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マインドフルネス認知療法(MBCT)とは

マインドフルネス認知療法(MBCT)の基本的な考え方

 マインドフルネス認知療法(Mindfulness-based cognitive therapy:MBCT)とは、イギリスの心理学者Z・V・シーガル、J・M・G・ウィリアムズ、J・D・ティーズデールらによって「うつ病再発防止」を目的として開発された心理療法プログラムである。うつ状態を誘発するネガティブ(否定的)な思考を変えよう(変容させよう)とするのではなく、ネガティブな思考をおだやかに受け入れ(受容し)ようとする特徴をもつ。「変容」より「受容」。アメリカの心理学者ジョン・カバットジンが開発したMBSR(Mindfulness-based stress reduction:マインドフルネスストレス低減法)をベースにしている。

 本コラムでは、マインドフルネス認知療法(MBCT)の開発経緯や認知療法とマインドフルネスの違いなどにふれ、「MBCTの基本的な考え方」についてお話ししていきます。

まっつん
まっつん

 コロナウイルスで大変な時です。本コラムの「転載・引用」に許可はいりません。お役に立ちそうであれば、どうぞ自由に使ってください。みんなで力をあわせて、乗り越えていきましょう!

マインドフルネス認知療法が生まれた背景

 うつ病は、現代社会の大きな問題です。1950年代に開発された「抗うつ薬」による薬物療法に合わせ、1980年代末には、認知療法などに代表される様々な対話型の心理療法も生まれ一定の成果をあげてきました。

 しかし、依然として課題となっているのは「再発」の問題です。

 1度、うつ病を発症すると2度、3度、うつ病になってしまう人が多いのです。薬を飲むことでうつ症状を、ある程度、抑えられます。ですが、慢性化してしまった場合には、薬を飲み続けなくてはなりません。つまり薬物治療は、うつ症状を抑えても、その再発を予防するものではないのです。

 1990年代になって、「うつ病になったらどう治療するか」という対処療法ではなく、「一度うつ病になった人の再発をいかに防ぐか」という予防策の開発が急がれていました。

 この問題に取り組んだのが、イギリスの心理学者Z・V・シーガルJ・M・G・ウィリアムズJ・D・ティーズデールたちです。博士たちは1992年4月に、うつ病再発予防の認知療法版を開発するために集まりました。

認知療法とは

 認知療法では、うつ病を誘発するネガティブな思考を修正していこうとします。例えば、仕事でミスをするとすぐに気分が落ち込み、「自分は価値のない人間だ」と考えてしまうAさんがいたとします。こうした否定的な思考パターンで自己評価を繰り返せば、日々、気分は重くなり、やがてうつ病へと発展していってしまいます。

 そこで、認知療法では、心理療法家(精神科医、臨床心理士、カウンセラーなど)と話しあいながら、「それは本当にそうなのか」と、その人の有効的ではない思考パターン(認知の歪み)を検討し、修正していこうとします。

論理の飛躍

仕事でミスをする人=価値のない人間

 この等式は明らかに論理が飛躍しています。仕事でミスをすることは誰でもあることです。失敗しない人などいません。もし、上の等式が正しいとすると、世界中の働く人が「価値のない人間」になってしまいます。

 それは、とてもおかしな考え方(認知の歪み)であり、人生の荒波に対処しようとする時に「有効性の低い」(あまり役に立たない)修正すべき思考パターンです。

否定的なAさん
否定的なAさん

「仕事でミスするのは、誰にでもあること。だから、そんなに気にすることはない。さあ、次、次!」

 こんな風に自分のことや自分の置かれた状況を肯定的に認知できたら、気分が沈む確率はグッと下がります。その結果、うつ病になる可能性も低くなっていきます。

グループ療法の必要性があった

 1992年の時点で、認知療法は広く活用され、その効果も認められていました。課題は、うつ病患者の多さでした。

 認知療法は、基本的に心理療法家と相談者(クライエント)が1対1で話しあいます。1対1では、患者を診る数にどうしても限界があります。よって、博士たちはグループで対応する集団療法の必要性を感じていました。

 そこで、認知療法とは違うアプローチはないかと話し合いが進められ、当時、アメリカで注目されていた「マインドフルネス」(Mindfulness)の考え方とそのプログラムを大胆に取り入れ開発されたのがマインドフルネス認知療法(Mindfulness-based cognitive therapy:MBCT)です。

 博士たちの開発経緯やプログラム内容をまとめたのが『マインドフルネス認知療法:うつを予防する新しいアプローチ』(北大路書房)です。

 この本は2002年にイギリスで出版されました。日本では2007年です。この本の存在によって、「マインドフルネス」の考え方が飛躍的に世界に広まることになります。


うつ病再発の心理的メカニズム

 なぜ、一度、うつ病になると再発しやすくなるのでしょう。療法は様々でも、ある程度よくなったものが、ぶり返すのは、どの様な心理的メカニズムからなのでしょう。

 博士たちは、過去の研究結果なども踏まえ、次の2点を指摘しています。

❶気分低下時のネガティブな材料(思考、記憶、態度)への入り込みやすさ
❷ネガティブな気分や材料を反すうしようとする反応パターン

『マインドフルネス認知療法』(北大路書房)p21を参考

 上の文章でのキーワードは太字にした「入り込みやすさ」「反すう」です。

 1度うつ病を経験した人たちは、うつ病を経験したことのない人に比べて、「気分」「ネガティブな思考・記憶・態度」が連動しやすくなっていると、博士たちは考えました。

「気分」⇄「ネガティブな思考・記憶・態度」

 否定的なAさんの例でいえば、「仕事でミス」をして、少し気分が沈むと、その沈んだ気分とネガティブな思考(私は価値のない人間)が「すぐにより強くリンク」されてしまうのです。この「すぐにより強くリンクする」のが「入り込みやすさ」のことです。

 そして、一度、リンクされたネガティブ思考は、頭の中で何度も何度も思い浮かべられ、つまり「反すう」されて、さらに気分を重いものにしてしまいます。さらに重い気分になれば、さらに否定的な心理状態に拍車がかかり、過去の記憶(他の失敗、うつ病になってしまった事実など)も顔を出してきて、ネガティブ思考の堂々巡りがとまらなくなります。

反すうをすればきっと悩みを減らす方法を見つけられるはずだと彼らは信じているが、それはむしろ逆効果である。実際、このような精神状態でくり返し自分や問題となっている状況のネガティブな側面について「考え続ける」ことは、うつを持続させることにはなっても解決にはならない。

『マインドフルネス認知療法』(北大路書房)p22

 ネガティブな「反すう」が起きている状態は、あたかも自動的に次から次へとよくない考えが頭の中をかけめぐるようなもので、これを「自動思考」といいます。

 仕事で失敗して気分が沈むことは、誰にでも起きることです。

まっつん
まっつん

 その気分を「大げさ」にとらえず、「ちょっと気晴らしでもすれば大丈夫」と考えられれば、ネガティブな考えを「芽の内に摘み取る」ことができます。すると、「ネガティブな思考・記憶・態度」と「すぐに強くリンク」することは防ぐことができます。

 以下の図は、「マインドフルネス認知療法の基本モデル」です。うつ病を再発させるか否かの要因が、ネガティブな気分と思考への「入り込みやすさ」「反すう」の度合いにあるならば、これを少しでも軽減させ、その質を変えていくことで、うつ病再発を予防できるはずです。

うつ再発予防のためのマインドフルネス認知療法の基本モデルの図
『マインドフルネス認知療法』(北大路出版)p8掲載図を元に作成

 認知療法は「否定的な思考パターン」を、より否定的ではない思考パターンに変化させようとします。この時、患者の「思考パターンが変わる」のはもちろんですが、それは同時に、「思考と気分(感情)とのかかわり方」も変化していることになります。

 「思考が気分(感情)に影響を与えない心理状態」「思考と気分(感情)とに距離が取れてすぐに強くリンクしない人」になれば、否定的なことを頭の中でぐるぐる「反すう」することも少なくなり、うつ状態になりにくいと考えられます。

否定的なAさん
否定的なAさん

「思考なんて、頭の中で起きているただの現象でしょ!それは真実ではないし、自分そのものではないでしょ」

 もし、否定的なAさんが、そんな風に冷静かつ客観的に、「思考と気分(感情)」との「かかわり方を変える」(認知の変容)ことができたら、否定的で落ち込みやすいAさんを卒業することになります。

 認知療法でも「思考と気分(感情)」との「かかわり方を変える」ことは可能でしたが、博士たちはグループ療法を前提とする別のアプローチを模索していました。

 そこで、もたらされた情報が、アメリカの心理学者ジョン・カバットジン(Jon Kabat-Zinn)博士たちによるMBSR(Mindfulness-based stress reduction:マインドフルネスストレス低減法)の研究成果です。


マインドフルネス

 MBSR(Mindfulness-based stress reduction:マインドフルネスストレス低減法)は、瞑想やヨガを組み込んだ8週間のプログラムです。その中核には、仏教思想のマインドフルネスの考え方があります。

 「MBSR」(マインドフルネスストレス低減法)については、コラム133「ジョン・カバットジンのマインドフルネス瞑想」で解説していますので、参考になさってください。

https://www.earthship-c.com/psychology/jon-kabat-zinn-maindfulness/

 カバット・ジンは、マインドフルネスをこう定義します。

マインドフルネスとは

「マインドフルネスとは、意図的に、今この瞬間に、価値判断することなく注意を向けること」

『マインドフルネス認知療法』(北大路書房)p25

 イギリスの博士たちは、「うつ病の再発予防」という自分たちの目指していることが、MBSR(マインドフルネスストレス低減法)によって、実現できるのではないかと考えました。博士たちはアメリカを訪れ、カバット・ジンが主催するプログラムに参加します。

 カバットジン博士は、自著でこう書いています。

「あなたのさまざまな思考はたんなる思考にすぎず、それらは”あなた”や”現実”ではないと理解できると、いかに自由な感じがするか、それは注目に値することである。…思考をたんなる思考として認識する単純な行為は、しばしば思考が作り出すゆがんだ現実からあなたを自由にし、生に対するもっと澄んだ洞察とより大きな統制感を手に入れることを可能にする」

『マインドフルネス認知療法』(北大路書房)p26

 「思考はたんなる思考にすぎず」と考え、「思考を思考として認識する」ことが「マインドフルネス瞑想」を実践する際の大きなポイントです。と同時に、それは認知療法との大きな違いです。

 マインドフルネスな心の状態は、思考を「そのまま」にしておきます。ネガティブな思考も、不快な感情も「そのまま」です。認知療法は、ネガティブな思考を、より有効性の高い思考へと修正しようとします。「歪んだ認知」「歪んだ思考」があれば、それを直そうとします。

マインドフルネスと認知療法の違い

○認知療法 ➡︎ 否定的な思考は修正する。
○マインドフルネス ➡︎ 否定的な思考もそのままにする。

 そのままにしたら、否定的な思考が暴走しそうなものです。でも、そのままにしておくと、やがて頭の中から「消えていく」ことを人間は経験します。思考は何度も浮かんでは消えいきます。固定することはできません。瞑想をすると、それを痛感します。

「思考」とは浮かんでは消え、やって来ては去っていく、とても儚(はかな)くて脆(もろ)いものなのです。

 これが「思考はたんなる思考にすぎず」ということであり、「思考を思考として認識する」ということです。

 なのに人は、思考にしがみつき、自分や現実を評価しては裁き、思考が作り出すゆがんだ現実を正しいと信じて、気分を上げたり下げたりを繰り返します。

評価するから気分に影響する

「仕事で失敗したらダメな人間だ」。

 こうした「思考が作り出すゆがんだ現実」は、その人の価値基準に基づく「評価」から生まれます。人は誰もが、何らかの基準をもって自分のことや現実の出来事を、日々、評価しながら生きています。

「政治家が汚職をした。この国は腐っている」
「我が社でリストラがあった。経営陣はバカばかりだ」
「外国でテロがあった。世界はいずれ終わる」

 このコラムをお読みのあなたであればおわかりの通り、上の評価は、ひとつの小さな出来事から全体を極端に結論づける「拡大解釈」です。政治家の汚職は、この国の一面であり、全てが腐っているわけではありません。ある企業でリストラがあっても、経営陣の全員がバカとはいい切れません。

 人は、こうした「歪んだ評価」「歪んだ思考」がありながら、それを自分にとっての「真実」「正しいこと」と受けとめ執着する傾向があります。歪んだ思考なのに「私は正しい」と、やけに「こだわる」のです。

 「拡大解釈」がひどくなれば、ニュースやネットで見聞きする情報ひとつひとつに過剰反応して、不安感、虚無感(むなしさ)、絶望感を抱くことになります。先の見えないコロナ禍であれば、なおさらです。

 そんな時こそ、「マインドフルネス」の「思考を思考として認識する」という考え方が、役に立つのです。「マインドフルネスとは、意図的に、今この瞬間に、価値判断することなく注意を向けること」でした。

まっつん
まっつん

 私は約15年間、瞑想を続けてきました。瞑想をし、評価や価値判断をせず、どんな思考も感情も「そのまま」にしておくと、それは去っていきます。「やって来ても、必ず去るものである」という思考や感情の儚(はかな)さ・脆(もろ)さを、繰り返し繰り返し何度も体感すると、思考・感情そのものへの執着が薄れていきます。

 すると「気分」「ネガティブな思考・記憶・態度」とが「すぐに強くリンクしない」ようになっていくのです。それは、目標としていた「思考が気分(感情)に影響を与えない心理状態」「思考と気分(感情)とに距離が取れてすぐに強くリンクしない人」になるということです。

 イギリスの博士たちはMBSRのトレーニングを見学し、こう書いています。

インストラクターは、参加者が不快な思考や感情をただそこに存在させておき、「解決を必要する」スタンスをとるよりも、それらに無理なく気づき、それを「歓迎する」ような、根本的に異なるアプローチを教えていた。

『マインドフルネス認知療法』(北大路書房)p33

 瞑想すると、次から次へと雑念が湧いてきます。

 「朝、食べた目玉焼き」のような「小さなこと」から、「会社を辞めるか辞めないか」「どう生き方を変えていけばいいか」といった「大きなこと」までに及びます。記憶は過去から未来まで広範囲に渡り、思い出したくない人や嫌な出来事が頭に浮かび、不快な感情が体全体に広がることもあります。

ネガティブな思考・感情を受け入れる

 瞑想をする前に、嫌な出来事があり、イライラいしていたり、気分が沈んでいたりしたら、そのネガティブな感情にとらわれ続けてしまうでしょう。

 マインドフルネス瞑想は、そうした「ネガティブな思考・感情」を受け入れます。拒絶したり遠ざけたりして「消し去る」という解決方法を試みません。

 「あ〜イライラする」と、ネガティブな感情に巻き込まれている心理状態と、「自分は今、イライラしている。イライラという感情を持っている」と、気づき、共にある状態とでは、雲泥の差があります。

 認知療法は、問題を修正しようとするので、ある意味「解決志向」ですが、マインドフルネスは「受容志向」です。「ネガティブな思考・感情」があることに「気づき」、それらを歓迎し受け入れ、居場所を与え、離れたところから、ただ見つめるのです。

人々が生活の中での困難(catastrophe)を避けるのを援助しているのではなく、その困難を受容し、そのなかで生きていく方法を教えていたのである。

『マインドフルネス認知療法』(北大路書房)p36

 イギリスの心理学者たちは、カバットジンたちが、問題解決志向ではなく、「困難を受容し、そのなかで生きていく方法を教えていた」と気づきます。

 ジョン・カバットジン の著書『マインドフルネス低減法』(北大路書房)の英語での原題は『Full Catastrophe Living』です。「やっかいことだらけの人生」と訳されています。

 『Full Catastrophe Living』のタイトルが、「マインドフルネス」の「受容志向」の考え方を象徴しています。「やっかいごと」は、もちろん、無いほうがいいです。でも、生きている限り「やっかいごと」はつきものです。それを拒絶したり遠ざけようと格闘するよりも、「やっかいごと」を受け入れて、共に生きていこうとする姿勢が、結果的には、ストレスに強い心をつくりあげるのです。

 『マインドフルネス認知療法』(北大路書房)には、こう書かれてあります。

もし不愉快な感情に対処するためにそれらを追い払ったりコントロールしようとすれば、実際はその感情を持続させることになる。しかし悲しさや不安を感じていることを受容した瞬間、それらはもう別のものになっている。

『マインドフルネス認知療法』(北大路書房)p241

 上の文には、マインドフルネス認知療法の基本的な考え方が凝縮されています。

 認知療法は、ネガティブな思考を修正し認知の仕方に変化を起こします。マインドフルネスでは、ネガティブもポジティブも含めて「思考」そのものに対する「認知の仕方」が自ずと変わっていくのです。

 認知療法が、自らの意志によって変化を積極的に引き起こそうとするのに対して、マインドフルネスは、受動的に変化が自ずと起きるのを待ちます。

 この2つの要素を融合したものが、マインドフルネス認知療法(Mindfulness-based cognitive therapy:MBCT)なのです。

 「認知の仕方」に変化が起きることによって、うつ病の再発を防ぐのであれば、それも認知療法のひとつと考えることもできます。

 また、マインドフルネス認知療法の8週間のプログラムには、認知療法では定番の「ホームワーク」があり、重視されています。ホームワークとは、自宅に戻りひとりで取り組む課題です。「よい出来事があったか」「悪い出来事は何だったか」「その時、どう考えたか・どう感じたか」など、思考・感情の変化について決められたフォーマットに日々、記録していきます。

まっつん
まっつん

 次の「コラム134」で、要点をまとめようと考えてますが、8週間のプログラムの詳細については、『マインドフルネス認知療法』(北大路書房)をぜひ、参考になさってください。この本は、マインドフルネス(瞑想)を、グループ・セッション形式で指導する方にも有益です。セッション時に指導者サイドに求められる「マインドセット」(心構え)について述べられている箇所も多いからです。

 

 ジョン・カバットジンが開発したMBSR(マインドフルネスストレス低減法)は、そもそも病を抱えた人たちの「ストレスを減らす」ことが主目的でした。

 これに対して、マインドフルネス認知療法(Mindfulness-based cognitive therapy:MBCT)には、「うつ病再発予防」という明確な目的がありました。その対象領域は「心の病」です。

 前述した通り、マインドフルネス認知療法が成果をあげることで、「マインドフルネス」の考え方が、広く世界に知られるようになりました。

 現在の「マインドフルネス」のムーブメントとその実績を考えると、マインドフルネス認知療法の開発は、心理史に残る偉大な功績といえるのです。

(文:松山 淳)