リーダーは正直であれ。

リーダーシップ・コラム003 リーダーは正直であれ!

リーダーシップは人間関係。

『信頼のリーダーシップ』(生産性出版)
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リーダーシップ研究家ジェームズ・M・クーゼスは、20カ国で出版され200万部を突破している『リーダーシップ・チャレンジ』という世界的ベストセラーの著者です。そのクーゼス氏が共同執筆した『信頼のリーダーシップ』(生産性出版)は、「信頼」を基軸にするリーダーシップについて書かれてある。

第1章の冒頭に、こんな言葉があります。

私は、リーダーシップは地位とは考えない。
リーダーシップを技術とも考えない。
私はリーダーシップとは人間関係であると考えている。

──フィル・クイグリー(バシフィック・ベル社)──

リーダーシップは、「地位」でもなく「技術」でもなく「人間関係」である。わざわざ、この言葉をクーゼス氏が冒頭に置いた意図は、リーダーシップの「相互関係性」「双方向性」を強調したかったからです。

とかくリーダーシップは、「リーダー(上司)がフォロワー(部下)にいかに影響を与えるか」「リーダー(上司)がフォロワー(部下)をどう動かすか」という点がクローズアップされ、リーダーからフォロワーへ「一方通行」的にパワーが行使されるイメージとなりがちです。

リーダーシップはフォロワーがいて始まる

リーダーの権限が強く、リーダーの命令に従うことが絶対であるような組織であれば、「一方通行」の思考で事足ります。戦後間もない、軍隊組織の風土が根強く残る古い組織であれば「一方通行」でもよいでしょう。

でも、現代は、そうはいきません。そこで「一方通行」に対してリーダーシップをこう考えます。

「リーダーシップとはリーダーとフォロワーとの相互作用の力学」

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まっつん

「相互作用の力学」なんて、小難しい言葉を使ってしまいましたが、要は、リーダーとフォロワーがいて初めて、そこにリーダーシップが発生し、リーダーシップは、「リーダーとフォロワーの互いの関係性によって左右される」ということです。

 「俺がリーダーだ!」とどれだけ叫んでも、ついてくる人(フォロワー)が誰もいなかったら、その人はリーダーではないのです。だから、リーダーシップは「地位」ではないということになります。

リーダーとフォロワーとの関係性がキーになるとしたら、リーダーがフォロワーを「どう見るか」と同時に、フォロワーがリーダーを「どう見るか」が大切になってきます。

そこで、よりよいリーダーシップとは何かを考える時に、リーダーに質問するのではなく、フォロワーに対して、あなはリーダーに「何を求めているのか」「何を期待しているのか」と問うことになります。

「こんなリーダーならついていきたい」

そう思わせるリーダーとは、どんな人たちなのか。この問いをフォロワーの側にぶつけて調査していくのが、リーダーシップ研究の一手法です。

クーゼスらは、『信頼のリーダーシップ』を執筆するにあたり、15,000名以上の人々の参加を得て、400以上のケースを集めました。リサーチは米国以外の国も含めて10年以上に渡って行われました。

そして、10年間、繰り返し一貫した結果を見ることになるのです。

その一貫した結果とは? 


正直なリーダーが求められている。

「多くの人が理想として求め、感動を呼ぶリーダーとは、どんな特徴をもっているのか?」

クーゼスが行った調査によると、この答えとして、「正直さ」「未来指向」「情熱的」「有能である」の4つが、常に上位にあり抜きん出た結果を示しました。

感動を呼ぶリーダーの特徴
『信頼のリーダーシップ』(生産性出版)p18図版を参考に作成
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まっつん

調査は、1980年代後半から1990年代のことで、データーとしての古さは否めないのですが、企業不祥事が起きるたびに、その不誠実さからリーダーが失脚していく現代の日本において、第1位の「正直さ」は、温故知新の格言の通り、改めて大きくクローズアップしてよいリーダーの資質だと思います。

『信頼のリーダーシップ』(生産性出版)
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クーゼスは、『信頼のリーダーシップ』で、こう書いています。

「 われわれが行ったほとんどの調査で、正直さは他のリーダーシップの特徴よりも多く指摘されていた。正直さはリーダーシップにとり絶対的な必須条件である。もし人々が誰かに喜んで従うときには、それが戦場へであろうと会議室へであろうとも、その人が信頼に値する人材であるかどうかを確かめたくなる。」

『信頼のリーダーシップ』(ジョームズ・M・クーゼスほか 生産性出版)p19

「絶対的な必須条件」とまで言い切る点から、いかに、クーゼスが「正直さ」を重視しているかが理解できます。

そして、この上位4つの特徴─「正直さ」「未来指向」「情熱的」「有能である」─を満たすことで、フォロワーからの「信頼」を得ていくことが、リーダーシップを確かなものにしていきます。クーゼスは、「信頼」こそが、リーダーシップの源になると考えています。


ドラッカーの考える真摯さ

そういえば、マネジメントの神様ピーター・F・ドラッカーは、マネジャーに求められる資質として「真摯さ」をとても強調していましたね。

ピーター・ドラッカー
経営学者 ピーター・ドラッカー
Peter F. Drucker, padre de la administración moderna. by Jeff McNeil

クーゼスの調査で「正直さ」は、英語で「honest」です。ドラッカーの「真摯さ」は「integrity」です。「honest」も「integrity」も「誠実」という訳語があてられますが、「integrity」は「高潔」とも訳されるので、ふたつの意味はやはり違います。

クーゼスの「正直さ」は、より人間としての道徳観・倫理観の側面を取り上げています。ドラッカーの「真摯さ」(integrity)には、仕事を遂行する上での父性的な厳しさをともなう「高潔さ」の意味合いがより多く含まれています。

『マネジメント』[エッセンシャル版](ピーター・F・ドラッカー ダイヤモンド社)
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ドラッカーは「真摯さ」について、いろいろな説明をしているので、ひとつに絞りきれないのですが、例えば、代表的著書『マネジメント』[エッセンシャル版](ダイヤモンド社)で、「真摯さの定義は難しい。だが、マネジャーとして失格とすべき真摯さの欠如を定義することは難しくない」(p147)と書き、以下の通り記述しています。

ドラッカーの真摯さの欠如の定義
  1. 強みより弱みに目を向けるものをマネジャーに任命してはならない。
    できないことに気づいても、できることに目のいかない者は、やがて組織の精神を低下させる
  2. 何が正しいかよりも、誰が正しいかに関心を持つ者をマネジャーに任命してはならない。
    仕事よりも人を重視することは、一種の堕落であり、やがては組織全体を堕落させる。
  3. 真摯さよりも、頭のよさを重視する者をマネジャーに任命してはらない。
    そのような者は人として未熟であって、しかもその未熟さは通常なおらない。
  4. 部下に脅威を感じる者を昇進させてはならない。
    そのような者は人間としては弱い
  5. 自らの仕事に高い基準を設定しない者もマネジャーに任命してはならない。
    そのような者をマネジャーにすることは、やがてマネジメントと仕事に対するあなどりを生む。

上の内容を一読すると、ドラッカーの言う真摯さとは、目標を達成するうえでの揺るぎない意志の強さを含んだ「真摯さ」であることがわかります。だからといって、クーゼス氏の言う「人としての正しさ選びとる倫理的な正直さ」が不要なわけではありません。

「リーダーにカリスマはいらない」の記事で、大ベストセラー『ビジョナリーカンパニー2』(日経BP社)に登場する「第五水準のリーダー」について説明しました。「第五水準のリーダー」とは、卓越した業績を残した企業の研究から導き出されたリーダー特性です。

第五水準のリーダー
個人としての謙虚と職業人としての意思の強さという矛盾した性格の組み合わせによって、偉大さを維持できる企業を作り上げる。

クーゼスの「正直さ」とドラッカーの「真摯さ」を兼ね備えることが、「第五水準のリーダー」へと近づいていくことになると思います。

また、リーダーに「正直さ」が求められていると理解しておくことは、「リーダーシップ」につきまとう、「特別の才能を持った特別な人だけが優れたリーダーになれる」という誤解を解き、リーダーであることのプレッシャーを和らげてくれます。

カリスマでなくていいのです。特別でなくていいのです。謙虚であり「正直」であろうとすることが、優れたリーダーになるための王道です。

(文:松山淳)(イラスト:なのなのな)