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レジリエンスとはー『NARUTO -ナルト-』に学ぶ折れない心のつくり方

レジリエンスとはー『NARUTO -ナルト-』に学ぶ折れない心のつくり方

『NARUTO-ナルト-』について

 1999年から約15年にわたり『週刊少年ジャンプ』に連載された忍者漫画『NARUTO-ナルト-』(岸本斉史 集英社)は、日本だけでなく海外でも絶大な人気を誇ります。

 30カ国以上の国で翻訳出版され、80カ国を越える国でアニメ放映されました。2006年には、漫画のキャラクターとして「世界が尊敬する日本人100」(ニューズ日本版)に選出されています。

NARUTO -ナルト- 1』(岸本斉史 集英社)
『NARUTO -ナルト- 1』
(岸本斉史 集英社)
表紙の人物が「ナルト」

 物語の主人公は「うずまきナルト」です。そのライバル「うちはサスケ」、ナルトが想いをよせる「春野サクラ」、忍術学校の先生「はたけカカシ」、ナルトの師匠「自来也」など、ユニークなキャラクターが数多く登場します。

 「尾獣」といわれる巨大な魔獣も現れ、超常的な戦闘シーンが魅力です。また、敵味方にまたがる師匠と弟子、兄と弟の確執など、人間ドラマの要素がストーリーの核となり物語に深みを与えています。

漫画『NARUTO -ナルト』はレジリエンスの参考書。

 生死にかかわる酷い戦いを通して、体と心を傷つけながらも少年少女たちはたくましく成長していきます。

 逆境を乗り越え成長していく物語は、「逆境力」「精神的回復力」と訳される「レジリエンス」の参考書になりえます。

まっつん
まっつん

 企業においてメンタルヘルスの問題が顕在化して、会社側は、鬱病の社員が発生してから対応する対処療法的な施策から、「心の病に」陥らないために何をすればよいのか、その予防策を啓蒙する活動へと施策をシフトしています。

 メンタルヘルス施策の一環として「レジリエンス」に関する研修を行う企業も増えています。そこで、『NARUTO -ナルト-』に登場するキャラクターの言動を軸にして「レジリエンス」について解説していきます。


「レジリエンス」とは心のしなやかさ。

 レジリエンス(resillience)は、本来「弾力性」を意味する英語です。これが「心の弾力性」を意味し、心理学の用語として広く知られるようになりました。レジリエンスとは、辛い状況からの「精神的回復力」のこと。また、「折れない心」「逆境を生き延びる力」といった広い意味で使われることもあります。

レジリエンス研究の始まり。

 レジリエンス研究の発端は、1940年代まで遡ります。第2次世界大戦中、ナチス・ドイツが行ったホロコースト(組織的大量虐殺)があります。「20世紀最大の悲劇」と言われ、罪なき多くのユダヤ人が命を失いました。

"Selection" of Hungarian Jews on the ramp at Auschwitz-II-Birkenau in German-occupied Poland, May/June 1944,
ユダヤ人とナチスの親衛隊
“Selection” of Hungarian Jews on the ramp at Auschwitz-II-Birkenau in German-occupied Poland, May/June 1944,

 この残虐な悲劇を生き延びた子どもたちがいます。孤児たちのその後を調査すると、心に何らかの問題を抱える人がいる一方で、過去にとらわれることなく幸せな人生を歩む人がいました。後者はまさに「レジリエンス」の高い人といえます。

 では、なぜ、その差が生まれたのでしょうか?

レジリエンスの高い人たちに共通すること。

 1970年代、研究が深まると「レジリエンス」の高い人たちに共通する「ある傾向」が明らかになりました。それが「思考の柔軟性」です。

「レジリエンス」のある人は考え方が柔軟である。

 思考が硬直化していると、今の苦しい状況が人生の全てだと思えて、未来に希望を見出せなくなります。結果、心が折れてしまいます。

 ですが、レジリエンスの高い人たちは、苦しく辛い否定的な状況にあっても、それが全てだと思わずに、他の可能性に心を開き「肯定的な側面」を見つけ出していきます。ですので、心が折れないのです。

「この辛い経験が自分を成長させてくれる」
「苦しい今にも意味があるはずだ」
「逆境とは自分をたくましくしてくれるチャンスなんだ」

 そんな風に考えれば、苦しみに飲み込まれても、心が折れることなく、たくましく生きていけます。心の強さとは、鉄のような硬さではなく、台風が来ても右に左に揺れながらその茎が決して折れない雑草のような「しなやかさ」にあるのです。


「レジリエンス」とは心のしなやかさ。

『NARUTO -ナルト- 15』(岸本斉史 集英社)
『NARUTO -ナルト- 15』
(岸本斉史 集英社)
表紙左が「我愛羅」

 主人公ナルトの体には「尾獣」のひとつ「九尾の妖狐」が封印されています。「尾獣」を宿す者を「人柱力」(じんちゅうりき)といいます。ナルトと敵対する「砂隠れの里」の忍者「我愛羅」もまた「人柱力」であり、恐ろしい力をもっています。我愛羅は、ナルト、サスケ、サクラとの激闘シーンでこう言っています。

自分だけを愛してやればいい!
自分のためだけに戦え!
それが一番強い者の定義だ!

『NARUTO -ナルト- 15』(岸本斉史 集英社)p119

 圧倒的な強さを見せる「我愛羅」の前に、3人は追い込まれていきますが、ナルトは傷だらけになりがら、呟きます。

 「自分だけのために戦ったって本当に強くなんかなれねェんだ…」

『NARUTO -ナルト- 15』(岸本斉史 集英社)p139

 そして、漫画『NARUTO -ナルト』の名言として、とても有名な「雪一族」の「白」(ハク)の言葉を思い出します。

「人は大切な何かを守りたいと思った時に 本当に強くなれるものなんです」

『NARUTO -ナルト- 15』(岸本斉史 集英社)p140

 日本において、「レジリエンス」がクローズアップされるようになったきっかけは、2011年3月11日に発生した東日本大震災です。多くの人が逆境に陥り強いストレス下におかれました。

 その年の12月、清水寺で発表された「今年の漢字」は「絆」でした。ボランティアや募金活動など、互いに手をとり支え合い、多くの人が見えない「絆」でつながり、「大切な人」「大切な何か」を守ろうと、逆境を乗り越えていきました。

「心を支える杖」は「大切な人」「大切な何か」で強くなる。

 心が折れそうな悩みを抱える時、人は「心の視野」が狭くなります。自分の苦しみだけに目が向き、殻に閉じこもってしまうのです。他人との「絆」を断ち切って、孤独を選んでしまうことも多くあります。

 すると「思考の硬直化」が起きて、「苦しみ=人生」となって余計に苦しくなります。「自分のためだけ」に戦おうとする「我愛羅」と同じ心理状態です。

まっつん
まっつん

 辛く苦しい日々にあっては、「人のために」「何かのために」という感情を意識することは、なかなか難しいものです。とにかく早く楽になりたいという気持ちが強く働き、自己の欲求が優先されるからです。これは自分の命を守るための「自己防衛心理」であり、とても自然のことです。

 ただ、自分の欲求だけを満たそうとする考え方では、「レジリエンス」は高まりません。

 なぜならば、自分で自分を支えることには限界があり、自分以外の他の要素(大切にしたい人、大切な何か)を足すことで「心を支える杖」は、より強くなるからです。

 親、恋人、妻、子ども、友人、仲間、恩師、お世話になった人など、どんな人でも「守りたい人」が誰かしらいるでしょう。この国(日本)、故郷、会社、学校など「守りたい何か」を持っている人もいるでしょう。

自分以外の誰かや何かに心の目が向けば、心の視野は広がり「思考の柔軟性」を回復できます。

 そのためには、じっくり時間をとって自分に向き合い、自分にとっての「心を支える杖」を明確にすることが必要になります。

あなたにとって「大切な人は誰ですか?」「守りたい人は誰ですか?」
あなたにとって「大切なものは何ですか?」「守りたいものは何ですか?」

 そんな問いを自分に投げかけて、「大切な人」「大切な何か」を文章にしたり、他人と語り合うことができるといいでしょう。

 「心を支える杖」が明確になればなるほど、「思考の柔軟性」は回復し、結果、レジリエンスは強化されていくのです。「折れない心」は、そうして作り上げていくことができます。 


ベネフィット・ファインディングで強くなる

 ナルトのライバルにして最大の敵は「うちはサスケ」です。「サスケ」はナルトの仲間でしたが、物語の途中から敵になってしまいます。

 「サスケ」は深い憎しみにとらわれ生きるキャラクターです。憎しみの原因は、サスケの兄イタチにあります。イタチは自身の家系である「うちは一族」を皆殺しにしたのです。自分(サスケ)の親までも殺害しました。サスケは親を殺した兄を憎み、兄を殺すため、復讐のために生きていたのです。

 まだサスケが「木の葉隠れ」の忍者でナルトの仲間だった頃です。サスケは宿敵「我愛羅」を倒し、ますます強くなるナルトにいら立ち、喧嘩を吹っかけます。

『NARUTO -ナルト- 20』 (岸本斉史 集英社)
『NARUTO -ナルト- 20』
(岸本斉史 集英社)
表紙左がサスケ

「サスケ」を救ったカカシ先生の名ゼリフ。

 この仲裁に入ったのが、忍者学校のカカシ先生です。先生は親を殺されたサスケの辛く苦しい過去を知っています。忍者同士が敵味方にわかれて対立し、命をかけて戦う戦争の時代です。カカシ先生も大切な人を失っていました。先生は、憎しみに支配されるサスケを静かに諭します。

「オレもお前より長く生きてる 時代も悪かった 失う苦しみは嫌ってほど知ってるよ  

ま!  

オレもお前もラッキーな方じゃない… それは確かだ でも最悪でもない」

『NARUTO -ナルト- 20』(岸本斉史 集英社)p113

 サスケはこの言葉を聞くとハッとした表情をみせ、そして落ち着きを取り戻すのです。

 誰もが辛い状況に陥ることがあります。心が折れそうになる時、自分で自分のことを、あるいは自分の置かれている状況や環境を「最悪だ」と決めつけてしまうことが多いですね。

レジリエンスの敵は、「決めつけ」「思い込み」。

 「最悪だ」と決めつけ、そう思い込めば、実際に「最悪」なのですから、心は疲弊していくばかりです。この「決めつけ」「思い込み」「思考の硬直化」です。レジリエンスの大敵です。

 そこで「レジリエンス」、つまり、「思考の柔軟性」が求められるのですが、そのお手本がカカシ先生セリフですね。

「ラッキーじゃないけれど、最悪ではない」

 このカカシ先生のセリフのように思考を柔軟にできれば、「決めつけ」「思い込み」から距離をとることができ、少しでも心にエネルギーを充電することができます。

現実は解釈によって決まる。

『NARUTO -ナルト- 42』(岸本斉史 集英社)
『NARUTO -ナルト- 42』
(岸本斉史 集英社)

 物語が進み、ついにサスケと兄イタチが対決することになります。その対決場面で、兄イタチはこう言いました。

「…人は誰もが己の知識や認識に頼り 縛られ生きている

それを現実という名で呼んでな 

しかし知識や認識とは曖昧なモノだ
その現実は幻かもしれない 

人は皆思い込みの中で生きている そうは考えられないか?」

『NARUTO -ナルト- 42』(岸本斉史 集英社)p104

 後にわかることですが、サスケが兄を憎んでいた事実には誤りがありました。その詳細を書くと「ネタバレ」になるので、ここでは控えます。

 ただ、「親を殺した兄」という憎むべき人間像は、サスケの知識や認識に縛られた「決めつけ」であり「思い込み」だったのです。

『NARUTO -ナルト- 43』 (岸本斉史 集英社) 表紙中央「サスケ」 後「イタチ」
『NARUTO -ナルト- 43』
(岸本斉史 集英社)
表紙中央「サスケ」 後「イタチ」

レジリエンスは「ベネフィット・ファインディング」で高まる

 サスケに必要だったのは、「ベネフィット・ファインディング」(benefit finding)です。

 ベネフィット(benefit)とは、「恩恵」や「ためになること」という意味ですね。ファインディング(finding)は「発見」です。

「ベネフィット・ファインディング」(benefit finding)
「ベネフィット・ファインディング」(benefit finding)とは、辛く苦しい逆境にあっても、「決めつけ」「思い込み」という自分の認識に縛られることなく、自分の置かれた状況・現実をとらえ直して、そこに「生きる価値や意味」(ベネフィット)を発見していく心の作業のこと。

 「大切にしたい人」「大切な何か」を明確にすることで「心を支える杖」を強くしていくのも「ベネフィット・ファインディング」です。

 「決めつけ」「思い込み」を疑い、そこに偏った考え方があることを認め、それを修正して、現実の意味をとらえ直し違った見方をしていくのです。

 同じ会社で同じ職場で同じ仕事をしているのに、「最低だ!」「最悪だ!」と、ふてくされ腐ってしまう人がいる一方で、カカシ先生のように「ラッキーじゃないけれど、最悪じゃない」と、現実の解釈をバランスよく整えて、イキイキと働く人がいます。

 もちろんレジレンスの高い人は、後者の人です。「最低、最悪だ」と決めつけてしまうと、それが本人にとっての現実となり、心の折れやすい心理状態を作り出してしまいます。

心の折れない人の特徴

 「レジリエンス」が高く、心の折れない人とは、「ベネフィット・ファインディング」が上手な人。

 どんな状況にあっても別の見方をすることができます。「ベネフィット・ファインディング」によって、現実の意味を再構築することができます。そんな柔軟な思考、しなやかな心がレジリエンスを高め、折れない心をつくりあげていくのです。

(文:松山 淳)

参考文献:『NARUTO -ナルト-』【15巻、20巻、42巻】(岸本斉史 集英社)


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