第2章-4 部下に尽くすという「リーダーシップ」もあります
世の中には、一流ホテルマンのようにいつも控え目で他人の役にたつことが好きな人がいます。たとえば、仲間と旅行に行くとき、パンレットをとってきたり、旅行先でどう過ごすのか行程を組んでくれたり、何かと雑務を引き受け、いろいろな準備をしてくれる人がいます。
いざ旅に出れば、いつも「地図」を片手ぶ皆の後ろを歩き、「次どこいくんだっけ」とリーダー格に聞かれると、「次はあっちだよ」と教えてくれます。いい人です。
では、旅の途中でこの〝いい人〟がいなくなったとします。
仲間たちは、自分たちがどこへ行こうとしていたのか、いや、いまどこにいるのかさえわからなくなってしまいました。やがて、「あっちだろ、こっちだろ」と仲間内で喧嘩が始まり、楽しいはずの旅が悲しい思い出に・・・。
果たして、仲間たちをまとめていたのは誰だったのしょうか。
真のリーダーは、もしかして、いつも後ろを歩き地図を手にしていた〝いい人〟だったのかもしれません。
「サーバント・リーダーシップ」
元AT&T(米国の通信会社)マネジメントセンター所長のロバート・K・グリーンリーフ氏が、1970年代から提唱していた考え方です。

(Robert・K・Greenleaf)
「サーバント」とは「召使い」「従者」という意味。
この言葉を聞くと「上司が部下の召使いだって、とんでもない」と嫌悪感を示す人がいます。
自分が「上でいたい」という気持ちはわかるのですが、リーダーシップとは「上司から部下への影響力」のことをいうわけですから、どのように影響を及ぼすかのスタイルは自由なはずです。
大切なことは部下が自発的に動き、成果をあげることです。
普通、リーダーシップに対するイメージは、次のようなものだと思います。
「カリスマ性を持ったリーダーが、ビジョンを掲げ、夢を語り、雄弁さで人々を説得し巻き込み、次から次へと行動を起こし、その夢を実現していく」
「先頭にたってぐいぐい引っぱる」
「人の上に立って皆を鼓舞する」
そんな力強い印象が「リーダーシップ」という言葉にはあります。
しかし、そのまったく反対の発想で
「部下が動きやすいように上司が動く」
と考えることも「影響力」を与えることには変わりないのですから、これもまた立派な「リーダーシップ」のはずです。
元資生堂の社長池田守男氏は、「店頭基点の経営改革」というミッションを掲げ、「サーバント・リーダーシップ」をその中心概念におき「改革」を推進しました。池田氏の言葉です。
「上の地位にある者が、第一線に指示をして仕事の仕方を変えさせるのではなく、第一線がやりやすいように仕事の環境を整え、彼らの自主的な改善を後押しするサーバント・リーダーシップの考え方が、社員の意識改革に変化をもたせた」
『サーバント・リーダーシップ入門』(池田守男・金井壽宏 かんき出版)
「経営陣は社員のためにある」という言葉は、かけ声だけに終わることが多いですね。
ところが池田氏は、現場と経営陣とのギャップを埋めるために管理職や現場社員との意見交換会を何度も開き、互いの認識のずれを埋める努力を繰り返しました。その場から制服の変更など、社員の声が具現化されたものもありました。
自分の意見が経営に反映されることは、何より社員の「モチベーション」を高めますね。自分たちの考えが経営に作用するという感覚は、「私たちが何を言っても会社は変わらない」というあきらめの感情を「変わるかもしれない」という期待へと変化させていきます。すると、経営陣と現場との信頼関係が再構築され、改革が加速していきます。
現場や部下の声を吸い上げ業務が円滑に進むように社内環境を整備する。オフィスのレイアウトを変え、IT関連機器を充実させる。部下が働きやすいようにと考え、何か行動を起こしているのならば、あなたは素晴しいサーバント・リーダーです。
「サーバント(召使い)」という言葉を受けいれることができないかもしれませんが、精神的な強さ、人間としての成熟度がサーバント・リーダーシップには求められます。
なぜならば、人を後ろから支えることにやりがいを見出せる人は、自らのエゴに打ち勝たねばならないからです。
「部下がもっと評価されるように、私はがんばりたい」
「社内で、部下たちを苦しめている鎖をほどくのが私の仕事です」
これらの言葉は頭ではわかっていても、なかなか口できないものです。
もし、そんな言葉を日頃からよく口にしているならば、あなたはきっとサーバント・リーダーシップを発揮している「真のリーダー」だと思います。
(著:松山 淳)
2. 私は、日頃、部下の背中を支えているだろうか。
3. 私は、部下が仕事をしやすいよう試行錯誤しているだろうか。