「迫真」』(2013.1.18付 朝刊)

 京セラの本社ビルには、社員で飲み会を開ける専門のフロアがあります。今も「コンパ」が開かれています。日航再生の成功には、予算1000円のコンパを含めた「リーダー教育」が大きく寄与しました。この「語りあう場」で、リーダーたちの意識が変わり、火がついたのです。

 この事実は、破綻後、日航の新社長になった植木義晴氏が証言しています。ご興味のある方は、リンクからご覧ください。(「賢者の選択」特選インタビュー 日本航空株式会社代表取締役社長 植木義晴

まっつん
まっつん

 日航のリーダーといえば、学歴は高くエリート中のエリートです。それが、予算1000円で缶ビール、柿の種にスルメでは、腰が引くのもわかります。でも、人の懐に飛び込むには、時代を越える「古臭いやり方」が、実は効果的なのです。

過去最高の売上を記録した京セラ・リーダーの言葉

 2019年、京セラは過去最高の売上を記録しました。京セラを率いる代表取締役社長谷本秀夫は、『Forbes JAPAN』のインタビュー記事『過去最高の売上高を記録した京セラの「社員が泣いた夜」』で、こう語っています。

京セラ谷本社長の言葉

「人と人が信じ合うには、結局、膝を突き合わせてたくさん話すしかないんですよね」
「そこに関わった50人ほどで最近コンパをしました。大半が20代〜30代前半の若手で、1人のリーダーに苦労話を発表してもらうと、周りの若い社員がみんな泣いていたんです。やはり相当苦労したんでしょう。チームで成し遂げた達成感は大きいのです

『Forbes JAPAN』『過去最高の売上高を記録した京セラ「社員が泣いた夜」』

 若手が飲み会に参加しない。よく聞く話しです。でも、谷本社長のの言葉にある通り、20代、30代の若手にとっても、人と人が実際に会って「語りあう」ことの大切さは、今も昔も変わらないものです。

 ネットの世界がどれだけ進化し発達しても、かなうものではありません。なぜなら、人には「こころ」があり、「こころ」には無意識の領域があり、実際に会って語りあった方が、無意識で感じとる情報量に圧倒的な差があるからです。

「人と人が信じ合うには、結局、膝を突き合わせてたくさん話すしかないんですよね」

 まさに谷本社長のいう通りです。

 語りあってつくられた社員同士の信頼関係こそが、組織の力を高める財産です。


皆で語りあう場が組織力を高める。

 京都銀行では、2010年に社内の研修システムとして「金融大学」が創設されました。2012年には柏原会長が主催で、幹部行員を対象とした読書会「画竜塾」が発足しています。

 メンバーは部長職約20人で、毎月第3木曜日に開催され、本の内容についてディスカッションしているとのことです。

 柏原会長は、読書会を発足させた動機について、こう述べています。

「毎日の仕事が忙しく、読書に長い時間を割けないため、次第に経験に基づいて物事を判断しがちになっていた。地に足がついた判断と言えなくはないが、過去の延長線上の発想になりがちで、自分自身に歯がゆさを感じることもあった」

『日経新聞「経営塾」』(2013.2.15付 朝刊)より

 自己を成長させようと、自ら集まり語りあう。

 人材育成、組織活性化プログラムの根本は、「語りあう場の創造」につきます。「語りあう場」が、3時間なのか、1日なのか、会議室なのか野外なのか、いろいろな形式はあるにしろ、組織力を高めるには、「語りあう場」の開催を定期的に息長く続けていくことです。

 ネットやSNSの進化によって「生のコミュニケーション」が、ますます希薄化していきます。「会わなくても別に構わない」「無理して会う必要はない」という価値観が主流になっていくでしょう。

 でも、人は人によって磨かれ、人は人によって育てられるものです。「人間力」やイノベーションを起こす「感性」は、リアルな人間関係の場があってこそ育まれます。その効果は、ネットと実際に会うこととでは、歴然とした「差」があります。

 読書会でも、稲盛氏の言う「コンパ」でも、雑談を含めたフリー・トークの場でもいいのです。メールがあっても、SNSがあっても、手書きの「手紙」の味わい深い価値が変わらないように、実際に会って「語りあう場」の大切さは、未来永劫変わるものではありません。

語りあう場のイメージ・イラスト

 会うことの価値がどんどん下がる時代からこそ、人材を育成し、組織力を高めるためには、人が集まり、言葉を交わす「場」をつくっていきましょう。

 

(文 松山淳)


モチベーションを高めたい君へ贈る言葉』YouTube!