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苦しみを乗り越える3つの心理戦略

苦しみを乗り越える3つの心理戦略

 新型コロナウイルスが日本で広がり、2020年3月7日、「緊急事態宣言」が7都府県(東京、埼玉、千葉、神奈川、大阪、兵庫、福岡)に出されました。感染リスクの高まる緊張度の高い社会となり、ストレスから強い不安感や息苦しさを感じる人が増えています。また、経済的な打撃から逆境に陥っている人も多くいます。今、この国は「苦しみ」が感染拡大する社会になっています。

 そこで、かつて多くの苦しむ人と対峙した精神科医神谷美恵子さんの言葉を軸に、苦しみを乗り越える考え方を3つの心理戦略にまとめ、お話ししていきます。

まっつん
まっつん

 本コラムの「転載・引用」に許可はいりません。このご時世です。何かお役に立ちそうであれば、自由に使ってください。

3つの心理戦略

Step1: 【受容】「苦しみ」引き受ける!
Step2: 【発見】「苦しみ」の中に意味と価値を発見する!
Step3: 【行動】「どうするのがよいことなのか」を問い行動する!


Step1.幸運の「引き寄せ」ではなく苦しみの「引き受け」

 精神科医神谷美恵子さんの『こころの旅』(日本評論社)に、こんな一文があります。

神谷美恵子の言葉

「あまりに能率よくすらすら生きてしまうより、生命をひとこまずつ、手づくりでつくりあげて行くような骨折りを重ねて生きて行くときのほうが、こころのゆたかさというものも現れやすいだろう」

『こころの旅』(神谷美恵子 日本評論社)

 できれば、骨折りは重ねたくないですし、苦労もしたくありません。苦しみなどごめんです。スラスラと楽に生きられるなら、スラスラ生きてみたいです。そう考えるのは、人の正直な気持ちです。

 ところが、スラスラと生きたいのに、ズルズルと人生の坂をくだっていくような…そんな骨折りを重ねる時期が、訪れることもあります。

まっつん
まっつん

 日経新聞の名物コーナー『私の履歴書』では、社会的に知名度の高い「人生の成功者」たちが、自身の半生をふりかえっています。それを読むと、誰もが、大きな病に倒れたり仕事で大失敗をしたり、何らかの挫折を味わっていることがわかります。

 世界の「ホンダ」をつくった本田宗一郎さんには、家財道具を売って生活する極貧の時期がありました。太平洋戦争が勃発し、仕事がなくなったためです。京セラ創業者稲盛和夫さんは、創業間もない頃、若手社員に労働争議をしかけられ「何のために会社をつくったのか」と、深く苦悩したことがあります。

 成功者と呼ばれる人でも、骨折りを重ねながら生きてきたのです。

苦しみのある人生が、普通。

 『スター・ウォーズ』の映画監督ジョージ・ルーカスに多大な影響を与えた神話学者のジョーゼフ・キャンベルは、『神話の力』(早川書房)にこう書いています。

ジョーゼフ・キャンベルの言葉

「苦しまなくても生きていける、と言っている神話には、一度も出会ったことがありませんね。」

 『神話の力』(ジョーゼフ・キャンベル 早川書房)より

 神話は「人間の原点」であり、「人生の縮図」だと言われます。

 神話には「善と悪」「闇と光」「清と濁」が、ストレートに描かれています。親が子を殺すこともあり、現代の倫理観から考えると、ずいぶんと人の道から外れる極悪非道の話しもあります。でも、戦争も殺人もある倫理の通用しない今の世界を考えれば、「神話」は「人生の真実」を描写しているといえます。

 苦しまなくても生きている人生などない。それが「人間の真実」。

 そう考えると、世界中の神話を研究したキャンベルの言葉は、私たちに辛い現実を突きつけているのではなく、「苦しむのは普通のこと」と、いい意味での「割り切り」を促し、勇気づけていることがわかります。

「これも、誰もが通る道か」

 そんな風に、「苦しみ」を拒絶するのではなく、「自分に与えられた人生の宿題」「これも定め」と「引き受け」ていくようにと、キャンベルは私たちの背中を押しているのです。

 苦しみを乗り越えるキーワードは「引き受け」。

 「引き受け」とは、認めることです。「苦しみがあるのが普通のこと」「誰もが通る道」「自分だけじゃない」と肯定することです。

 「苦しみ」を否定し拒絶すればするほど、「苦しみ」の感覚は、より大きくなっていきます。逆に、引き受けていくと「苦しみ」はおさまっていくのです。「それが普通」と思えば、平常心を取り戻せます。

引き受けることは、自分にコントロールできる。

 苦しい状況にある時、「苦しみ」から逃れたいがために、人は幸運を引き寄せようと考えます。すぐに幸運な現象が起きればいいです。でも、結果がなかなか出ないと、「苦しみ」と「幸運」は対立する概念ですので、「やっぱり私は不運だ!」と、「不幸なわたし」を考える時間が多くなってしまいます。

 すると、「いろいろやってるのに何も変わらないじゃないか」と、「苦しみ」は、より大きくなってしまいます。

まっつん
まっつん

 幸運の引き寄せで、幸運になるかならないかは、運任せ天任せの部分が多く、自分にコントロールできません。でも、「引き受け」は、自分の意思や認知の問題に過ぎないので、コントロールが可能です。コントロールできることに取り組んでいると、小さな達成感から心にエネルギーが充電されます。生きる力が湧いてきます。

 ですので、苦しい逆境の時には、「幸運の引き寄せ」ではなく「苦しみの引き受け」をすることが、ファースト・ステップになります。

 幸運の「引き寄せ」を否定しているのではありません。苦しい状況が続いている時に、「苦しい」という感情がわき起こるのを少しでも減らすための考え方です。

 「苦しみ」は、時に、人から急速に「生きる気力」を奪い大きな悲劇に至ることがあります。ですので「苦しみ」の感情を少しでも減らすことが、「はじめの一歩」となります。

イチロー選手は、こんな言葉をのこしています。

Ichiro Suzuki on June 10, 2009.
イチローの言葉

やっている最中にプレッシャーからときはなたれることは不可能です。そこから抜けだす方法はない。苦しみを背負ってプレイするしかありません」

 『夢をつかむイチロー262のメッセージ』(ぴあ)

 これもイチロー流の苦しみの引き受け方ですね。


Step2. 苦しみのなかに意味や価値を発見する

神谷美恵子の言葉

「あまりに能率よくすらすら生きてしまうより、生命をひとこまずつ、手づくりでつくりあげて行くような骨折りを重ねて生きて行くときのほうが、こころのゆたかさというものも現れやすいだろう」

『こころの旅』(神谷美恵子 日本評論社)

 さて、神谷医師の言葉をもう一度見ると、最後にメリットが提示されています。「こころのゆたかさというものも現れやすい」「よいこと」が書かれています。

 骨折りを重ね苦しみを味わうことは、それで終わりではないのです。苦しみを味わった結果として、「こころのゆたかさ」という「メリット」が現れてくる可能性があるのです。

「ベネフィット・ファインディング」とは

 スポーツや武道に限りませんが、仕事でも芸事でも「技能を高める」というメリット受け取ろうとしたら、厳しく苦しい練習や稽古を積まねばなりません。オリンピック選手やプロスポーツのトップアスリートたちが、よくこういいますね。

「練習は裏切らない」

 厳しく苦しい練習は誰もが嫌なものです。でも、練習には、それをする意味や価値があるため、アスリートたちは真剣に取り組みます。練習の意味や価値とは、苦しむことで「勝利」という結果を手にする可能性が高まることです。だから、アスリートたちは、「練習は裏切らない」と自分に言葉をかけ、苦しみにも意味や価値があることを信じ切るのです。

 これを心理学で「ベネフィット・ファインディング」(benefit finding)といいます。

ベネフィット・ファインディング

「ベネフィット・ファインディング」(benefit finding)とは、辛く苦しい逆境のなかに意味や価値を発見していくこと。

 ナチスの強制収容所を生き延びた心理学者フランクルは「どんな時にも生きる意味がある」といいました。苦しい逆境をくぐり抜けた人が、よくいいます。

「あの苦しい体験にも意味があった」
「あの逆境があったから今がある」

 そうはいわれても、逆境の真っ只中にあって、「この状況にも意味がある」「この経験も決して無駄にならない」と言われても、なかなかピンとこないものです。「そんな誰でも言える、月並みな理想論なんか聞きたくない」と、怒りの感情が湧いてくることもあります。

 ただ、何かしら考え方を変える心理戦略をとらないと、苦しみに飲み込まれ、現状を悲観するばかりになってしまいます。悲観が強くなると、行動する力がどんどん落ちていき、逆境を打開することができなくなります。

 ですから、「今、置かれた苦しい状況に《意味》や《価値》がある」と考え方を変える「ベネフィット・ファインディング」(benefit finding)が大切になるのです。

イチロー選手のベネフィット・ファインディング

 あのイチロー選手も、「ベネフィット・ファインディング」(benefit finding)の考え方をもっていました。

イチロー選手の言葉(引退記者会見)

「少しずつの積み重ねでしか、自分を超えていけないと思っているんですよね。一気に高みにいるとすると、今の自分とギャップがありすぎて、それを続けられない。地道に進むしかない。ある時は後退しかしない時もあるので、自分がやると決めたことを信じてやっていく。でも、それは正解とは限らない。間違ったことを続けているかもしれない。遠回りをすることで、本当の自分に出会えると思っている。

【イチロー節全開84分深夜の引退会見/全文一気読み】『日刊スポーツ』(2019年3月22日)

 あの天才イチロー選手ですら苦しい時期がありました。スランプから抜け出せず、ベンチを温めつづける時がありました。でも、そんな苦しい「遠回り」の時があってこそ、「本当の自分に出会える」という「価値」を見い出そうとしていたわけです。

 遠回りにも価値がある。

 イチロー選手の思考プロセスが、まさに「ベネフィット・ファインディング」(benefit finding)です。

 冷静に落ち着いて、今の状況に「意味」や「価値」を発見していきましょう。その考え方が、苦しい状況を乗り越えていく時の「心の力」になります。


Step3.「どうするのがよいことなのか」を問う。

神谷美恵子の言葉

「こちらにたえず挑戦してくるようなものが、かえってこちらの力をひき出してくれる。苦労を伴っても、新鮮なおどろきやよろこびを約束してくれる。そういうものがないと、おそらく人間は退化していくだろう」

『人間をみつめて』(神谷美恵子 みすず書房)より

 神谷医師は最後に「人間は退化していくだろう」と書いています。否定的な表現ですが、その前の言葉「そういものがないと」を「そういうものがあれば」にひっくり返せば、「人間は成長していくだろう」と前向きな表現になります

 生きるのが苦しい「逆境」に陥るとは、「こちらにたえず挑戦していくるもの」に無理にでも向きあわされることです。しかし逆境とは、ただ苦しいだけではなく、「力を引き出される」状況でもあるのです。そしてもし、力が引き出され、自分が成長できたら、それは「新鮮なおどろきやよろこび」となって、人生に大きな実りをもたらすのです。

「PTG」(心的外傷後成長)とは。

 「PTSD(Post -traumatic stress disorder):(心的)外傷後ストレス障害」といえば、ショッキングな出来事を経験した結果、心に傷を負って、生活に支障をきたすネガティブな症状が出ることです。

 この言葉に対して、阪神淡路大震災や東日本大震災など大規模災害が頻発するする日本では、PTG(Post traumatic Growth):(心的)外傷後成長」という概念が、注目されています。

 「PTG:(心的)外傷後成長」これは「PTSD」」になる辛く苦しい経験を乗り越えて、人間的に大きく成長することです。阪神淡路大震災や東日本大震災を経験した子どもたちが、現在、健康に成長している事実が「PTG:(心的)外傷後成長」を証明しています。

苦しみを乗り越える人は、行動しつづける。

 本田宗一郎さんがホンダを創業したのは、極貧生活をくぐり抜けた後でした。厳しい状況に置かれて、起業のアイデアを練っていたのです。稲盛和夫さんは、若手社員に労働争議をしかけられ「会社とはどういうものでなければならないか」と苦悩します。その後に「経営理念」を考えつくのです。

稲盛和夫
稲盛和夫
京セラ経営理念

「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」

 労働争議があったのは創業3年目、1961年(昭和36年)のことです。半世紀以上の時が過ぎ、今も変わらない京セラの理念です。


苦しみを乗り越える人の共通点

 苦しみを乗り越えていく人に共通していることは、「苦しみ」を受け入れ、苦しみを抱えながらも、「行動」していることです。何とかその状況を打開しようと動き続けているのです。

苦しい時には「なぜ?」と問わない。

 苦しい状況に陥ると人は、「なぜ、自分がこんな目にあうのだ」と、その原因を分析しようとして「なぜ?」が口癖・考え癖になりがちです。「なぜ?どうして?こんな苦しい目にあななければならないんだ…?」。

まっつん
まっつん

 「なぜ?」と問いかけ、原因を分析することは、とても大切なことです。でも、苦しい状況にある時、「なぜ?」に対する明確な答えが見つからず状況が変わらないと、「なぜ?」と問うことが堂々めぐりになって気分が滅入ってきます。どんどんブルーになってしまい、行動する気力が奪われます。これでは悪循環です。

 ですので、苦しい状況にある時は、「なぜ?」と問うことはやめたほうがうよいのです。

 コーチングでも、「なぜ?」は、あまり「使わないほうがよい」とされている質問です。苦しい状況になった原因は、複雑であり、そんな簡単に論理的な答えを出せないからです。答えが出なければ、ますます苦しくなります。

 ですので「なぜ?」と問うのはでなく、こう自分に問いかけてください。

 今の状況を打開するために、どうするのがよいことだろう?

 「Why」ではなく「What」です。

 行動に焦点をあてまるのです。どんな行動をとるのがベストなのかを考え、行動することに意識を集中するのです。

 苦しい状況では、苦しいという「感情」に焦点があいがちです。「苦しみ」が気力を奪っていくように感じられます。確かに、「苦しみ」は気力を奪うのですが、「苦しみ」に焦点があたっているから気力が奪われるのです。

 「苦しみ」という感情をネガティブな感情と捉えて、「苦しみ」にチャンネルがあっているから、気分がどんどん滅入って行動するエネルギーがなくなるのです。

 だから、「苦しみ」から「行動」に焦点をあてます。今、置かれている苦し状況下で、「やるべき最善のこと」「すべき最善のこと」を考えるようにして、思いついたことを、こなしていくのです。

 それはどんな些細なことであってもいいのです。トイレ掃除するとか、誰かにメールするとか、とにかく「動く」のです。なぜなら、この世界の法則を解き明かす「複雑系の科学」でいわれる「バタフライ効果」が真理としてあるからです。

バタフライ効果

「バタフライ効果」とは、小さな変化が大きな変化を引き起こすこと。

 小さな蝶(バタフライ)の羽ばたきが、ハリケーンの進路に影響を与えうることが計算上は成り立つといいます。そこから「バタフライ効果」といいます。小さなことは、私たちが考えている以上に、影響を及ぼしているのです。

 だとすれば、動くことです。動けば変化が起きます。

 だから「なぜ?」を自分に問いかけ、ブルーになるのではなく、「どうするのがよいことなのか」と自分に問いかけ、その問いによって生まれたアイデアを実践していくのです。

苦境を人間的な偉業に

 ナチスの強制収容所を2年8ヶ月もの間、耐え抜いた心理学者フランクルは、こんな言葉を残しています。

フランクル
フランクル

「ここで一番大切なことは、ユニークな人間の可能性の最高の形を見つめ、その証人になることであり、悲劇をその人にとっての偉大な勝利に変えることであり、苦境を人間的な偉業に変えていくことである。

『夜と霧』(V・E・フランクル みすず書房)

 新型コロナウイルスが世界に与えている影響は計り知れないものがあります。経済的な打撃は、「100年に1度の危機」といわれたリーマンショック以上だといわれます。

 でも、フランクルが地獄の苦しみを味わったナチス強制収容所を乗り越えたように、私たちもできるはずです。

 悲劇を偉大な勝利に変えましょう。
 苦境を人間的な偉業に変えましょう。

3つの心理戦略

Step1: 【受容】「苦しみ」を引き受ける!
Step2: 【発見】「苦しみ」の中に意味と価値を発見する!
Step3: 【行動】「どうするのがよいことなのか」を問う!

 この3つの心理戦略で、今ある苦しみを乗り越えていきましょう。世界的危機といわれるパンデミックを終息させ、歴史の目撃者になりましょう。

(文:松山 淳)