組織変革での抵抗勢力に対処する3つの視点

「抵抗勢力」を味方に変える3つの視点

なぜ「抵抗勢力」は現れるのか。

 会社でも社会でも「変革」の現場に、なぜ「抵抗勢力」は生まれるのでしょうか。なぜなら、「変革」は「不安」「ストレス」であり、自分に「害」を及ぼす出来事であるため、自分を守る「自己防衛心理」が働くからです。

 人は、できれば「心地よい」状況を好むものです。「快」を選択し「不快」を回避するのが人間の心理です。ですので、慣れた「今」の状況が「変わらない」ことを望むため、何かを変えようとすると「抵抗する人たち」が登場します。

 また、「変革」には多種多様な「面倒なコト」がつきまといますね。人事異動もあれば、リストラもあります。誰を解雇するかを自分で決め、自分で部下に伝えることもあります。晴天の霹靂で、自分自身が異動やリストラの対象になるかもしれません。「変革」には「失うもの」「失わなれるもの」がとても多いのです。

 そんな諸々の「面倒なコト」から自分を守ろうとして「自己防衛心理」が働き、「抵抗勢力」は、変革という物語に必ず登場していきます。

『リーダーシップ論』(J・P・コッター ダイヤモンド社)
『リーダーシップ論』
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 ちなみに「リーダーシップ」と「組織変革」を専門に研究するハーバード・ビジネス・スクール名誉教授のジョン・P・コッターは、自著『リーダーシップ論』(ダイヤモンド社)での収録論文「変革への抵抗にどう対応するか」の中で「抵抗理由」を4つ挙げています。

4つの抵抗理由
  1. 偏狭な利己主義 
    組織全体の利益よりも自分自身の利害のみに目を奪われている
  2. 誤解と不信感
    変革を導くリーダーと従業員との間に信頼関係がない
  3. 現状認識のずれ
    従業員たちが変革に得られるデメリットのほうが大きいと認識している
  4. 変革に対する受容性が低い
    変革で求められる新しいスキルや行動を身につけられないかもしれないという恐れ

『リーダーシップ論』(J・P・コッター ダイヤモンド社)p108-114を参考に整理

 「抵抗理由」はその他、いろいろあるでしょうが、組織を時代にマッチさせるために、熱意と善意で変革を導くリーダーにとって、「抵抗勢力」は頭痛のタネです。例え、人数が少なくても「喉にひっかる小骨」「靴の中の小石」のように変革プロジェクトにダメージを与えます。

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まっつん

 私は組織のリーダー層を対象に個人セッション(カウンセリング、コーチング)を行っています。お会いするリーダーたちは、規模の大小はありますが、何らかの形で「変革」に取り組んいる人たちです。もちろん、ここには書けませんが、実に、いろいろな「人に話せない」話しがあるものです。

 AI(人口知能)が着実に私たちの職場、生活の中に浸透し始めています。「働き方改革」の名のもとに、在宅勤務や副業・複業を認める企業が増加しています。まさに今、日本は「変革」の荒波に洗われている真っ最中です。

 そこで、リーダーの皆さんと話し合ってきた経験をもとに、変革の現場に必ずといっていいほど登場する「抵抗勢力」に対処する考え方を書いていきます。


「リフレーミング」反対ではなく分析してるだけ。

 「口を開けば反対ばかりで、まったくやってられないですよ」

 変革プロジェクトを任された管理職の方からよく聴く愚痴です。抵抗勢力となる人たちは、管理職同士の場合だけでなく、経営陣に含まれていることも多いですね。

 話題となっている「抵抗勢力」の人を仮にA取締役とします。A取締役は、社長の意思決定に疑問を唱えたり、投資回収率の数値見積りが甘いと指摘したり、会議中にやたらと質疑を挟んできます。その指摘や質問で会議は長引き、意思決定がなかなかできずで、変革プロジェクトは遅々として進みません。

 変革プロジェクトのメンバーたちからは、「そんな反対するなら、全部、自分でやってみろとよ」と、投げやりな言葉が聞こえてきます。

「質問」は、反対ではない。

 A取締役は、本当に変革に「反対」をしているでしょうか。「抵抗勢力」なのでしょうか。会議中に遠慮なく発言する人は、どこの会社にでもいるものです。

 これはよくあることですが、「抵抗勢力」と迷惑がられているA取締役は、実は、変革プロジェクトに反対どころか、とても乗り気なのです。乗り気だからこそ、モチベーションが高くなっていて、やたらと質問をするのです。

 A取締役は、いわゆる「アナリスト(分析)型」の性格タイプです。

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まっつん

 多角的に分析することを、生まれた時から「心の習慣」としていて、その習慣に従って「質問」が出てくるのです。質問して考えまた質問し考え、そうして「分析」している時に、イキイキとするタイプです。成功の確率を高めるために、自然とそうしているのです。

 A取締役は、変革に反対しているのでも、嫌がらせをしようとしているのでも、プロジェクトの足を引っ張ろうとしているのでもなく、変革を成功させようと一所懸命になって、指摘や質問をしています。

 でも、質問するよりも、回答する方が間違いなく心に負荷がかかります。Q&Aを準備していても、それ以外の質問が出てくるものです。質問に答え続けるのは、はっきり言ってとても疲れます。答えられないと、場は沈黙に包まれ緊張します。嫌なムードが流れます。するとメンバーたちはストレス状態に陥りA取締役を「反対ばかりする人だ」と「抵抗勢力」のレッテルを貼ってしまうのです。

 でも、よく考えてみると、質問することは反対している証でしょうか。ロジカル(論理的)に考えれば、「質問」=「反対」ではありませんよね。

「リフレーミング」でストレス軽減。

 そこで、A取締役のレッテルを剥がすために「リフレーミング」を行います。

 「この人は反対しているのではなく、分析しているだけ」

 そんな風に、認知の枠組みを再構築するのが「リフレーミング」です。「分析しているだけ」と認識できれば、感情的に過度に反応する必要がなくなりストレスが減ります。「リフレーミング」は、心理的負荷(ストレス)を減少させる手法のひとつです。

 「こっちは一所懸命にやってるのに、A取締役は反対ばかりする」と考えながら会議に参加するのと、「A取締役は、この変革プロジェクトを成功させようとして質問し分析しているのだ」と思い参加するのとでは、「心への負荷」が違ってきます。前者で、A取締役は「敵」ですが、後者の認知では「味方」となります。

 「アナリスト型」の人がプロジェクトの意思決定で重要なポジションを占めると、メンバーはその質疑に追われてネガティブ思考になりがちです。そこで、「リフレーミング」の考え方を知っていれば、現実に起きている出来事を肯定的に捉え直すことができるので、ネガティブ思考から抜け出すことできます。

 話し合いを停滞させる「アナリスト型」の偉い人がいたら、会議の始まりにでも、「〜さんの質問はこのプロジェクトのクオリティーを高めますので、今日もひとつ、お願いします」などと、笑顔でジョーク混じりの先制パンチを浴びせつつ、「リフレーミング」を宣言するといいでしょう。「アナリスト型」は、それでは笑わないでしょうけれど、これは、メンバーにも予め「リフレーミング」の考え方を伝えておてい、リマインドしてもらうためです。

 そうした小さな行動を通して、「抵抗勢力」あるいは「抵抗勢力」と思っていた人への感情的なしこりを取り除き「成功への思いは同じだ」という同志としての意識を醸成していくのです。


「集団心理」:賛成ではない「無言の抵抗」。

 ユダヤ人の知恵にこんな考え方があります。

ユダヤ人の知恵

「全員賛成の時は否決する」

 議論をした上での「賛成」ならいいのですが、会議で、プロジェクト進行の途中経過について報告したのに、誰からも発言がなく、「何かご質問やご意見はありませんか」と問いかけても反応がない時には、危険信号が点滅している時があります。

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まっつん

 人の集まる場には「集団心理」が働きますよね。何なとなくその場に流れる空地を察知して、皆と意見を合わせ、出る杭になることを避ける心理です。これを心理学で「同調圧力」と言います。

 反対意見があるのに、「会議の時間が長引くのは嫌だから」と発言しない人もいます。でもそれが現実の世界です。「無言の抵抗勢力」は、組織変革の現場に、これまた、よく登場するキャラクターです。

 「無言の抵抗勢力」は、当初、味方の顔をして参画していますが、自分の意見が反映されないことで、不満が募り、プロジェクトの後半になって、突然、「抵抗勢力」に化けて、改革の足を引っ張ることがあります。

「1対1」の対話で抵抗勢力を味方に引き込む。

 そこで変革プロジェクト・リーダーは、会議で発言の少ない人がいたら、それが意思決定に関わる重要メンバーだったら、なおさらのこと、会議が終わってから「1対1」で話す機会をもてるとベストです。

 単純に会議で発言するのが苦手だから、それで恥をかくのは嫌だから、意見を言わない人もいます。課長だろうが部長だろうが取締役だろうが、そういった人もいるのが組織のリアルです。ですので、その人のいる部署に出向いたり、ランチを共にしたりして、「1対1」で話してみるのです。すると突然、「実は…」と本音を話すことがあります。

 話すことができなかった「本音」を話せると、人は、話しを聴いてくれた人に好感を持ちます。その好感が積み重なっていけば、「抵抗勢力」は「味方陣営」に加わってくれます。

 「陰のワン・オン・ワン(1on1)」でのミーティングは、「無言の抵抗勢力」が「真の抵抗勢力」になってしまう芽を早めに摘み取る手法です。面倒くさいですけれど、これも現実に行われている泥臭いながらも効果の高い変革型リーダーシップの愚直な一側面です。


組織変革は「知・情・意」で。

 組織変革の代表例として、経営学史に間違いなく残る「日航再建」があります。それを導いたのは京セラ創業者稲盛和夫氏です。

 「日航再建」では2つの大きな柱がありました。ひとつ目は、部門別採算制度である「アメーバ経営」の導入です。ふたつ目は、経営幹部を対象に行われた「リーダー研修」です。2016年10月から1ヶ月に渡り、17回も、研修は行われました。

 研修が終わると、会費1,000円の質素な打ち上げがありました。缶ビールと乾き物を片手に話し合うのです。変革を導くリーダー稲盛さんも参加します。ですが、出席を断ったり、手短に終わらせ帰ったりする人がたくさんいました。「抵抗勢力」が、日航再建の現場にも存在していました。

 ですが、「オンサイト」(職場)での会議・研修だけでなく、「オフサイト」(職場から離れた場)での話し合いもすることで、日航経営陣は結束力を強め、「抵抗勢力」は同志になっていったのです。

 稲盛さんは『燃える闘魂』(毎日新聞社)で、こう書いています。

『燃える闘魂』(稲盛和夫 毎日新聞社)
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 リーダーとしてもつべき考え方を学ぶ教育を集中的に行い、できる限りわたし自身も出席し、直接講義をするともに、彼らと一緒に酒を飲み交わし、議論を重ねていった。さらには合宿まで行い、グループ討議は深夜遅くまで続いた。

 すると、当初、あまり乗り気でなかった幹部の眼の色が変わり、リーダーとしての意識もかなり変わってきた。また、同じ教育を受けた仲間として、幹部同士に強い一体感も生まれたようだ。

『燃える闘魂』(稲盛和夫 毎日新聞社)p155

「知・情・意」に配慮し味方は増えてゆく。

 心の働きを「知・情・意」と3つに分ける考え方があります。

 職場で「何かを変えよう」と議論する時、その有効性を問うデータや理論など実現の可能性を論理的に裏づける情報ー「知」の部分が優先されます。言わば「正論」です。

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まっつん

 でも、「正論」(知)だけでは人は動きません。人は「感情」(情)で動く生き物です。「俺は聞いてない」とか「後から聞いた話しだ」とか、小さなプライドを汚されただけで、人はあっという間に「抵抗勢力」の仲間入りをしてしまいます。「情」が、人の意志と行動を左右するのです。

 ですので、リーダーは、メンツをつぶさないように、人の「感情」にも配慮する必要があるのですね。そして「知」と「情」を融合させ、それを皆の「意志」(意)へとまとめあげていきます。これが組織変革の現場にける「同志化」のプロセスです。

 「同志化」のプロセスを踏んでいく時、職場(オンサイト)での会議だけでなく、会社から離れた場(オフサイト)での語り合いが有効です。ですので、組織変革のキックオフミーティングを合宿形式で行う企業があるのですね。日中、会議をやった後は、稲盛さんが言うようにお酒も交えて語り合います。予算が無ければ、職場近くの居酒屋でもいいし、稲盛さんがやったように会社に缶ビールを持ち込んでディスカッションするのでもいいでしょう。

 本音をぶつけ語り合い、「知・情・意」が絡み合って、リーダーと抵抗勢力との信頼関係は、その絆はより強いものになっていくのです。

 インド独立の父ガンジーは言いました。

ガンジーの名言
よいものはカタツムリのように進む (by ガンジー)

 組織変革は、抵抗はいろいろありますが、基本的に「よいもの」のはずです。よいものは、ゆっくり進行するのです。実にいろいろなことがありながら、一歩進んでは二歩下がり、二歩下がっては三歩進むように、少しずつ、カタムツリのように前に進んで行くのです。

 そう覚悟を決めることが、組織変革を導くリーダーにとって最も求められることでもあるのでしょう。最後の最後は、「ねばり強さ」「忍耐」あるのみです。

(文:松山 淳 イラスト:なのなのな