トランジション・モデル by ブリッジズ

COLUMN for LEADERS 009 トランジション・モデル

トランジションとは人生の転機

 組織内においてリーダー(上司)になることは、人生における大きな「転機」(トランジション)です。

真の意味で「課長」になるとは 

 例えば、主任クラスのいち担当者だった人が、抜擢されて管理職になった時、それまでとは違ったマインドセット(思考様式)が求められます。課長という役職の辞令を受け、自分の名刺に課長と記載されたからといって、急に真の意味で「課長」になれるわけではありません。

 初めて「課長」になれば、新任管理職研修を受けたり、部長や他部署の先輩課長たちから教えてもらったりして、何らかの形で「管理職」の心得を学ぶことになるでしょう。その心得を職場で実践して、しばらくしてから、自他ともに認める「課長」になれます。

 ですので、こんな風に言いますよね。

「○○課長も、最近やっと課長らしくなってきましたね」

 「課長らしくなった課長」のそれ以前は、組織図の中では「課長」であっても、組織の現場(職場)では「本当の意味での課長」になっていなかったわけですね。

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まっつん

課長としての経験を積んでいくことで、担当者意識から人の上に立つリーダーのマインドセットが腹落ちして、「過去の自分」(担当者の自分)と決別する「心の作業」が完了します。その時、「俺も本当の意味での課長になったかな」と「腹落ち感」があるものです。

 リーダーとしての「腹落ち感」があると覚悟が定まり、すると新たなステージが、真の意味で「始まり」を迎えることになるのです。

トランジション(transition)の3段階 

 トランジション・モデルの提唱者は、臨床心理学者でもあり、組織コンサルタントであったウィリアム・ブリッジズ(William Bridges)です。彼は「トランジション」(転機・移行)という概念に着目した研究者として有名です。

 ブリッジズは、トランジション・モデルには「終わり」「中立圏」「始まり」の3つのステージがあると言いました。

トランジション・モデルの3ステージ
  1. 「終わり」(Ending,Losing,and Letting Go))
    人生のステージが切り替わる時期が来て何かが「終わる」段階
  2. 「中立圏」(The Neutral Zone)
    「終わり」から「始まり」への移行段階。「過去」の自分に執着したり、来る「未来」の自分を受け入れることができず葛藤が起きる。
  3. 「始まり」(The New Begining)
    「中立圏」での葛藤をくぐり抜け、過去と決別し、真の意味で「新しい始まり」を受け入れる段階。
トランジション・モデルの3段階「終わり」→「中立圏」→「始まり」
トランジション・モデルの3段階

 例えば、管理職になることは、平社員である自分が「終わる」ことです。何かが終わる時には、怒りや悲しみや後悔など「負の感情」が生まれます。この「負の感情」は、時として「中立圏」にて増幅し、人を苦しめることがあります。

 課長の辞令を受けとり、課長として初出社しても、課長になりきれていない状態は、中立圏です。部下をうまく指導できず、結果も出せないでいると、それがストレスとなり苦しむことになります。すると、こんなネガティブ思考の言葉が頭の中を駆けめぐります。

 「課長になんて、ならなければよかった」
 「昇進しなければ、こんな目に合わなかったのに」
 「担当者のほうが気楽でよかった。あの頃に戻りたい…」

 「中立圏」では、現在の自分を否定し、過去の自分に執着することがあります。どっちづかずの自分に大きな葛藤が起きるのです。ですが、それをくぐり抜けていくことで本当の意味での「始まり」のステージを迎えることができるのです。

始めるためには自分に「死」を与える!

 「中立圏」での苦悩は、精神的には辛いですが、必要なことでもあるのです。「新たな始まり」を迎えるためには、過去の自分に精神的な意味で「死」を与える心理的作業が求められます。

『トランジション』(ウィリアム・ブリッジズ パンローリング)
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 その作業は、新任管理者研修などを通して意識的に行われることもあれば、ふらりとひとり旅をしてみたり、学生時代の仲間と飲みにいってみたり、亡くなった両親の墓参りをしたり、恩師に手紙を書いてみたりと、非日常的な行動をとることで無意識になされることもあります。 

 「中立圏」を抜け出すために、何らかの非日常的な行動をとることは、文化人類学的にいえば「通過儀礼」といえ、意識的・無意識的に「儀式」を執り行うことで、私たちは苦しく葛藤もある「中立圏」を抜け出していくことができるのです。

 だから、人生の転機を迎えて壁にぶつかった時は、何か普段とは違うことを、自分なりに考えて、思い切ってやってみることが大事です。その行いを通して、「ふっきれる」という心理状態が生まれます。


かかがむから高くジャンプできる!

 過去の自分を「終える」ことで、新たなステージは、真の意味で始まるのです。
 ブリッジズは、著『トランジション』でこう書いています。

 「人は跳び上がる前に、かがまねばならないのだ。このような旅はまた、たった一人で行くしかない。他人に優しくする習慣や、自分を優しい人間だと思うことは、敗北につながる。この時期は、これまでと同じように他人の世話を焼くよりも、自分が今していることと、その意味に神経を集中すべきなのである。神の命令に従うなら、行くべきところをめざして進むのだ。小さくなった服を脱ぎ捨てて、われわれは新しい人生を見いだすためにトランジション・プロセスを歩み続けなければならなないのである

『トランジション』(著 ウィリアム・ブリッジズ パンローリング)p263

 リーダーになることは、ある意味、生涯の課題ともいえます。

人は跳び上がる前に、かがまねばならないのだ。
高くジャンプする女性のイラスト「辛い時もあるか、高く飛べるのね」

 人生の様々なステージで発生する「転機」(トランジション)のポイントで、「終わり」→「中立圏」→「始まり」というパターンを繰り返しながら、私たちはリーダー(人間)として成長し、その時、求められる技量を獲得してリーダーシップを強化していきます。

何かが始まる時には、それまでの自分を、しっかり「終える」ことが大切です。
「終わる」から「始まる」のです。
「終わる」から「新しい自分」になれるのです。

(文:松山淳)(イラスト:なのなのな)