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シンクロニシティ(共時性)とは《ユング心理学》

「シンクロニシティ」とはアイキャッチ画像

 シンクロニシティ(synchronicity)は因果律によらない「意味のある偶然の一致」のことである。「共時性」「同時性」と訳される。分析心理学者C.G.ユング(1875-1961)が提唱した概念であり、ユングの造語だ。ユングは患者の治療過程で数多くの「偶然」という言葉では簡単に片づけられない非現実的な意味深い現象を体験し、その原理を説明するために「シンクロニシティ」という言葉をつくった。

 シンクロニシティには2つのパターンがある。

シンクロニシティ 2パターン

❶心の状態(夢、ビジョン、予感)が現実化すること。
 例)「予知夢」「正夢」(夢に見たことが現実に起きる)

❷離れた場所で起きていることを、同時刻(同時)に、心と体に類似の現象が発生すること。
 例)Aさんのことを夢を見た同じ時間にAさんが亡くなっていた。

 シンクロニシティは広く知られる概念になっている。提唱者したユングはそもそも何といっているのか。ユングの言葉をベースにしながらシンクロニシティについて解説する。

夢のスカラベが現れる

 シンクロニシティについてユングが書いた有名な論考は『共時性ー非因果的連関の原理』(『エッセンシャル・ユング』創元社に収録)です。この論文に、他の文献でもよく登場する「スカラベ」(コガネムシ)の話しが出てきます。

論文『共時性ー非因果的連関の原理』は晩年に

 『共時性ー非因果的連関の原理』が書かれたのは1952年。ユングは1875年生まれで1961年に亡くなります。1952年は77歳になる年です。シンクロニシティは晩年になってから、公式の見解として書くようになりました。

 ユングは「意味のある偶然の一致」と思える不可思議な経験を数多くしてきたものの、医師として非科学的と誤解される論を公式に述べることに抵抗感があったのです。その困惑ぶりが『共時性ー非因果的連関の原理』の冒頭に記されています。

 共時性の問題は一九二〇年代の半ばからずっと長い間私は悩ませてきた。当時私は集合的無意識の現象を研究しており、偶然の配置や「度重なり」ということでは簡単に説明できないものごとの連関に繰り返し直面していた。私が見出したことは、意味深く関係し合った「偶然の一致」の現象である。「偶然」一緒に起こったこととはいえ、そのあまりの意味深い関連ゆえ、その確率を算出すれば天文学的な数字で表すしかないほどの偶然さでもある。

『共時性ー非因果的連関の原理』〈『エッセンシャル・ユング』(アンソニー・ストー編著 創元社)〉p361

 1920年代の半ばからですから、約30年もの間、ユングは悩みに悩み、その末に『共時性ー非因果的連関の原理』を書いたのです。ユングが、若い頃から声を大にしてシンクロニシティの存在を主張していたわけではないのは、ポイントです。

 では、次に有名な「スカラベ」の話しについて書いていきます。

患者の夢のスカラベが現れる

 ユングの患者(女性)が、「黄金のスカラベ」(コガネムシ)を与えらえる夢を見ました。その夢について患者が語っている時に、ユングの背にある窓で音がしました。見ると何かの虫が中に入ろうとしてノックしています。ユングが窓を開けて捕まえると、その虫は、患者が話していた「黄金のスカラベ」に近いコガネムシだったのです。

 患者は極めて現実的・合理的な人間で、ユングの治療は進んでいませんでした。患者はそれまで他にも二人の医師に診てもらっていて、ユングは三番目の医師でした。

まっつん
まっつん

 彼女は、自分の夢が現実化するという「非現実的」な出来事を目の当たりにしました。この日を境に、彼女の硬直化した人格に「変容プロセスがついに動きはじめた」(p363)のです。

 古代エジプトの書物でスカラベは再生の象徴です。スカラベを夢に見たからといって、必ず人格の変容が始まるとはいえません。ただ、夢が現実化するという「意味のある偶然の一致」(シンクロニシティ)は、彼女の心に大きなインパクトを与え、自分が変わることを受け入れていくきっかけとなったのです。

 集合的無意識の仮説抜きでは説明のしがたいような象徴的対応現象が生じる事例に、心理学者はつねに対応しざるをえない

『共時性ー非因果的連関の原理』〈『エッセンシャル・ユング』(アンソニー・ストー編著 創元社)〉p361

 上の文にある「集合的無意識」とは、心の深層に潜在する人類に共通したパターン(元型)で成立する「無意識の層」のことです。ユング独自の考え方です。「集合的無意識」については「集合的無意識とは」に書きましたので参考になさってください。

ユング心理学「集合的無意識とは」のアチキャッチ画像集合的無意識とは〈ユング心理学〉

 ユングは、シンクロニシティが起きる要因について「集合的無意識」の仮説を立てることで、つじつまを合わせようとしました。

心の中で時間と空間は相対的になる

 著書『元型論』(C.G.ユング 紀伊国屋書店)に、論文「心の本質についての理論的考察」が収録されています。1947年に発表されました。この論にも「共時性」という言葉が登場します。

『元型論』(紀伊国屋書店)
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 「元型」とは、集合的無意識で働く「人類に共通する心の動き方のパターン」のことです。ユングは心の深層から共通したパターンを見い出し分類しました。

 「元型」については「元型とは何か?」に書きましたので参考になさってください。

元型とは何か?ユング心理学元型とは何か《ユング心理学》

 アメリカ人にも日本人にも韓国人にもブラジル人にも、その他多くの国の人にも共通した「心のイメージ」があるのです。共通するイメージは、現代だけでなく人類の歴史の原点である神話が作り出された時代から存在します。紀元前、神話に書かれた同じパターンのイメージが、現代を生きる私たちの夢にも出てきます。

 よって、神話を研究し、そのパターンを知ることは「夢」のメッセージを読み解くのに役立つのです。

 ユングは、「私が民話的・神話的・歴史的素材を挙げるのは、第一に心的な出来事が時空を越えて同じ形式であることを証明するためである」(『元型論』p360)と書いています。

 紀元前の人間と現代人が、どこの国の人でも、ある共通した心のパターンを持っているのは不思議です。シンクロニシティもまた、不思議な現象のひとつです。

 離れた場所で起きていることを感知するシンクロニシティはテレパシー現象といえます。ユングはテレパシーの存在を事実として認めていて、その仮説について述べています。

 共時性は無意識の動因の活動と結びついており、これまで「テレパシー」などとして理解され、あるいは批判されてきた。(中略)事実を認めようとしないのは主に、心がもつとされる超能力すなわち透視力を認めることに対して抵抗があるからである。その種の現象がなぜいくつもの複雑な面をもつかについては、私がこれまで確認できたかぎりでは、時間と空間が心の中では相対的であると仮定すればほとんど完全に説明がつく。

『元型論』(C.G.ユング 紀伊国屋書店)p364

 この一文からユングは、シンクロシティが発生する根拠として「時間と空間が心の中では相対的になるから」と考えていたことがわかります。「相対的である」とは、比較する条件によってその要素が変化することです。

 よって、「時間と空間が相対的である」とは、時間と空間が条件によって伸び縮みすることを意味します。

 「相対的」の対義語は「絶対的」です。心の外の世界では、時間も空間も絶対的なものです。1分は1分であり、1mは1mです。1分が1秒にはなりませんし、1mが100mにはなりません。伸び縮みしません。

 でも、心の中では1分が1秒になり、1mが100mになりえます。夢の不思議な世界を考えると理解できます。また、時間感覚に関しては「伸び縮み」を実感することがあります。1時間のつまらない会議が2時間に感じられ、仲の良い友との楽しい時間は、1時間が10分のように感じられます。

 「時間と空間の相対性」は、物理学の理論です。

 心の中で「時間と空間が伸び縮みする」と仮定するなら、離れたところで起きていることを人間が感知できる可能性が出てきます。ユングは物理学の考え方を心理学に応用して「シンクロニシティ」を科学的に納得できる現象だと説明しようとしました。

 それは単なる偶然の一致にすぎない、という非科学的な言い方をやめさえすれば、共時性現象が決して稀ではなく、比較的頻繁に起きることが分かる。(中略)心は決して気まぐれや偶然からなる混沌ではなく、客観的事実であり、自然科学的方法によって究明することができるものである。

『元型論』(C.G.ユング 紀伊国屋書店)p365

 この一文から、非科学的だと批判される「シンクロニシティ」を、科学的な見地から理論立てしようとしていたことがわかります。ユングは「夢」が現実化するような「シンクロニシティ現象」を1920年代から30年近く繰り返し確認してきました。

 にもかかわらず、「科学的ではない」と批判されてきました。そこで物理学の理論を心理学に持ち込んで、「シンクロニシティ」の正当性を立証しようしていたわけです。

超心理学的なシンクロニシティ現象

 ユングは『ユング自伝 1―思い出・夢・思想』(みすず書房)の中で、「医者と患者との多少とも無意識的な同一化が起こるときには、超心理学的な現象を引き起こすことがある」と書き、ある不思議な現象について述べています。

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 ユングは、ある時、男性の心因性の抑うつ症を治療しました。その後、患者はある女性と結婚しました。ユングは、妻となった女性が気がかりでした。なぜなら、夫を愛してないがため、とても嫉妬深くなっているからです。愛していないからこそ逆に、夫を自分のものにしようと嫉妬深くなると、ユングはいいます。

まっつん
まっつん

 愛が無いため嫉妬深くなる。夫婦生活の破綻を正当化しようとする妻の防衛心理と考えられます。妻は夫を愛していない自分に無意識レベルで罪悪感があります。その罪悪感を覚えないようにするためには、夫をいつもそばに置くことで、夫婦生活の成功を実感し続けなければなりません。そのため夫を束縛しようと嫉妬心が強くなっていくのです。

 結婚してこの男性は抑うつ症をぶり返してしまいます。ユングは、そうなる事態を予想して患者(男性)と「精神が弱ってきたら連絡するように」と約束していました。

 約束は守られませんでした。

 ユングがある場所で講義をしてホテルに帰り、寝ついた時のことです。誰かが部屋に入ってきたと感じ驚いて目を覚まします。「変だな。確かに誰かが部屋に入ってきたのに」(p200)と思い、廊下まで出て確認しましたが、誰もいません。静まり返っています。

 ユングは、頬と後頭部に鋭い痛みを感じて目覚めたことに気づきます。

 翌日、抑うつ症の患者(男性)が自殺したのを知ります。鉄砲による自殺で銃弾が後頭部に残っていました。ユングが感じた痛みと一致しています。

 この経験は元型的な状況──この場合は、死──と関連して非常にしばしば観察されるような一つの純粋に同時的な現象であった。無意識における時空の相対化によって、私は現実には他所で起こっている何かを知覚することができたのである。集合的無意識はすべての人に共通である。

『ユング自伝1』(C.G.ユング みすず書房)p201

 患者が自殺した痛みをユングが感じ取った不思議なシンクロニシティ現象です。

 今もユングは非科学的なことに手を出した心理学者として批判の的になっています。ただ、ユングとしては、「あるものはあるのだから、目を背けるべきではない」というスタンスを取り続けたのです。それは医師として学者としてのユングならではの「生きる姿勢」といえます。

 ユングは『自伝2』(みすず書房)で、人生をふりかえっての感慨を「私は立ち、自然がなしうることを賛美しつつ身守るのみであった」と書いています。そしてある逸話を紹介します。

『ユング自伝2』(みすず書房)
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 一人の弟子がラビのところに来て尋ねた。
「昔には神の顔をさえ見た人たちがあったのに、今ではどうしてそんなことがないのでしょう」
「それは、今では誰も前ほど深く身をかがめることをしないためだ」とラビは答えたという。

 流れから水を得んとするものは、少しは身をかがめなばらない。

『ユング自伝1』(C.G.ユング みすず書房)p201

 シンクロニシティを研究することは、ユングにとって「身をかがめること」のひとつだったのでしょう。

 この世界に起きている不思議を認める勇気は、「身をかがめる」ことから始まるのです。

(文:松山 淳