U理論とは

U理論

 U理論とは、個人、組織、コミュニティー、社会における変容・変革を導く7段階のプロセスを理論化したもの。提唱者はマサチューセッツ工科大学上級講師C・オットー・シャーマ博士である。「過去」を分析しその延長線上に変革の「答え」があると考えるのではなく、個人やチームの「意識」が生み出す「出現する未来」という直感的・感性的な「結論」を手掛かりに変革を導く。U理論の特徴とは、「過去」ではなく「未来」に、「コト」(外面)ではなく「人の意識」(内面)に焦点を当てることにある。

「U理論」の根幹にあるシャーマー博士の問い

U理論の提唱者「C・オットー・シャーマー」の写真
U理論の提唱者
C・オットー・シャーマー(C.Otto Scharmer)
Author: Ad Huikeshoven – Own work

 C・オットー・シャーマー博士はドイツ生まれで、家は歴史ある農家でした。彼がまだ少年だった頃、築350年の住み慣れた家が火事で焼失する悲劇に遭遇します。学校にいたシャーマー博士は、先生から言われて慌てて家に戻ります。すると、炎に包まれた家を目撃するのことになるのです。

「ふたつの自己」を知る神秘体験

 この時、シャーマー博士は、「自分」という存在に関する「神秘的な体験」をします。それは「ふたつの自己」を認識する出来事でした。私を見ている「もうひとりの私」を知ったのです。燃えさかる炎を見ていると、時間が止まり体が上の方へと引き上げられて、その高い場所から俯瞰した光景を見ることができました。

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まっつん

 想像してみると不思議ですね。例えば、今、あなたがこの文章を読んでいる場面で考えると、突然、意識が変化し、この文章を読んでいる自分を空の高いところから同時に見ているという状況です。

 「臨死体験」では、「ベッドに寝ている自分を空中で浮かんで見ていた」という出来事がよく報告されます。でも博士の場合、通常の意識状態でそれ似た現象が起きたのですから、不思議です。 

 実家を火事で焼失する経験から、通常私たちが「私」と考えている「私」とは違う「真正の自己」(オーセンティック・セルフ)の存在を博士は確信します。高い位置にいた「真正の自己」(オーセンティック・セルフ)は、「これまで知っていた「私」よりもっと正気にあふれ、もっとはっきり覚醒していて、もっとしっかり存在していた」のです。人生観・人間観を根底から変える極めてインパクトのある経験です。

 宇宙飛行士が宇宙から地球を眺めると、価値観が変わると言われます。「自分の中に、『もうひとりの自分』がいる」と知る鮮烈な体験は、それに匹敵するものでしょう。「自己のもう一つの側面」につながった経験が、人生の方向性を大きく決定づけることなります。そして、この時、抱いた「問い」がU理論を探求する根底にあるのです。

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シャーマー博士

「どうすれば時間と存在と自己のより深い源に、実践的、集合的で信頼性のある方法──しかも実家の農家を毎日火事で失わなくても効果がある方法──でアクセスすることができるか?」

『U理論(第二版)』 (英治出版)p100

 1994年、シャーマー博士はアメリカに渡り、MIT(マサチューセッツ工科大学)で研究を続けることになります。


「U理論」誕生のきっかけ。

ハノーバー保険元CEO

「組織に対する介入が成功するかどうかは介入者の『内面の状況』(インテリア・コンディション)にかかっている」

 こう言ったのは、ハノーバー保険元CEOビル・オブライエン氏でした。企業のトップとして様々な組織変革を行った経験から得た「最も重要な洞察」です。この言葉にシャーマー博士は「ひらめいた」と書き、こう続けています。

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シャーマー博士

「重要なのはリーダーが何を、どうするか、だけではなく、彼らの「内面の状況」、彼らが行動を起こす起点となった内面世界、彼らの意識の源とその質なのだ。

 このことから言えるのは、同じ人が同じ状況で同じことをしても、そのときの行動が何を源泉としているかによって、まったく異なる結果を生む可能性があるということだ

『U理論(第二版)』 (英治出版)p101

 博士のこの言葉には、U理論の大きな特徴が包み込まれています。つまり、U理論にとって大事なのは、「何を」「どうするか」といったテクニカルな話ではなく、人間の「内面の状況」(インテリア・コンディション)であり、その行動を生み出す「源泉」(ソース)が含まれる「意識」の部分です。

 人の「意識」が変わることによって、現実の結果が変わってくる。

 「内面の状況」が現実に反映する「原理原則」を軸にしてU理論は構築されています。この「意識の力」に重きを置いていることが、他の経営理論や変革手法と一線を画す点です。

 オブライエン元CEOの言葉は「U理論」の原点と言えます。次に大きな影響を与えた人物が、サンタフェ研究所のW・ブライアン・アーサー氏です。


「U理論」の骨組みが生まれる。

 シャーマー博士は1999年から、マサチューセッツ工科大学で共に働くジョセフ・ジャウォスキー氏とプロジェクトをスタートさせます。第一線で活躍する人々にインタビューする仕事でした。

サンタフェ研究所 W・ブライアン・アーサー
DAVOS/SWITZERLAND, 27JAN11 – W. Brian Arthur, Professor
 World Economic Forum – FlickrBrian Arthur – World Economic Forum Annual Meeting 2011

 このプロジェクトでサンタフェ研究所のW・ブライアン・アーサー氏にインタビューする機会に恵まれます。アーサー氏はスタンフォード大学の教授も務めた経済学者であり、ハイテク市場分析の先駆者でした。すると、U理論の核心に近い考え方を言葉にしてくれました。

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アーサー氏

「じっと待って経験が何か適切な形になって現れるのを待つんだ。何かを決定する必要はない。何をすべきかは自ずと明らかになる。急がせても無駄だ。そしてそれは自分の由って来るところ、自分はどういう人間なのか、ということに大きく左右される。これは経営にも大いに関係がある。要するに、自己を自己たらしめている内面の源が大切だということだ」

『U理論(第二版)』 (英治出版)p107

 アーサー氏の言葉からシャーマー博士は2つの気づきを得ます。

アーサー氏からの気づき
❶認知には通常の認知(思考の枠組みをダウンロードする認知)と、より深い「知」(ノウイング)があること。
❷深い「知」を活性化するには、徹底的に観察し、内から湧き上がるものに結びつき、素早く行動すること

 インタビューの帰路、この気づきからシャーマー博士は「U」の字を書き、アーサー氏の言葉をポジショニングしていきます。そして「U理論」の大枠となる「3つの動き」が現れてきたのです。

「U理論における3つの動き」
「U理論における3つの動き」
『U理論(第二版)』 (英治出版)p109掲載図を参考に作成

 「変革を起こす時、人は過去のパターンを繰り返そうとする「通常の認知」(ダウンロードする認知)から、まず脱却します。その後に「3つの動き」を行ないがら「何らかの成果」をあげていくのです。「3つの動き」のプロセスは、さらに7つの段階に分類されます。

 ここで強調しておきたいのは、2「プレセンシング」の段階で現れる「知(ノイング)」「出現する未来」と呼び、U理論は、それをとても重視している点です。

 「出現する未来」は、通常の私ではなく「真正の自己」(オーセンティック・セルフ)から生み出されるものです。「出現する未来」を生み出す「真正の自己」を「源」(ソース)ともシャーマー博士は言います。

 U理論にもとづく変革は、「出現する未来」に導かれていきます。それは、「過去からの学習」ではなく「未来からの学習」です。

 古き良き時代に焦点を合わせる「懐古主義」でもなければ、今を肯定し維持しようとする現状肯定主義でもありません。

❶懐古主義
「昔の秩序を取り戻そう」古き良き時代の「よさ」に着目し、現代にその「よさ」を取り入れようとする。「昭和はこうだった」「江戸時代はこうだった」と。
❷現状肯定主義
「今のまま、今のまま、今のままのやり方を続けていけば、なんとかなる」と現状を肯定し続ける。
❸根本的変化主義
過去のパターンを超えて過去にあった手法とは全く異なる方法によって未来をよりよくしていこうとする。

※『U理論(第二版)』 (英治出版)p75の記述を参考に作成

 先行きのわらかない複雑な時代において、過去とは根本的に違った方法で変革を引き起こそうとする「根本的変化主義」の視点に立っているのがU理論です。

 では、ここからU理論の7つのステップについて説明していきます。まず、全体像をご覧ください。

「U理論の7つのステップ」
「U理論の7つのステップ」
『U理論(第二版)』 (英治出版)p120掲載図を参考に作成

 いかがでしょうか。7つになると複雑に感じられますが、「3つの動き」が基本にあると考えれば、理解しやすくなります。わからなくなったらアーサー氏の言葉を思い出してください。あの言葉が「U理論」の本質です。

 「3つの動き」における「1.センシング」は、「Step1 ダウンローディング〜Step3 感じ取る」で、「Step4 プレゼンシング」は同じで、「Step5結晶化〜Step7 実践」までが「3クリエティング」に対応します。

《3つの動き》《7つのステップ》
1. センシングStep 1 ダウンローディング
Step 2 観る
Step 3 感じ取る
2. プレゼンシングStep 4 プレゼンシング
3. クリエティングStep 5 結晶化
Step 6 プロトタイピング
Step 7 実践

それでは、Step1から順を追ってStep7まで説明していきます。


Step1.ダウンローディング〜過去のパターン〜

 「ダウンローディング」とは、過去のパターンで思考したり行動している状態です。これには個人レベルから会社レベルや社会レベルまで多様な段階があります。Step1は、変革の前段階です。

 ダウンロードとは、ネット(クラウド)やディスク媒体などの「大元」に格納されているデータを手元のPCなどに「移転」することですね。それは「すでにある過去のデータ」を移すだけの行為です。大元のデータを更新しない限り、データは新しくなりません。人間で例えれば、人の脳や意識が「大元」の部分です。「大元」が変わらなければ、人も同じことを繰り返しがちです。

 シャーマー博士は、こう言っています。

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シャーマー博士

「我々がすることは、行為や思考の習慣的なパターンに従っていることが多い。おなじみの刺激は、おなじみの反応を触発する。将来の可能性に向かって動くには、我々が過去のパターンを再現し続けているダウンローディングのモードに支配されていることに気づき、それを捨てなければならない。」

『U理論(第二版)』 (英治出版)p203

 ステップ1のダウンローディングの段階では、自分たちが過去のパターンにはまり込んで同じことを繰り返していることに、気づけていません。変革とは、現状を変えて、新しいことを生み出していくことです。「現状維持でOK」「過去のパターンのままでいい」と考えていたら、そもそも変革は起きようがありません。

変化を拒む四つの障壁

 人は変化を拒絶します。今のやり方に固執しようとします。その理由は、とてもシンプルで、今のやり方を続けていたほうが「楽」で、何かを変えることは、とても「面倒くさい」からです。

 もちろん、「面倒くさい」だけが理由ではありません。シャーマー博士は、その理由を「変化を拒む四つの障壁」として4つの概念に整理してくれています。

変化を阻む四つの障壁
  1. 見たことを認めない(認知と思考の分離)
     例:会社で不正が行われていることを知りながら、それを認めず隠蔽する。
  2. 思ったことを言わない(思考と発言の分離)
     例:組織が経営者の独裁主義に陥っていて社員が経営陣に物を言えなくなっている
  3. 言ったことを実行しない(発言と行動の分離)
     例:「マナー向上は社内から」をスローガンに変革プロジェクトがキックオフしたのに経営陣が礼節に欠ける態度を改めない。
  4. したことを見ない(行動と認知の分離)
     例:組織全体に、実践したことをふりかえり、内省し、改善点を見出そうとする習慣がない。

『U理論(第二版)』 (英治出版)p211-214を元に作成

 以上の4つが会社にはびこれば、組織にひずみが生じて経営を危ういものにするでしょう。組織とは人の集まりです。人が集まれば、認知のズレや歪みの象徴である「集団思考/浅慮(グループシンク)」は必ずどこかで起きています。「そんなものは我が社にはない」と拒絶するのではなく、「変化を拒む四つの障壁」は「常にある」と考えるのが、組織を率いるリーダーとして健康的な思考です。

 「変化を拒む四つの障壁」から、過去のパターンを繰り返す「ダウンローディング」モードの状態であると「気づく」ことが「U理論」のスタートラインに立つことです。


Step2.観る(Seeing)

 不正が行われていると社内で噂が流れています。誰かが取引先からお金を受け取っているようです。そんな噂が流れている状態は、「観る」=「センシング・モード」にはなっていません。「センシング・モード」の反対である「見て見ぬふり」のモードです。

 過去の慣習で繰り返されている不正は、組織内では「常識」となって「見てみぬふり」をされています。それが内部告発によってマスコミにリークされると、組織は蜂の巣をつついた騒ぎとなります。

 この段階になって「センシング・モード」になります。「観る」とは当事者の立場をとり、その状況を正確に把握するために意識をしっかり問題に向けることです。

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まっつん

 カウンセリングで相談者(クライエント)の話しを「聴く」ことは、「聴く」と書きます。「聞く」ではありません。英語で「聞く」は「hear」で、自然と「音」が耳に入ってきている状態です。「聴く」は「Listen」です。より意識を高めて積極的に注意深く耳を傾けることが「聴く」です。

 U理論での「観る」は、この「聴く」に相当するものです。問題となっている状況に意識を向けてしっかり「観る」のです。

「保留」が観る力を高める。

 この時ポイントになるは、「保留」という態度です。カウンセラーは、善悪の判断をしないで聴きます。問題の核心はどこにあるのかは、話しが進まないとわからないからです。もしかすると見栄を張って事実とは違うことを言っているかもしれません。そういった時に、話しが深まるのを「待つ」ことで真実が浮き彫りになります。もし、待たずに「それはこういったことだね」と解釈したり「だったらこうしてください」と指示したら、真実は闇に葬られてしまいます。

 ですので、結論を急がずに「保留」するという姿勢が求められるのです。

 ただ、突発的な出来事で、問題に意識を「向けさせられる」こともあるでしょう。社内では「常識」だと見過ごされたいた罪が、「非常織な犯罪だ」とマスコミや世間から強制的に教えられるケースです。経営不振が続き、突然、銀行が来社して融資の打ち切り話をされた経営陣も、その時になって、真剣に経営を「観る」ことになります。

 「見てみぬふり」を停止して、「観る」=「センシング・モード」になれば、変革の必要性に気づけます。「このままじゃマジでまずい」「今のままだと我が社の未来はない」。そう社員の多くが考え、組織の中で話し合いが始まったら「Step2.観る(Seeing)」の段階です。

 シャーマー博士は、こう言っています。

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シャーマー博士

「変化を引き起こそうとしてもほとんど失敗するのは、良い意図や気高い大志がないからではない。直面している現実を、リーダーがしっかりと「観る」ことができず、そしてそのまま行動するからだ」

『U理論(第二版)』 (英治出版)p211

 「U理論」を使って、世界中の名だたる企業で数多くの変革プロジェクトを手がけてきたシャーマ博士です。それだけ組織の内側からリーダーが組織を「観る」ことは難しいわけですね。

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シャーマー博士

「リーダーシップの第一の仕事は、個人と組織の「観る」能力を高めること、つまり人々が直面し、自ら役割を演じて作り出している現実に、深く注意を向ける能力を高めることだ。すなわち、リーダーのほんとうの仕事は、人々が「観る」ことと、ともに「観る」ことの力を発見することを助けることである。」

『U理論(第二版)』 (英治出版)p221

 Step2.観る(Seeing)になると、問題意識をもって変革への意志が生まれてきますが、まだ「意識」はダウンローディング・モードのままです。「過去の知識」で現状をどうにかしようとします。もちろん、「過去の知識」を使って問題解決できればいいのですが、そうでない時、Step3「感じ取る」(Sensing)へと進んでいきます。

習慣的な方法で見たり行動したりしても、何も変化は起きないことを悟ったときには、意識を向けている方向を変え、認識の源、つまりその行為を実践している人自身に向け直さなければならない。

この変化が起きると、我々はそれまでとは異なる場所から状況に注意を向けて見るようになる。

『U理論(第二版)』 (英治出版)p197

Step 3.感じ取る(Sensing)

 「 Step 3.感じ取る(Sensing)」の段階になると、変革プロジェクト・チームが組まれたり、そうならくとも、何度も話し合いが行われるでしょう。

 シャーマー博士は、 「感じ取る(Sensing)」段階で、「視座の転換」の重要性を説いています。「視座の転換」とは、「自分」ではなく「相手の立場」から観ることです。または、「今のいる場」からではなく「今いる場の外」から「今いる場」を観ることです。

 シャーマー博士は「視座の転換」について、こう言っています。

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シャーマー博士

「自ら移動し、現在の境界を越えた外側の世界とつながる感覚を用いる努力をしない限り、我々はいつまでも目が見えないまま洞窟から出られない」

『U理論(第二版)』 (英治出版)p211

 日本で暮らしていると、「日本」や「日本人のよさ」を、普段はそれほど意識しません。でも、海外旅行に行って帰って来ると、「日本はいいところだな」と多くの人が実感します。それは「住み慣れた土地のよさ」に気づくことだとも言えます。それを可能にしているのは、「海外」から「日本(住み慣れた土地)」を観る「視座の転換」が起きているからです。

 また、「あ〜やっぱり自分は日本人なんだな」と、日本という「国」で暮らす「ひとりの人間」なのだと感じ取ることもあります。これは自分が「全体の一部」だと改めて理解することです。

 自分が日本人であり、日本人のひとりであることは、誰もが理解しています。でも、その理解は意識の深いところにあって希薄になっています。それが「海外」に行くことで「ハッキリ」してくるのです。 

 これを組織変革の現場に当てはめると、自分も「変革が必要な問題山積みの会社の一員」だと理解すること、つまり、自分も「犯人」である自覚を持つことです。「当事者意識をもつ」では言葉が弱いでしょう。多くの人は変革が必要だと言っても、「自分とは関係なこと」と感じています。

「会社がこうなったのは俺(わたし)のせいじゃないでしょ」

 それが本音です。社員数が多くなればなるほどそうなります。社会心理学でいう「社会的手抜き」です。「犯人は自分じゃない」という意識では、「感じ取る(Sensing)」ことはできません。自分も犯人のひとりだと「視座の転換」が起きることで、「4プレセンシング」(Presencing)の領域へと入っていくことができます。

「視座が転換」すると、人はそれまで感じ取れなかったことを、感じる取ることができます。それは、過去からの脱却であり、ダウンローディング・モードからの卒業を意味します。

 シャーマー博士は、ゲーテの言葉をあげています。  

ゲーテの言葉
「人は自分が世界を知っている範囲でしか自分のことがわからない。人は世界の中でのみ自分を知るようになり、自分自身の中でのみ世界を知るようになる。すべの対象物は、熟慮されたなら私たちの中に新しい認知器官を開く」
『U理論第二版』(英治出版)p258

 ゲーテのいう「新しい認知器官」が「4プレセンシング」(Presencing)のことです。


Step 4.プレゼンシング(Presencing)

 プレゼンシングとは、造語です。「sensing」(感じ取る)と「presence」(現在)の組み合わせです。シャーマー博士は「最高の未来の可能性の源からつながり、最高の未来の可能性を今に持ち込むこと」と書いています。

 「プレゼンシング」は、「U理論」の真骨頂のステージです。「真正の自己」を前提条件として「大いなる源」(ソース)につながることで、人は過去を超越する「大いなる答え」を導き出すことができます。

 変革について話し合いが行われます。会議は何度も行われます。不毛だと感じる会議が重なり、ある人は投げやりになり、ある人は他人にくってかかり、ある人はそれをなだめ、混沌とした状態になります。そんな時、あるひとり人の発言で、場の雰囲気が一気に変わり、エネルギーが高まり、突如として、あるひとつの方向へと話しがまとまっていくことがあります。

 こうした普段とは違う意識状態になり、自分たちが予想していなかった質の高い「よりよい場」が生み出されるのが「プレゼンシング」の段階です。

 シャーマー博士はこう表現しています。

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シャーマー博士

「プレゼンシングの状態へと移っていくと、我々は自分次第で現実になり得る未来の可能性からものを見るようになる。その状態に入ると、我々はほんとうの自分、正真正銘の自己である真正の自己へと入っていく。プレゼンシングは出現する未来から自己に向き合わせてくれる」

『U理論(第二版)』 (英治出版)p259

出現する未来

  「出現する未来」が「U理論」の重要キーワードです。「出現する未来」とは、「真正の自己」という「源」(ソース)から生み出されてくる「何らか」(思考、言葉、イメージなど)です。

 冒頭で、シャーマー博士が火事に遭遇し「自己のもうひとつの側面」を知った話しをしました。その時、上空に存在した「もうひとりの自分」が「真正の自己」です。

 シャーマー博士のように「真正の自己」を知る体験を誰もがするわけではありません。むしろ、多くの人は、そんな神秘的な体験をしないのが普通です。ですが、「真正の自己」「出現する未来」を前提とする「U理論」で、数々の難題を解決してきたのも事実です。

 ブライアン・アーサーの言葉を思い出してください。

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アーサー氏

「要するに、自己を自己たらしめている内面の源が大切だということだ」。

『U理論(第二版)』 (英治出版)p107

 この言葉にある「源」(ソース)は、まさにシャーマー博士のいう「真正の自己」のことです。

「創造性」のグル「ブライアン・アーサー」の言葉

 スタンフォードビジネススクールで、「創造性」に関する講座を担当し、多くの人の人生を変えてきた人物がマイケル・レイです。シャーマー博士は、インタビューをしてレイ氏に尋ねました。

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シャーマー博士

「いったいどういう風にするんですか。人々が実際に創造性を高めるよう促すのに欠かせない活動は何ですか」

『U理論(第二版)』 (英治出版)p260

 すると、マイケル・レイは、「どの講座でも私は受講者が創造性を引き出す二つの根源的な問いと真剣に取り組めるような学習環境を作り出すのです」と答えてから、「二つの根源的な問い」を教えてくれました。

私の大きなSの自己とは何者なのか、私の成すべき事とは何なのか」

 レイ氏がいう「大きなSの自己」とは、シャーマー博士がいう「真正の自己」と同じでことでしょう。そして「大きなSの自己」による「成すべき事」とは、「自分の人生の目的、この地上で成すべき事」です。

 哲学的で深遠な問いです。答えがなかなか出ない質問です。「それだどうしたの」と無意味な質問に感じる人もいるでしょう。ですが、「真正の自己」から「出現する未来」を導くためには、こうした深遠な領域へと入っていかなければなりません。

 そして「源」(ソース)から出てくるエネルギーによって動かされると、人は、普段とは違った意識状態になり、想定外の力を発揮するようになります。それは個人でも、グループでも、プロジェクトチームでも、さらにより大きな組織の「場」でも、起きることなのです。

 シャーマー博士は、『U理論』で、こう書いています。

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シャーマー博士

 真の未来の可能性から行動しようとするとき、グループは通常経験するものとはかけ離れた質の社会的な場に入っていく。考え方や対話の仕方や集合的行動が明らかに変容していく。こうした変容が起きたときに人々は深い創造力や知恵の源に結びつき、過去の行動パターンの限界を超え、ほんとうの力すなわち真正の自己(オーセンティック・セルフ)の力を発揮できるようになる。私はこれを社会的な場(ソーシャル・フィールド)の変容と呼んでいる。

『U理論(第二版)』 (英治出版)p74
(オーセンティック・セルフ)(ソーシャル・フィールド)は、本文のルビを参考に筆者追記

「ONE TEAMになった」ラグビー日本代表

 ビジネスの現場では、なかなか理解しがたいかもしれませんが、スポーツチームが、格上の相手に勝利する「ジャイアント・キリング」が起きる時、普段とは違った雰囲気がチームに満ち、個人の能力を超えた力が発揮されます。これはテレビで見ていても伝わってくることがあります。

 2019年ラグビーW杯で日本代表は、世界第2位のアイルランドに勝利し「ジャイアント・キリング」を現実のものにしました。W杯で一度も勝ててないスコットランドに勝利し初のベスト8を決めた試合は、チームのソーシャル・フィールドに確かな変化が起きていたことをテレビ画面からも感じ取ることができました。

ジェイミー・ジョセフHC(ヘッド・コーチ)Jamie Joseph
ラグビー日本代表監督
ジェイミー・ジョセフHC(ヘッド・コーチ)

 日本代表を率いたジェイミー・ジョセフ監督も、エディー・ジョーンズ前監督から引き継ぎ、変えるべきは変え、様々な変革を実践し、日本ラグビー界の歴史に残る偉業を成し遂げました。それは「U理論」の概念を借りれば「Step4プレゼンシング」のステージに近い現象が起きていたと推察できます。

手放す(Letting GO)

 ラグビー日本代表チームのキャプテンマイケル・リーチは、記者会見で度々「多くのことを犠牲にしてきた」と口にします。他の選手もそうです。代表選手の多くは、家族との時間などプライベートの時間を犠牲にしてラグビー漬けになりました。「犠牲」とは、より大切なもののために大切なものを手放すことです。

 「U理論」で「プレゼンシング」の領域に入っていくのに、自身にとって価値ある何か「手放す」ことが起きてきます。何かを「変える」とは何かを「手放す」ことです。マイケル・リーチ主将の言葉を借りるなら、何かを「犠牲にする」ことです。シャーマー博士は、こう言っています。

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シャーマー博士

 「恐れの声を聞くと、我々は今持っているもの、今の自分を手放すことができない。経済的な安定、社会的な立場を失うかもしれない。ときには死の恐怖もある。しかしこうした恐れの声と向き合い、乗り越えることこそリーダーシップの本質である」

『U理論(第二版)』 (英治出版)p120

 W杯終了後、多くのラグビー日本代表選手が、チームのスローガンである「ONE TEAM」について証言していました。最初、バラバラだったメンバーが「ワン・チームになった」と感じる時があったと…。その現象は、日本代表選手たちが多くのことを犠牲にし、「大いなる使命」を果たすために、「真正の自己」で深い絆を結んだからこそ起きたことでしょう。

 さて、U理論に話しを戻します。繰り返しになりますが、「プレゼンシング」(Presencing)の概念に焦点をあて、それを重視していることが「U理論」を特別なものにしています。さらに詳細はU理論(第二版)』 (英治出版)に譲りますが、「プレゼンシング」を理解することが「U理論」を理解することと言っても過言ではありません。それほど「U理論」にとって「プレゼンシング(Presencing)」は、重要なステップです。

 本稿もかなりの文字数を費やし、肝となる「プレゼンシング」(Presencing)の部分はは述べましたので、次のステップからは、文字数を抑えて少し駆け足で、ゴールにたどり着きたいと思います。


Step 5.結晶化(Crystalaizing)

 結晶化の段階は、プレゼンシングの状態から、より具体的な「何か」に落とし込もうとする作業段階です。「4プレゼンシング」で底打ちをしたら、今度は、「7 実践」に向けて図の右側のベクトルをかけあがっていきます。製品・生産チームであれば、商品のラフ・スケッチを書いたり、経営陣のチームであれば「ビジョン」を言語化しようとするでしょう。

 ここでポイントになるのが、「結晶化」(クリスタライジング)の作業になっても「源」(ソース)とのつながりを断ってはならない点です。「出現する未来」を基盤として「結晶化」は行われます。

 シャーマー博士は、「結晶化」について、こう述べています。

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シャーマー博士

 結晶化するとは、未来の最高の可能性からビジョンと意図を明らかにすることだ。結晶化は一般的にビジョンを描くというときのプロセスとは異なる。結晶化は自己のより深い場から起こるが、ビジョンはどこからでも、ダウンローディングの場からでも起こり得る。

『U理論(第二版)』 (英治出版)p293

 上のシャーマ博士の言葉を、具体的な作業レベルの話しに落とすと、「ビジョン作成がダウンローディングの場からも起こり得る」とは、コンサルティング会社や広告代理店に外部委託してビジョンをつくることも可能だということです。

 外部の専門機関に委託すれば、きれいな言葉でロジックの整った「ビジョン」ができるかもしれません。でもそれは、組織メンバーの「真正の自己」という「源」(ソース)から生み出されたものではありません、もちろんヒリアリングや社内アンケート調査をしたりして、「社員の声」を聞き取ることはするでしょう。ですが、「聞き取り」は「3感じ取る(Sensing)」とは違います。

 社員同士が深い対話(ダイアローグ)もせず、「4プレゼンシング」の段階を経ていないビジョンは、魂の入っていない借り物であり、組織の中で威力を発揮することはありません。

 「学習する組織」のピーター・センゲ氏による「U理論」をテーマにした本があります。『出現する未来』(講談社)です。この本には、シャーマー博士もジョセフ・ジャウォスキーも共著者として名を連ねています。

『出現する未来』(ピーター・センゲほか 講談社)d
『出現する未来』(ピーター・センゲ ほか 講談社)
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 『出現する未来』(講談社)で「結晶化」の段階に関する記述を見つけます。

真のビジョンとは、大いなる目的の結晶であり、プレゼンシングから生まれるエネルギーや使命感の焦点を合わせるものだ。「目的の結晶化」という言葉を使うのは、石英の結晶である水晶を使うと光を集めることができるからだ。目的を結晶化するには、大いなる意思の声に耳を澄まし、想像力を駆使して、ひらめいた直感の行動の指針になる具体的なイメージやビジョンに変えなければならない。

『出現する未来』
(ピーター・センゲ、C・オットー・シャーマー、ほか 講談社)p161-162

 「プレゼンシング」での「真正の自己」にふれる経験はとても尊いものです。ただ、それを現実の変革を引き起こす「カタチ」にしていかなければ、プレゼンシングの段階も無意味なものになってしまいます。

 「プレゼンシング」の段階で、「出現する未来」に出会って「源」(ソース)としっかりつながっていれば、途中、挫折しそうなっても、どこかから助けての手が差し伸べられて、事は前に進んで行きます。それが「U理論」の考え方です。

 そのためには、トライ&エラーをできるだけ素早く繰り返し、完成形へと近づいていくことです。それが 「6. プロトタイピング」(Prototyping)の段階です。


Step 6. プロトタイピング(Prototyping)

 「プロトタイピング」の意味は、辞書に「原型」「試作品」とあります。シャーマー博士は、「6 プロトタイピング」について、こう書いています。

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シャーマー博士

 源につながり(プレゼンシング)、出現しようとしている未来の感覚を明確化したら(結晶化)、Uプロセスの次の段階は、実行することによって未来を探索すること(プロトタイピング)だ。プロトタイピングは、実験を通して未来を探索する最初の一歩である。

『U理論(第二版)』 (英治出版)

 ゴールが製品開発であれば、わかりやすいです。まさに「試作品」を作ればいいのです。ですが、例えば、地域コミュニティーを活性化させる「シンポジウムの開催」が目標だとすると、何を「試作品」にすればよいのでしょう。

 「シンポジウムの開催」のプロトタイピングは、その開催に向けた「打ち合わせ」そのものが「プロトタイプ」だと考えます。実際、結晶化の段階で目標が決まっても、「次の一歩」を踏み出せずに終わるプロジェクトもあります。

 それを考えると、とにかく素早く動き、動き続けることが大事です。プロトタイピングの期間は、ものによって5年や10年になることもあります。地域紛争を解決するために世界から政府の要人を招集するようなレベルだと、それぐらいの時間はかかって当然です。

 つまり、U理論の7段階のプロセスは、その都度、その都度何度も行われる「点」でもあり、その「点」が結びついていくことで、より大きな7段階プロセスの線を描くことになります。

 Fail Fast(早く失敗せよ)。この言葉を信じて、トライし続けることで、ビジョンは形になっていきます。

Step 7. 実践(Performing)

 「7実践」とは、描いたビジョンを実現することです。製品開発であれば、商品を市場に投入し、販売を開始することです。生活者に自社の製品を届けることです。シンポジウムの開催であれば、本番を迎え、終わらせることです。そして「打ち上げ花火」に終わらないように、次につながる仕掛けをしておき、何らかの「連鎖」が起きるようにしておくことです。

 シャーマー博士は、7実践の段階について、こう書いています。

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シャーマー博士

プロトタイピングの領域から実践することの領域へと移ると、主要な焦点は小宇宙の形成から人のより大きな生態系の形成と進化へとシフトする。

『U理論(第二版)』 (英治出版)p329

 抽象的で難しいですね。この言葉でシャーマー博士が言おうとしているのは、次のことです。

「U理論」における「実践」は、宇宙の壮大な計画の一部であるという認識を持つこと。自分たちの実践が、宇宙とまでいかないまでも、地球に対して常に持続的に影響を与えるのだと自覚すること。

 それが「大きな生態系の形成と進化へとシフト」です。

 私たちはつながりあって影響を与えあっているシステムの一部であるという認識を持つ「システム思考」がU理論の前提にあります。

 「真正の自己」であれば、「母なる星-地球」を破壊するのではなく「進化」を望むはずです。「源」(ソース)は、「善」を志向しているはずです。でも、企業は利益をあげるために地球を壊し続けています。それは「真正の自己」(オーセンティク・セルフ)ではなく、「源」(ソース)から切れている「エゴ」(小さなセルフ)が作り出したビジョンに従う行いです。

 小さな町の小さな集会所で「地球を大切にしよう」と、数人で集まって話し合ったとしたら、それは「大きな生態系」を進化させる行動です。「U理論」は、そう考えます。

 つまり「問題を引き起こしている犯人は自分でもある」という自覚を持ちながら実践していくことが、「U理論」における「真の実践」になるのです。


まとめ

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シャーマー博士

社会的な場(ソーシャル・フィールド)変容は単に感動的な瞬間にとどまるのではない。それが起こったとき、往々にして、個人のエネルギーや意識は最高レベルにまで高められ、その人の真正さや存在が持続的に深みを帯びるようになり、進むべき方向が鮮明になる。

『U理論(第二版)』 (英治出版)p329

 シャーマー博士の言葉は、机上の空論ではなく「現場」から生まれたものです。世界の紛争地域や対立の深まった企業組織で、怒りと憎しみの錯綜する「対話の場」をファシリテートした経験が「U理論」を確かなものにしています。

 「U理論」は、「真正の自己」(オーセンティク・セルフ)という「目に見えない存在」を前提としているため、「そんな非科学的なことは信じられない」と拒絶する人もいます。「場」にエネルギーが満ちても「そんなのただの偶然じゃないの」とせせら笑う人もいます。

 でも、芸術家やカウンセラーや優れた経営者たちなど、自分の力ではない、何らかの力が働ていて、難しい問題を解決していくことを実感している人たちは、「よくわかる」と納得します。

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まっつん

 私はカウンセラーとしても活動しています。カウンセリングで、何かが変化していく時、そのきっかけとなる出来事は、面談を開始した時とは、まったく想像のつかないものとなることが多いのです。

それは「ただの偶然」かもしれませんが、「偶然」が起きるのであれば、「偶然」に身を委(ゆだ)ねるのもひとつの手です。いや、「委ねる」というより、「偶然を信頼する」という表現の方がしっくりきます。

 心理療法の現場における「偶然の一致」を深層心理学者ユングは「シンクロニシティ」と名付けました。夢の内容について相談者と話している時に、夢に出てきたコガネムシが窓から飛び込んできたことがありました。その季節には、いるはずのないコガネムシだったのです。その出来事をきっかけにして、相談者の症状が快方に向かいます。

 こうした偶然の出来事が、一度や二度なら、ユングも「それはただの偶然」と片付けていたでしょうが、あまりにも頻繁に起きるので、学術的な概念として発表し「シンクロニシティ」という言葉になって、後世に引き継がれてきたのです。

 ユング派の心理療法家であった河合隼雄氏は、「シンクロニシティ」「意味のある偶然の一致」と訳しています。

 「U理論」における素晴らしい偉業が「ただの偶然」であっても、それが大きな生態系を進化させる「意味のある偶然の一致」であることに変わりはありません。それが、未来のために「よりよい結果を生む、よりよい選択」であるならば、「真正の自己」に問いかけ信頼してみる価値はあります。

 「U理論」が適切かどうかを問うよりも、「U理論」でなくてもよいので、よりよい未来に向けて「実践」していくことが大事です。

(文:松山 淳)