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自責と他責|自責思考の人は成長する

コラム63自責と他責相アイキャッチ画像

 「自責思考」とは、自分の行動による結果は、自分に責任があると考える思考法である。「他責思考」とは、自分の行動による結果は、他人に責任があると考える思考法である。自責思考と他責思考はどちらがいいのか。自責と他責について考えてみます。


適度な他責思考は必要なもの

 日本でも、たびたび天体ショーが繰り広げられます。「次見られるのは、10年後、100年後」。そう言われると希少価値を感じて、何とか見ようと多くの人が空に目を向けます。

 でも、必ず見られるわけではありません。空に雲がかかっていたら、雲の上にいかない限り、無理ですね。

まっつん
まっつん

 以前、私も皆既月食を観られなかったことがありました。ちょうど曇っていて、「仕方無ないか」とあきらめたのです。 でも、どうしても観たければ、場所を移動することで、 天体ショーを楽しむことはできました。

 マニアの人たちは、最高のコンディションで見るために、北は北海道から南は沖縄まで移動します。海外に行く人もいます。

 私の場合も、家の上に雲がかかっていた程度で、車で5分も走れば視野が開けた公園があり、そこに行けば見られた可能性はあります。

  「雲のせい」にして、簡単にあきらめるのではなく、他にとる手段はあったわけです。でもまあ、「雲のせい」にしておけば、 わざわざ行動を起こさずにすみますので、楽は楽です。

他責思考は自分を守るため

 そんな風に、行動しない自分を正当化する時、自分の責任を自分以外の何か(誰か)に押しつけるのは、心理的防衛策の常套手段です。

 楽であるとか、傷つかないとか、何らかの心理的メリットがあるので、私たちは、自分を守ろうとして防衛策をとります。これが「他責思考」の正体です。

 長い人生、いろいろとありますから、自分の心を守るために、適度な他責思考は必要なものです。何もかも自分の責任だと考えるのは、逆に健康的ではありません。

自己否定さん
自己否定さん

 「全部、私が悪いんです、私が全ていけないんです!」

 そんな過度の「自責思考」では、自己否定傾向が強くなり、結果的に、メンタルに悪影響を及ぼします。それは避けたいものです。

 ただ、「自己正当化」することに心を奪われ、自分を守ることに必死になり、他人のアドバイスに耳を貸さなくなってしまうような「他責思考」は、やっぱり困りものです。


自責思考が人を成長させる

他罰さん
他罰さん

「私は悪くない、あの人が悪い、その人が悪い、会社が、この社会が、この世界が悪いんだ」 

 そんな極端な「他責思考」は、狭い世界に自分を閉じ込め、自己成長をとめてしまう要因になります。

 第34回吉川英治文学新人賞を受賞したことのある小説家伊東潤氏が、「自責と他責」についてビジネスマンだった頃の体験とからめて、文にしています。とても参考になるお話しなので、ご紹介します。

 あるAというIT企業の営業マンが、提案コンペで他社に負けてしまいました。Aはクライアントから他社のほうが提案内容がよかったとフィードバックをもらいます。
  
 しかし、Aは「見積もりの金額で負けた」のだと、クライアントからの言葉を受けいれません。会社に戻っても、上司に「金額のせいだ」と報告します。
   
 上司はクライアントに会い、提案内容の差だということを改めて確認しました。金額は他社のほうが高かったのです。「企画の差だ」と上司は言いますが、Aは認めようとしません。

 それを境にAの売上は頭打ちとなり、優秀な営業と評価されていましたが、

 「何事も他責で考えるという癖が抜けず」
 
凡庸な営業マンになっていってしまいました。

『日本経済新聞「プロムナード」』
(2014.10.2付夕刊)より

 実は、凡庸な営業マンになってしまった「A」とは、伊東氏ご自身のことなのです。

 なんだか耳の痛い話で、でも、痛いがゆえに、すばらしい教訓を含んだお話です。

 伊東氏の上司が他部署へ異動になる時、営業マン「A」に、つまり伊東氏に「自責の大切さ」を伝え去っていったそうです。

「何事も他責にすれば、その時は楽になる。
 しかし、そこで成長は止まる。
 何か挫折があるたびに自責で考えると、人は成長する。」

 

        『日本経済新聞「プロムナード」』(2014.10.2付夕刊)

 伊東氏は、発表した作品が初版で終わっても、つまり、ベストセラーとは程遠い結果になっても「自責」のスタイルを守り続けていました。

 他の作家は、自分の本が売れないと、出版社に対して「もっと宣伝してくれ」とか「もっと本屋に営業をしかけてくれ」と、要求してくるそうです。つまり、「売れない理由」を、他の何か(誰か)に求める「他責思考」になってしまう作家が多いそうです。

 でも、伊東氏は、サラリーマン時代の教訓を忘れず、「売れないのは自分の責任」という姿勢を崩さないので、ある編集者から敬意を込めて、「伊東さんは自分の責任だと思うのですね」と、言われたことがあったそうです。

 これは伊東氏が健康的な自責思考をもっている証といえます。

 伊東氏は文壇にデビュー後、良作を発表しつづけ着実に作家として成長し、何度も直木賞候補になっています。


健康的な「自責思考」をもつ

 「自責思考」とは、結果が出ない時に、何でもかんでも、「自分の責任だ」と、自分を責めたてることではありません。「全て、自分が悪いんです」と、自分の世界に閉じこもってしまうことではありません。

まっつん
まっつん

 健全な「自責思考」だからこそ、他者に相談したり、他人からの助言を受けいれたりできます。外の世界に開かれていてこそ「自責」のスタイルは、有効に作用するのです。

 結果が出ない時、「悪いのは自分ではない」「他の人が悪い」と、「他責思考」だと楽です。でも、そんな「他責思考」では、状況が悪化している真の原因から目を背けたり、他人からの良いアドバイスを受け入れられなくなったりします。問題をより難しくしてしまいます。

外の世界に開かれた「自責思考」

 これが健康的な「自責思考」ですね。

 結果が出ないのは、自分の責任だと自覚しつつ、状況をよりよく変化させるために、心を大きく開いて他人からのアドバイスに耳を傾ける。そんな健康的な「自責思考」が、人を大きく成長させるのです。

(文:松山 淳)