人間は、初対面の時に、意識的にも無意識的にも、ぱっと「人物鑑定」をするものです。
「なんか、この人とはうまくやれそう!」
「いい感じの人ね〜」
「この人とは相性がよさそう!」
そんな風に「好印象」を抱くケースもあれば、反対もあります。
「ちょっとこの人とは合わないかな」
「どうも苦手なタイプっぽいな…」
「この人、無理!」
こんな風に、否定的にとらえることもあります。
人には、どうにもこうにも「好き嫌い」があるものです。
「性格が合う・合わない」「好きなタイプ・苦手なタイプ」。言い方はいろいろとありますが、ある人に好印象を抱くか否かは、「相性」の問題が深く関わっています。
どんな人に対しても、苦手意識をもたず接することができたら理想です。
僧侶が修行を重ねていき、精神的に高い境地に達すると「人の好き嫌い」は少なくなっていき、どんな人とも同じようにつきあえるといいます。また、生まれ持って「好き嫌い」が気にならないタイプの人も確かに存在します。そのタイプですと、人間関係における「好き嫌い」の感情で悩む確率は、かなり少なくなります。
そんな高僧や特定タイプの人は別として、多くの人にとって「相性」「好き嫌い」の問題は、どうしてもつきまといますし、「好き嫌い」があるのは、むしろ普通のことです。
私が尊敬する心理療法家河合隼雄さんでも、どうしても合わないクライアントで、カウンセリングに進展がみられない時には、他の医療機関やカウンセラーを紹介するといっています。
「心の専門家」でも「相性」の問題は、厳然と存在するわけです。自分の限界を認識し、いつまでもセッション(面談)を続けて時間を無駄にするより、クライアントの利益を最優先に考えるからこそ専門家といえます。
河合隼雄さんといえば、ユング心理学を日本に紹介した心理学史に名を残す偉人です。そんな偉大な「心の専門家」でも、「相性の問題」は、発生するのであり、そう考えると少し気が楽になりますね。
さて、人を「好きになる」には、なんらかの要因があります。
心理学でいわれる基本的な要因は「類似性」と「相補性」です。
「類似性」:自分と他者の性格、体格、価値観など、ある要素が似ている。
「相補性」:自分と他者のある要素は異なるが、補いあえる関係にある。
「似ている」から好きになる(類似性)こともあれば、「似ていないから」好きになる(相補性)こともあります。それでは、「類似性」と「相補性」について、もう少し細くお話ししていきます。
相手と自分がどこか似ていて、相通じるところがありそうだと思えた時、人は好意を抱く傾向があります。
性格・価値観・趣味などが同じ夫婦は、互いを理解しやすく、一般的に、結婚生活が長続きすると言われます。また、夫婦生活を続けていくなかで、だんだんと趣向が似てくる際にも「似た者夫婦」といいますね。いずれしても、「似ている」(類似性)ことに関する人間関係の機微を表現した言葉です。
この言葉の意味は、「気の合った者や似通った者は自然に寄り集まる」(デジタル大辞泉:小学館)です。まさに「類似性」のことです。お酒が好きな者同士であれば「飲み仲間」となるでしょう。でも、お酒もお酒の席も苦手であれば、その「飲み仲間」を好きになれず、遠ざかるかもしれません。
出身地、出身校が同じ。ゴルフ、釣り、山登り、音楽、映画など趣味が一緒。何らかの共通点があると、人は引かれ合います。のんびりしている人は、のんびりしている人が好きで、几帳面な人は、几帳面な人が好きになる傾向があります。似ていることで安心するのです。
ですので、営業マンは、お客様と会話をしながら「共通点」を探しだし、もし発見したらその点を強調します。「私も学生時代、スポーツやってたんですよ」「実は私も歴史小説が好きなんです」など…そうして「類似性」をアピールすることで、好印象をもってもらうわけです。
製品・サービスの「良し悪し」や価格の「高い安い」ではなく、営業マンの「人柄」「人間性」によって、購入を決めるお客様は多く存在します。つまり、お客様に、人として好意をもってもらうことが、購入を左右するわけです。
「感じの悪い、嫌いな人」から買うより、「自分と相性のあう、好感のもてる人から買いたい」と思うのは、人の自然な感情です。
互いが似ているから互いに好きになる。これが「類似性」です。
「相補性」は、相手が自分とは違っていて、お互いに補いあえる関係のことです。「自分にないものを持っているから好き」が「相補性」です。
人は「自分に足りないものをもっている人を求める」傾向があります。背の低い女性が、背の高い男性に憧れ好きになったとしたら、これは相補性の典型例です。
「性格が正反対なのに、妙に仲がいい」という友達や知り合いがいませんでしょうか。
「強気の人」と「弱気の人」
「おおざっぱな人」と「細かい人」
「気の短い人」と「のんびり屋さん」
夫婦関係でも、ちょっとだらしない旦那さんに、しっかりものの奥様というのは、よくあるパターンですね。性格が違い、言い争いも多いので「合わないのでは?」「いずれ離婚する」と思うものの、互いを必要としあってるため、結婚生活が長続きしています。
しっかりものの奥様は、神経質なところがあって、のんびりしている旦那さんに助けられています。反対に、だらしない旦那さんは、細かいところに気づいてくれる奥様がいないと困るのです。
お互い「違う」から、互いの欠点を埋め合わせることができます。欠点を補いあえる互いを必要とする関係だから「好意」が生まれます。夫婦生活が長続きするのは、恋愛感情だけではなく、「互いを必要とする」という「関係性」も大きな要因です。
喧嘩ばかりしているけど「本当は仲がいい」のは、「相補性」が働いてるパターンです。「喧嘩する夫婦ほど仲がいい」とは、よくいったものです。
凸凹は、ふたつが組み合わさって完成します。互いに違うからこそ、ひとつになれるのです。
相互補完の関係にあるから互いを好きになる。これが「相補性」です。
ここまでお話ししてきた「類似性」「相補性」は、人を好きになる要因として、よくあげられます。では反対に、嫌いになる要因は何でしょうか。それも「類似性」「相補性」で説明することができます。
「似ているから嫌い」
これは現実にある話しですし、「違っているから嫌い」も、よくあることです。
ここで面白いのは(と、笑い話しにならないのですが)、自分では「全然、似ていない」と嫌っている相手が、周囲の人から見ると「似た者同士」だというケースです。
例えば、某企業の部長と課長が、まさに「犬猿の仲」で、仕事以外では、ろくに口もきかない人間関係だったとします。リーダー層のふたりの関係が悪いために、部の雰囲気はいつもピリピリしていて、メンバーは困っています。よく聞く話しですね。
こんなケースで、部長と課長の双方に話しを聞くと、互いを嫌っている理由を「性格の違い」「価値観の違い」など「違うこと」をあげがちです。でも、はたから見ているメンバーは、「ふたりはよく似ている」といいます。
「他人の感情にうとくて、ちょっと気が短くて、人づきあいが苦手」
メンバーの指摘する部長と課長の共通点は、以上のものでした。そして、この点をふたりに指摘すると、「それは自分もわかっていて、自分の嫌いな面なのです」といいます。
こうなると心理学では「投影」が働いていると考えます。「実用日本語表現辞典」に「投影」は、こう書かれてあります。
自らの内にあるが認めたくない性質や感情を、自分ではなく他の人あるいは物にあるかのように無意識に感じてしまうことを意味する語。
出典:「実用日本語表現辞典」
これは、自分のもつ「自分の嫌い面」を、相手の姿や言動によって見せられている状態です。つまり部長も課長も、顔を合わせると、自分の嫌な面を見ることになるので、イライラしたり無性に腹が立ったり「虫が好かない」という感情が湧きあがってくるのです。
「虫が好かない」は、「投影」の仕組みを表現しているうまい日本語です。人を嫌うことが「虫」のせいになっています。自分のなかに住む「嫌いな虫」(嫌いな面)が、相手に会うと見せられるので、「好かない」という感情が生まれるとも解釈できます。
結局のところ部長と課長は、相手を嫌っているようで、自分を嫌っているのです。
嫌いな人がいる時に、周囲の誰かから「そうはいっても、ふたりは似てるよ」なんて言われたら、「投影」の考え方を思い出して、自分の「嫌いな面」を見せられている、そしてそれが、自身の「改善点」であると、思い直してみてください。
米国の小説家ヘルマン・ヘッセの『デミアン』(岩波書店)に、こんな一文があります。
「ある人間をにくむとすると、そのときわたしたちは、自分自身のなかに巣食っている何かを、その人間の像のなかでにくんでいるわけだ。自分自身のなかにないものなんか、わたしたちを興奮させはしないもの」
「類似性」「相補性」で、人を好きになることもあれば、嫌いになることもあります。
「相補性」で「嫌い」の感情がわくのは、「自分の劣っている面を相手がもっているから」というケースがあります。
背の低い人は、何かと背の高い人が嫌いかもしれません。性格的に暗い人は、やたらと明るい人が好きになれないかもしれません。でも、その嫌いな要素は、実は「自分が求めているもの」「必要としている性格特性」であることもあります。
これには「コンプレックス」が関係してきます。「コンプレックス」は、奥深いテーマで、コラム118「コンプレックスとは」に書きましたので、参考になさってください。
私たちは、「好き」「嫌い」、どちらでも人間関係の悩みになります。特に「嫌いな人」がそばにいるとストレスになり、辛いものです。
上司と部下の関係で「好き・嫌い」の問題は、日本全国の様々な職場で発生している日常茶飯事です。
どうしても相性の合わない人がいた時、ただ「嫌い、嫌い」と感情的になるのではなく、「投影」の可能性もありますので、気持ちを落ち着けて、次のように自問自答してみください。
「その嫌いな人を通して、自分が成長するために、何か学ぶことはないか?」
文豪ヘッセがいうように「自分自身のなかにないものなんか、わたしたちを興奮させはしない」ものです。「嫌い」「むかつく」「うざい」と興奮するのは、それが「自分のなかにある」からです。
そこに気づけば、「なんだ結局、自分を嫌っていたのか」と、力が抜けて相手への嫌悪感が少しだけおさまることもあります。
社長に就任し「石川島播磨重工業」と「東芝」を再建させた昭和の名経営者「土光敏夫」さんは、こんな言葉を遺しています。
人間というものは、いろいろ付き合ってみると、悪いところばかりでなく、いいところがたくさんあるものだ。まったくダメな人間なんていない。こちらが真剣に話をし、対応すれば、相手も同じように対応するものですよ。
人は、他者を通して、自分を成長させることのできる存在です。
「好きな人」「嫌いな人」、いずれかの人からも学ぶことができます。土光さんのいうように「まったくダメな人間なんていない」と覚悟を定め、好き嫌いの少ない器の大きな人間へと成長していきましょう。
(文:松山淳)
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